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119:骸に馳せ




 


 どうするのよ。


 どうするのよ。


 こんな所で死に絶えて仕舞えば、お前の望みは叶わなくなるだろうに。


 どうするのよ。


 この、私の心にぽっかり空いた穴を。



 どうするのよ。


 お母さんを支えるんでしょ?


 お母さんの生活を楽にしてあげるんでしょ?


 お母さんを守るんでしょ?


 こんなところで途絶えたら駄目でしょう?


 生きろ。


 生きろ。


 生きろ!


 生きろ!


 ………………。


 そんな事を言ったって、この状態から生き返らない事くらい、私にも理解できる。

 首が切断され、首が無い只の骸。

 微動だにしない屍。


 ………………。


 どうしようもない。

 死んでしまった。

 彼の心はもう此処に無い。

 体を捨てて、何処か遠くへ去ってしまった。

 目の前にあるのは、只の抜け殻。

 それにはもう、彼の面影など微塵も感じられない。

 身近な人を失う虚無感。

 もう二度と味わいたく無かった。

 何だかんだ、彼と関わったのも、今回の計画が初めてである。

 なので、たった数週間の仲なのだ。

 なら何故、私の心は何故これ程までに虚無感に襲われているのか。

 それ程までに彼に人を惹きつける力があったからだ。

 そうだ。

 そんな力があったから、この使節団に推薦されたのだ。



 どうするのよ。


 どうしてくれるのさ。



 悲しいでしょ。




「リカル!!!」


 エルダの叫び声が聞こえた。

 そうだ、今は感傷に浸っている場合では無い。

 目の前には、シュリさんを殺した張本人であり、第一次帝国侵攻で甚大な被害をアルゾナ王国に出した首謀者、ザルモラ・ベルディウスがいるのだから。


「俺は出来るだけ奴の足止めをする。リカルは住民と使節団員の避難を!」

「わかった!」


 ユークの死に全く動じず、エルダが端的に通達する。

 流石としか言いようがない。

 こんな状況でさえ、冷静に対処しているのだから。



 ザルモラは、今目に見える限り一人で此処に来ている。

 護衛や兵などは一人も見えない。

 ザルモラ・ベルディウス。

 大陸で唯一の創作魔法師。

 自身の魔力を用いて、イメージを再現する。

 話に聞く限り、浮遊魔法など、魔力を大きく消費するものは再現できないらしい。

 とは言え、浮遊魔法を生まれつき持っているエルダは、そこまで魔力を消費しない様だ。

 だが、現在判っている時点で、基本三属性の炎、雷、水や、特殊な石に魔法を封じる付与、それを利用した通信魔法などは容易に使う。

 それに加え、私達の把握していない予測不可な魔法を繰り出してくるから余計に厄介である。



「面白い。少しだけ遊んであげましょう。」


 如何にも悪役の様な台詞を吐き捨て、ザルモラは後退した。

 それに付いて、エルダも前進する。

 今だと思い、私は住民や他の使節団を守る壁になる様に、炎獄牢(グラーミル)を展開させた。

 これにより、エルダとザルモラのいる場所からは隔絶させた。

 一時は安全になる筈。


「皆さん! よく聞いてください! 今、サルラス帝国の魔法師からの襲撃に遭っています。避難をしますので、私について来てください! よろしくお願いします。」


 慌てふためく住民達に向かって、端的に状況を説明する。

 でも、これでこの混乱が落ち着かない事くらい理解している。


 今頃、住民は混乱しているだろう。

 当然だ。

 行き成りさっきまで話していた若者が血を噴いて死に、その上その殺した張本人である男に『全員死んでください』と言われたのだ。

 混乱するに決まっている。

 それに、何故突然帝国が兵を差し向けたのか理解出来ていないだろう。

 全く関係のない帝国が、何の前触れも無く突然襲撃して来たのだ。

 テロスウイルスは帝国が差し向けたものである事を公表していれば此処まで混乱していなかったのかもしれない。

 いや、公表していたとて、今この状況でそこからザルモラが襲撃した理由を推察できる住民はいないだろう。


「兎に角落ち着いて! こう見えて私、アルゾナ王国一の魔法使いなんです。必ず皆さんを守って見せます!」


 少し笑みながらそう言ってみた。

 嗚呼、自画自賛するのってこんなにも恥ずかしいのか。

 エルダと二人でアルゾナ王国へ向かっている時に聞いたのだが、エルダもカルロスト地区の王城で同じ様な事をしたらしい。

 だがカルロストでは威圧を目的として行なっていたので本質は違うが、自身を無駄に過大評価し、無理矢理自画自賛することには変わりない。

 あの時は笑ってごめんよ。

 恥ずかしいんだな、ほんとに。

 その立場になってみないとわからないものだ。


 いやいや、そんな事を考えている場合じゃない。

 避難させないと。

 だがさっきの言葉で、少し混乱は収まった気がする。

 少し安心した様な顔もちらほら。

 良かった。

 少し落ち着いて移動ができる事だろう。


 さて、どこに避難したものか。

 ザルモラのいる方と反対側に行くか。

 そうだ、それがいちばん安全か。

 取り敢えず、大陸の端を目指そう。


 そう言おう。


 そう考え、内容を纏めていた時。



 フッ



 突然、炎獄牢(グラーミル)が消えた。

 何の前ぶりもなく。

 私は何もしていない。

 なら原因は一つしかない。

 視界に、地面に倒れ伏しているエルダが入る。

 まさか………………!!


 そこには居た。

 その風体は、何者も寄せ付けない強者のそれ。

 その雰囲気だけで、気を失って仕舞いそうだ。


 だが、私に出来ることは一つ。


 此処にいる皆を守る事。


 なら立ち上がるのみ。



 ザルモラ。



 お前は許さない。






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