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Episode.11







 ―――先輩の休暇予定日の一週間前




「あれ?」


 その日は珍しく、先輩が財政部に居なかった。

 俺も行ける日はほぼ毎日出勤していて、その度に先輩も出勤していた。

 先輩が休んでいるところを、俺は見た事が無かった。


「……休暇予定日は来週だったと思うけど…………」


 そう呟いてみるが、俺しか居ない財政部でその言葉の返事は無い。

 予定が少し早くなったのか…………

 でもまぁ、今俺が考えても仕方が無い。

 さってと。今日も仕事しますか!





 ―――昼休み


「あっ、ギニル!」

「ヒリーか、奇遇だな」

「一緒に昼食でも、どうだ?」

「そうだな…………前庭にしようか」


 グリリアさんと会った時からもうかれこれ三か月ちょっと。

 その間もずっと、奴隷解放を続けていた。

 そのおかげで俺とギニルは以前よりも仲良くなり互いにタメ語で話す仲になった。

 この王城という職場の中で、先輩と並んで最も信用できる人物である。


 この王城には、前庭がある。

 前庭と言っても、王城に入って少し進んだ所にある庭なので、()庭とは呼べない。

 だが、此処は一般にそう呼ばれているので、俺もそう呼んでいる。

 庭師さんが丁寧に剪定してくれた草木が対照的に並べられ、お昼頃になると丁度暖かい陽光が射すこの前庭は、一部の人達には穴場となっていた。

 周りを見渡すと、同じ様に昼食をとっている人が何人か居る。

 そこまで広い訳じゃないが、狭いとは言えない中途半端な広さをした此処は、昼食を食べる場所としては最高だった。


 人目のつかないベンチに腰を下ろし、昼食用に買っていたパンを一口咥え、ごくりと飲み込んだ。


「そういやギニル」

「どうした?」

「先輩何処いるか知らない?」


 ギニルには“先輩”呼びで通じる。

 ギニルと先輩に実際の面識があったかは不明だが、俺が先輩の事は話していたので、先輩という人物とその人となりはギニルも知っていた。


 俺の質問に対して、ギニルは遣る瀬無い表情をした。


「知らない、正確には」


 辿々しくギニルがそう言った。


「……正確には、っていうのは?」


 少し深掘りしてみる。


「…………あまりお前は知らない方が良い」

「何で?」

「兎に角、あまり知らない方が良い。世の中、そんな事だらけだよ」



 その後何度も問うて見たが、回答はなし。

 はぐらかされるだけ。

 どうやら、俺の事を想って教えてくれないらしい。

 それは有難いが、教えてくれないこのにはどうやらモヤモヤする。



 だが、ギニルはこれ以上何も話してはくれなかった。







 ―――次の日



 可笑しい。

 明らかに異常だ。

 先輩が只休暇をとっているだけでない事は容易に理解出来た。


 そう。

 朝財政部に来ると、先輩の机が跡形も無くなっていたのだ。

 いつも先輩が座っていた椅子も。

 いつも先輩が仕事していた机も。

 いつも先輩が使っていた書類も。

 いつも先輩が持って来ていたお菓子も。

 何もかもが無くなっていた。

 この財政部の中で、先輩のいた場所だけがぽっかりと空いていた。


 …………一体何があった?

 先輩が休暇をとっているだけなら、机を片す必要など無い。

 だが現に先輩の私物は消え、先輩も居なくなった。

 異常だ。

 何かが起きている。

 だが俺は想像することしか出来ない。


 今日もいつも通り仕事…………とはいかなかった。

 どうも先輩が気になる。

 こんな自分にも真摯に向き合ってくれた大切な人である。

 そんな恩人を心配するのは当然の事。



 結局この日の仕事は全く捗らなかった。





 ―――





 そして三日が経った。

 今日は俺も休暇である。

 っていうか、強制的に休暇させられた。

 どうやらこの時期、学校を卒業した生徒がやって来て王城へ勤めようとする元学生が多くなるらしい。

 そして今日はその新入社員へのガイダンスがある為、関係のない俺は休暇を命じられた。


 そしてこの日は、先輩の息子の入学式の日であった。


 

 折角の休みなので、俺は今、市場に来ている。

 アンは家で勉強中だ。

 何でも、今いっぱい勉強して、将来はお父さんの為に頑張りたいから……らしい。

 なんて可愛い子なんだ!

 思わず抱きしめちゃうね!


 そして、市場を歩いていた時。

 背後から一台の馬車が来た。

 皆道を開けて、馬車の邪魔にならない様にした。

 馬車にわざわざ轢かれようとする輩は居なかったらしい。

 どうやらその馬車は、後ろに奴隷を乗せた馬車らしい。

 馬車に取り付けられていたのは、一般的なキャリッジではなく、牢屋だった。

 あんなもの、奴隷を郵送している事以外何も考えられない。


 …………この人達も助けられたらな…………


























 は?




















 確かに、帝国人もビルクダリオも、服装を変えれば瓜二つになるのだ。

 当然、ビルクダリオが値段が高い格好をすれば、世間からはただの帝国人として接せられる。

 それ程までに、違いがないのだ。

 そう、違いがない。



 ならば、帝国人をビルクダリオの様にする事も出来るのではないか。

 それがもし本当ならば、帝国人とビルクダリオの格差などないに等しいものとなる。

 だが、それを納得せざるを得ない。



 馬車が俺の横に止まった。

 そして、運転員の帝国人は昼食を買いに行っていた。

 そして俺は目を合わせた。



 巫山戯るな。

 巫山戯るな。

 このクズ野郎め。

 何故こんな事をした?

 こんな事をして何になる?

 只の自己満足か?

 あぁ、ならば今の俺を見て笑っているだろう。

 糞野郎が。

 糞野郎が!

 ふっざけんなよ!!

 

 …………狂っている。

 もう嫌だ。

 目を逸らしたい。

 でも、逸らす事が出来ない。

 怖いのだ。

 この狂人の戯れに、俺は畏怖しているのだ。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。




 こんな現実………………あんまりだ。
































「後輩…………ちゃん……………………?」






















 















 その檻の中には、麻の布を纏った、かつての先輩がいた。

















キャリッジ:馬車で言うところの、人が乗る部分の名称

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