表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
150/267

Episode.5





 


 



「大丈夫だった? 何もされなかった?」


 上司がまぁまぁ大きな声でそう言いながら、俺の体をベタベタ触る。


「大丈夫、大丈夫ですから! そんなに触らないでください!!」

「あっ、ごめん…………」


 少し赤面しながら、上司は後退した。


 アンを貰い家に帰った時、上司に会わずにそのまま帰ってしまったので、上司は酷く心配したらしい。

 ちなみに今アンは、家にバルフィールと一緒に居る。

 俺が「仕事に行く」と言うと、「なら俺がアンちゃんの面倒を見ておくよ」と快く引き受けてくれた。

 いずれ一人で留守番できる様にしなきゃだけど、初めのうちは誰かがいてくれた方が良い。

 バルフィールには感謝だな。


 そして今、上司に心配されている。


「…………で、王室で何があったの?」


 なんか、俺が怒られているみたいに、上司は俺に訊いた。


「えーっと、国王様に『お前の仕事は素晴らしい』って褒められました」

「…………それだけ?」

「…………………………まぁ……」


 アンの事は黙っておきたい。

 もし話したら、上司が俺の事を心配している姿が容易に想像できる。

 これ以上上司のストレスを増やしたくは無かった。


「…………嘘」


 バレてしまった。

 さて、どうするか。


「…………嘘って、何がです?」

「それだけで終わる筈が無い。絶対何かあった」

「何も無いですって!」

「いいや、絶対あった。言ってみ?」

「いやだから、無いですって!」

「うっそだ!!」


 もうどうしようもないらしい。


「………………奴隷を……貰いました」

「え?」


 俺の言葉に、上司は驚愕した。


「八歳位の女の子です」

「いやいや、そう言う問題じゃなくて。えっ? 奴隷を貰ったの?」

「…………はい」


 それを聞いて、上司は深いため息を吐いた。


「…………で? 後輩ちゃんはその子をどうするつもりなの?」

「………………自立できるまでは育てたいな……と」


 再び上司はため息を吐いた。


「つまり、家で飼う訳ってことね」

「飼うんじゃありません。一緒に暮らすんです」


 上司に否定の言葉をぶつけるのは嫌だが、その“飼う”という表現は嫌だ。


「あっそ。まぁ、精々仕事に支障をきたさない様にね」


 そう言って上司は、席に戻った。


「あ、あと。その奴隷ちゃんに、情を移しちゃ駄目だよ」

「何故です?」

「……良いこと無いから」


 少し小さな声でそう言い、上司は仕事に戻った。


 上司と少し、距離ができた気がした。





「ただいまー」


 そう言いながら俺が扉を開けると。


「お父さーん!!」


 そう言いながら、アンが抱きついて来た。

 何とも可愛い奴だ。


「おかえり」


 するとその後ろから、バルフィールが顔を覗かせた。

 よく見ると、バルフィールの前にある机の上に、ノートが一冊置かれてあった。


「二人で何をしてたんだ?」


 そう訊くと。


「おじさんに文字教えて貰ってたんです。何個か書けるようになりましたよ」


 ドヤ顔をしながら、アンはそう言った。


「おう、えらいえらい」


 そう言って頭を撫でてやると。


「えへへへへ」


 少し照れながら、アンは笑った。

 やはりどうやっても、俺にとってアンは、只の女の子にしか見えない。

 どうも、皆が卑下する奴隷だとは見えない。



 俺が帰ったので、バルフィールも帰って行った。

 夕ご飯を食べたら、アンが学んだ文字を見てやらないとな。

 褒めたらアンはどんな反応をしてくれるのだろうか。

 笑ってくれるのかな。

 そのまま、「お父さん大好き!」とか言ってくれるかな。

 いや、それは流石に無いか。

 ってか、そんな妄想をするとか、俺も大分と気持ち悪くなって来たな。

 今なら、世の親バカの気持ちが分かる気がするよ。

 でもまぁ、こんな俺なんかより、よっぽど子育て上手いんだろうな。

 いつか俺もそうなれたら良いけど…………















 そうして暮らし始めて二ヶ月が過ぎた。

 アンも一人で留守番ができるようになり、この生活にも慣れてきた。

 家の掃除やご飯などを当番制にし、出来るだけアンと俺を対等な立場で暮らそうと心がけた。

 そのおかげか、アンもだんだん俺に対して反抗するようになった。

 反抗と言っても、世の思春期っ子の反抗期とは違う。

 只、俺の意見に対して「それは駄目です」とか、「嫌です」とか、遠慮なく言う様になった。

 親としては嬉しい限りだ。


 そして、今日も今日とて出勤出勤。

 結局あの後、何だかんだ知らぬ間に仲直りした様で、前と同じ仲良し上司後輩になっている。

 時間が解決するとは正にこう言うことだな。



 季節は冬。

 辺りは銀世界へと姿を変え、白い息を見て一年の終わりを悟っていた。

 そんな時の、財政部。


「そういやさ、私結婚してるのよ」

「え゛」


 突然上司がそう言った。

 それに対して俺が変な声を出してしまった事には、目を瞑っていてほしい。


「あれ? 言ってなかったっけ」

「初めて聞きました」

「ほら、指輪」

「あー、本当だ」


 上司の左手薬指には、少し控えめな指輪が填められていた。


「それでね? 息子がね」

「息子さんも?!」

「え?」

「え?」


 まさか子供も居ただなんて。

 何だ? 今日は。


「これも言ってなかったっけ」

「まぁ、結婚している事を知らなかったら、子供さんも居るなんて知ってる筈ありませんしね……」

「そっか、言われてみれば」


 …………何なんだ、今日は。


「それでね? 今夫も息子もサルラス帝国に居るんだけど、息子がね? 後四ヶ月後、学校に入学するのよ!」

「そ、ソウナンデスネ」

「だからね、四ヶ月後は何日か仕事休むと思うから、宜しく」


 今日の上司は機嫌が良い。

 何かあったのか?

 でもまぁ、こんなに嬉しそうに何かを話す上司は初めて見た。

 息子の入学が嬉しいのだろう。


 でも、何でわざわざそんな先の休暇宣言を今するんだろうか。


「何でそんな先の事を今?」


 訊いてみると。


「何となく、話したかったから。ほら、良いニュースってさ、人に話したくなるじゃない? あれよ、あれ」

「はぁ…………」

「取り敢えず、四ヶ月後の何処かで休むから! 宜しく!」

「は、はい」


 このノリについて行けない。

 こんな上司初めて見た。

 こんな一面もあったんだな…………



 俺は少し嬉しくなった。



「んじゃ後輩ちゃん! 今日も働くとしましょうか!」

「はい!」












 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ