表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/267

Episode.1

番外編です。








 





 ――――どこから話そうか。


 取り敢えずこういう事は、最初から話した方が良いのだろうか。

 いや、そうすると前置きが少し長くなってしまう。

 だが、それを言わない事にはどうにもならないだろう。

 だから、少しの間だけ、俺の話を聞いてくれないだろうか。

 ヒリー・ズリルバの話を。



























  偽りの父






































 俺は、サルラス帝国出身の人間だ。

 元は普通の帝国民だった……と思う。

 いつも通り出勤しては、そこそこの給料を貰い、昔奮発して買った一軒家で、一人飯を食う。

 ……いずれ結婚して、嫁さんと一緒に暮らしたいと思って買った家なんだけどな。

 今はどうしようもない独身男性が一人で住んでいる。

 寂しいと思うか?

 いや、そう思って貰って構わない。

 俺だって寂しい。

 複数人で暮らす為に買った家だ。

 それは、一人で暮らすのには大き過ぎる。


 寂しい。


 それに、この生活に飽きたのだ。



 毎日毎日、同じことの繰り返し。

 それのどこに、人生の楽しさを見出せってんだ。

 楽しさもクソもねぇ暮らしだよ。


 だが、そんな俺にも一人の友人がいた。

 昔からの腐れ縁で、お互い就職した今でも時々つるんでいる。

 そいつは、俺と同い年とは思えない程にイケメンだ。

 だが、俺と同じく独身。

 何故かって?

 本人がそれを望んでいないのさ。

「どうせ俺なんか夫に迎えても、楽しい事なんて何もないさ」と自分を卑下し、これまでに幾人もの女性をフってきた。

 別にそこまで悪い奴じゃ無いんだけどなぁとは思いつつも、それがそいつの生き様なら、俺は何も言わねぇ。

 それに、そいつがそんな性格だからこそ、今もこうして独り身同士、仲良くしている。



 そんな時。

 ある噂を耳にした。

 此処より西。メルデス大森林を越えた先にあるカルロスト連邦国という場所は、奴隷制が認めていられているらしい。

 何でもそこはサルラス帝国とも仲が良いらしく、帝国からの移住も快く受け入れてくれるらしい。

 奴隷。

 その言葉に、少し興味を唆られた。

 物見遊山にでも、一度行ってみようか。

 そう思い、友人も誘ってみた。

 友人も少し興味があるらしく、そこへ行くことが決まった。


 楽しみだ。

 ……こんな感情を抱いたのは一体いつぶりだろう。

 良いな。

 これが生きているということなのだろう。

 楽しみだなぁ。







 十日後。


 俺と友人は、カルロスト連邦国の首都、ジズグレイス に来ていた。

 どうも素晴らしい場所だ。

 笑顔に溢れた城下町。

 サルラス帝国とはまた違った美しさだ。

 そして、その奥に聳えるは、カルロスト連邦国の王城。

 この城を設計した人は天才だろう。

 とても格好良い。

 男ならいつか憧れる城を見事に再現した様な城だった。

 素晴らしい。

 感嘆のため息が漏れる。

 友人も、同じく見惚れている様だ。




 そして俺たちは、ジズグレイスを観光した。

 色々な物を買い、色々な物を食べ、色々な物を見た。

 良い街だ。

 つい移住したくなる程に。


 …………移住?


 そうだ、移住だ!

 そうすれば、帝国でのつまらない暮らしは一転する。

 そう思って俺は、その旨を友人に伝えると、快く友人も賛同してくれた。

 友人もこの街を良い街だと思ったらしい。

 当然だ。

 逆にこの街を見て良い街だと思わない人はいるのだろうか。

 治安も悪く無い。

 空気が澄んでいる。

 そして何より、帝国ほどの窮屈感が無い。

 その分、此処でならのびのびと過ごせそうだ。



 そう思い俺は、直ぐにこの街の空き物件を調べた。

 色んな不動産屋を周り、良い家を探した。

 すると案外あっさりと見つかる物だ。

 ジズグレイスの東端付近。

 そこに、まぁまぁの広さがあり、俺の希望にも合致している。

 そして何より、破格の値段で売ってくれるそうだ。

 これを逃す手はない。

 そう思い、俺は直ぐに契約した。

 今思えば、途轍もない衝動買いだったと思う。

 だがどうせ、帝国(むこう)に帰っても面白みは無いし、此処で第二の人生を歩むのも良いのかな。

 そう思ったのだ。


 取り敢えず、俺が今からする事は、サルラス帝国に一旦帰り、引越し準備を済ませ、職場に辞表を出す。

 それを遂行した後に、此処での暮らしが待っているのだ。



 だが一応、買った家も見ておこうという事で、そこに行ってみた。


 ジズグレイスの中心街からは離れているが、それでもあの雰囲気は健在である。

 その中に佇む俺の家は、周りの家を同じ、木製で作られたもの。

 木の暖かさが身に沁みて感じられる。


 これが俺の新しい家か…………


 第二の人生の起点となる場所には、丁度いい。




 取り敢えず今は、サルラス帝国に帰ろう。



 それまでこの家はお預けだ!









 

忘れている方の為に補足。


ヒリー・ズリルバ...エルダの母ラーナの服用していた薬を盗み、殺した男。後エルダに殺される。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ