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113:関わり

リカル視点です




〈リカル〉




 その後、私はタリアと話していた。

 彼は、幼いながらにして博識で、話していて相手が子供である事をつい忘れてしまうほどだ。

 これなら、カルロストにいた帝国貴族達の方がよっぽど阿呆に見える。

 やはり、大人というものは、名ばかりでただ年老いただけの者が多数らしい。

 それに比べて、この少年はそれらとは比べ物にならない程大人である。

 見た目は子供、頭脳は大人。

 年齢など、生きて来た年数以外、何も意味を持たないのだ。



 タリアは、この地域の事をよく知っていた。

 当たり前と言えば当たり前である。

 だが彼は、その土地土地の過去も教えてくれる。

 此処にはこういう店があった、とか、此処に住んでいた人は、とか。

 昔、彼は今は亡きお母さんと一緒に、大陸部の各地を旅したそう。

 毎回母との話を嬉しそうにするタリアを見ると、心が暖まる。

 その時のタリアは、まんま子供である。

 無邪気に、自分の知っている知識をひけらかす。

 ひけらかすと言うと少し悪いイメージがあるのかも知れないが、子供がすると、ただの愛くるしく図が出来上がる。

 その様子を、いつの間にか使節団の皆も見守る様になった。

 皆優しい。

 タリアが嬉しそうに話す度、頭を撫でて、「そんな事も知ってるなんて、凄いな!」と褒める。

 それを受けたタリアは胸を張り、その様子にまた、皆笑みを零す。

 それを見て、タリアも笑顔を見せる。

 半永久機関の様なそれは、一同を安堵させた。


 そしてその様子を見た現地の住民も、少しずつではあるが、使節団に対して信頼する様になった。

 現地の子供と、笑い合いながら愛くるしくやり取りを、四十人全員が行う。

 これを見て、逆に疑う者がいるだろうか。

 少なくとも、此処には居なかった。


 次第に私たちは、住民と接する機会が増え、その波紋は止まるところを知らず、軈て大陸部全土に、私達使節団の噂は広まった。


 そして、私たちが大陸部に来て一週間が過ぎた頃。

 予定より随分早く。

 住民達との信頼関係が築けている今こそ、使節団の本題について話をする時だと、私は使節団の皆に告げた。

 それに反対する者はおらず、早い方が良いだろうと、本番は七日後とした。

 それまでに必要な準備を進めなければならない。

 大変だが、やるしか無い。

 やらなければならない。


 使節団の半数とタリアで、大陸部にいる住民に、七日後の演説に参加してもらう様促してもらう。

 使節団から行くのは当然だが、タリアにもそれを話すと、「僕も是非協力させて下さい」と聞かなかったので、協力を頼んだ。

 

 大陸部を周っていて、大体だが、此処の人口も把握した。

 約九百人程度。

 グリリアの想定と、大差ない数字であった。

 だが、元々数万人という人々が生きていた中の大勢がウイルスなどで死亡していると考えると、やるせない気持ちに苛まれる。

 それと同時に、そんな倫理に反した行いをしても正気でいられるサルラス帝国に、憤りを覚える。

 だから、残った九百人を救う。

 それが私達にできる、一番最善なのだ。





 六日後の夜。


 明日が演説本番ということで、皆緊張していた。

 当然、話し手はリカルである。

 一応アシスタントとしてエルダも舞台近くに立たせるが、他の数十人はただ傍観しているだけである。

 だが、そんな彼らも、緊張している。

 気付けば彼らも、私と同じく酒屋での事などすっかる忘れていた。

 そんな事など、どうでも良くなっていた。

 此処にいる全員、住民皆を救おうと奮闘している。

 少なくとも、私にはそう見えてならなかった。


「リカル。明日だな」


 隣から声をかけられた。

 今は夕食の途中。

 私は皆とは離れた場所で食べている。

 そこに、彼奴は来た。


「エルダも手伝ってくださいね」

「そりゃぁアシスタントとして尽力するよ。前で話すのは無理だけどな」

「知ってる。だから別に話せとはいってないじゃないですか」

「あぁ、そうだったな」


 何とも平和な時間だ。

 エルダと話していると、少し気が楽になる。

 部下達と話したり、アステラ様と話すのとは違う、この感じ。

 嗚呼、これが友人というものなのだろう。

 話すうちに心の蟠りも取れて、いつの間にか時間を忘れて喋ってしまう。

 良いな。

 この時間がいつでも続けば良いのに。


「そういや、あの少年とはどうなんだ? 仲良くなったのか?」

「タリアの事ですか? 仲良くなった……と思いますよ。とても良い子ですし。」

「そうか。よかったな」


 そう言いながら、エルダはふと笑った。


「そういや、そろそろ敬語じゃなくて、タメ語で話してくれない? 俺がちょっと疲れる。」


 なんか、前も似た様な事を言われた気がする。


「…………善処します。」

「ほら。」

「……………………善処する。」


 タメ語だと、少し人に対して当たりが強いみたいになってしまうから、あまり使いたくはなかった。

 そうエルダに言ってみると、『大丈夫大丈夫。タメ語の方が絶対良い』と言われた。

 ……少しだけ努力してみよう。



「それじゃぁ、明日頑張ろうぜ!」

「う、うん。」


 いまだにぎこちない私の返事にクスッと笑った後、エルダは他の使節団の元へ行った。


 下を見ると、全然手をつけられていないスープがあった。

 そうか、エルダとの話に夢中で飲んでいなかったのか。

 そう解釈し、私はスープを口の中に入れた。

 当然だが、冷め切っていた。

 だが、私はそれを特に気にしていない。

 なぜなら、その冷たさを埋める暖かい材料が、沢山あったから。

 エルダは優しい。


 あの暖かさを、私を持つことが出来たら。


 そんな事を考えながら私は、無意識にもう一度冷め切ったスープを口に入れた。







 

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