107:阻止計画+α
翌朝。
早朝に、アステラに召集をかけられたエルダとリカルは、欠伸をしながら、召集場所へと向かった。
場所は、前に会議を行ったあの会議室である。
エルダが爆睡した、あの場所である。
会議室に着くと、既に何人かが召集されていた。
その中に、エルダを見つけて歩み寄ってくる者が一人。
「エルダ様。おはようございます。」
「おはよう、ルーダ。ルーダも、叔父さんに呼ばれて此処に?」
「はい。翌日の未明に此処へ集まれと、伝達があったもので。」
「何だろうな…………」
そうは言うものの、エルダには、此処に集められた理由には検討がついていた。
オームル王国の件だろう。
逆にそれ以外思いつかない。
此処でアルゾナ王国の保全とか言われたら、それこそ心配になる。
何が心配って?
叔父さんだよ。
だが当然、そんな訳が無く。
エルダ達が入って来た扉から、いつもよりも少し軽装なアステラが、堂々たる振る舞いで入室した。
早朝の眠気など、微塵も感じさせない。
流石だ。
よく考えてみれば、リカルもあまり眠そうな様子をしていないな。
って言うか、此処にいる全員、早朝なのにシャキッとしている。
どうやら、欠伸をしているのは俺だけらしい。
やめよ、欠伸。
「こんな早朝に集まって貰って申し訳ない。早急に行わなければならない問題が浮上した為、此処にいる皆には、その問題解決の為に動いて欲しい。勿論強制はしない。内容を聞いてから帰っても良い。取り敢えず、話だけでも聞いてくれ。」
早朝とは思えない程、ハキハキとした声だ、
流石、としか言いようが無い。
「私から話すよりも、その問題を提起してくれた本人が説明した方が解り易いだろう。皆、エルダは知っているな?」
その問いに、此処にいる皆が頷く。
勿論、エルダを除いて。
「じゃぁそういうことなので、エルダ。説明を頼む。」
突然振られた。
少し困惑するが、早く行けと言わんばかりの視線をリカルから向けられていたので、逆らえず。
エルダは、もともとアステラが立っていた場所に立った。
エルダは、帝国の企てるオームル王国掠奪計画について、その全貌を話した。
困惑する者も出てくるかと思ったが、案外皆、静かに聞くものだ。
目線を俺から一切外さず、私語も一切無く。
驚きもせず、その場から微動だにせず、只々俺の話を聞いていた。
エルダは話し易かった。
スラスラと喋ることができた。
こんな沈黙の中喋るのは中々緊張するかと危惧したが、案外こちらの方が話し易い。
そう感じるのは俺だけかもしれないが、俺はそう感じた。
「…………以上が、帝国の企むオームル王国掠奪計画の全貌です。アステラ王とも話しましたが、この話の信憑性は高いです。先ず疑う必要は無いかと。」
そう言い終えた。
エルダの話の終わりを感じ取った聴衆の反応は、それぞれだった。
ある者は眉間に指で皺を寄せて考える様な動作をしたり、ある者は顎に手を当てて考える様な動作をしたり。
当然リカルは終始直立していた。
「ありがとうエルダ。今の話を踏まえた上で、私が考えた掠奪計画の阻止計画を聞いて欲しい。と言っても、エルダ達が元々考えていた物を具体的にしただけだが。」
そう言ってアステラは、その阻止計画について話をした。
内容を要約するとこうだ。
先ず、此処にいる中でこの計画に賛同する者は、エルダと一緒に、壁を越えてオームル王国へ入る。
当然、特効薬を持って、全員を飛翔で浮かせて越える。
その後、オームル王国の国民に事を説明し、出来るだけ信頼関係を築いた後、全員に特効薬を投与し、数日間様子を見る。
そして特に問題が無さそうであれば、アルゾナ王国へ帰国し、これからのオームル王国との関係を良好にする為、アステラ王自ら、オームル王国へ入り、演説をする。
その後、アステラとリカル、エルダの三人でガルム諸島へ向かい、国王と話をし、平和条約を結んだり、国交を結んだりと、友好国として振る舞う。
そうして、オームル王国と自国の、ウィンウィンの関係を築く。
それが、アステラの発案した阻止計画、並びに友好関係樹立計画。
それを聞いた一同からは、思わず拍手が起こった。
一晩で考えたにしては、とても道理の通った策であったからだ。
流石。
それしか言いようが無い。
「この計画に則って行動するという方向性でも良いか?」
アステラのその問いに、反対する者はいなかった。
そして、この計画に参加しないと、場を去る者もいなかった。
精神的にも、今は万全の状態。
さて。
「取り敢えず、特効薬の投与ができなければ話にならないので、投与法のレクチャーを、エルダとリカル、それと、ガラブ、お前も頼めるか?」
「はい、国王。勿論であります。」
「ありがとう。それでは、その三人で、此処にいる全員に、投与法を教えてやってくれ。」
そう言い終えると、エルダの下に、ガタイの良い、如何にも筋骨隆々な、高身長の男がやって来た。
「初めまして、ガラブ・ビューレだ。こんな見た目をしているが、一応救護師団の師団長を務めている。宜しく頼む。」
「あ、こちらこそ、宜しくお願いします。」
そう言って二人は握手をした。
エルダの華奢な手を、ガラブのゴツゴツとした岩の様な肉厚な手が包み込む。
エルダは、この人を優しい人だと思った。
握手をしている時の顔は、善人のそれであったのだ。