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ココロのトバリ  作者: サザンク
第4話 夢見る魔法少女

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◇23

◇23


奏草(そうそう)花禍十二綴(かかじゅうにてつ)。……初代織草たる花の巫女は、言霊の心術を用いてありとあらゆる奇跡を為したと言われているが、これはその言霊を解析、研究し、後の織草が再現できるようにしたもの……私たちの家に伝わる〝奥義〟だ。もちろん、元ネタとは比べることすら烏滸がましいほどの差があるだろうけどね」

「筺花、の……」

「その名の通り十二の技があって……今使ったのが第二禍の梅穿(ばいせん)。その効果は……君自身が体感している通りだよ」

 熱した石を捩じ込まれたような痛みは、まだ僅かに残っていた。

 身体にも、服にも、穴は空いていない。

 それなのに――わたしは〝撃たれた〟と感じた。

 空骸黑の時が〝貫かれた〟とするなら、本当に銃で撃たれたような――実際に銃で撃たれたことはないけどきっとそんな――〝気分〟になった。

「君に教えるなら、あとちょっとだけ〝心術慣れ〟してからだと思っていたけど……この際だ、実践形式で行こう」

 葵さんの持つ能力――心術は『触れた二点の状態を入れ替える』というものだということは知っていた。逆に言えば、わたしはそれしか知らなかったともいえる。

「痛みはまだ続いているかな? 私が〝撃った〟と思い、君が〝撃たれた〟と思う……実際に銃と弾丸が無くとも、双方がそう感じたのなら、そのような結果を引き起こすことができるのが、この心術……まさしく心の術だ」

 武器の隠匿や結界の作成も、彼女の言う花禍某の一種。そういった技が十二もあるとなれば、すべてを想定するのはほぼ不可能だ。

 そもそも、今食らったものだって――

「そら、次もあるよ。――〈だん〉」

 声にならない呻き声が、喉の奥から漏れ出た。

 骨を貫かれる痛みと、肉が焼け付く痛みで、目の前がちかちかと光る。

「〈だん〉」

 肺が痙攣する。

 呼吸をするたびに、存在しない身体の穴から空気が抜けていくようだった。

 葵さんは、こちらを見据えたまま指を下ろさない。

 人差し指は、依然としてわたしに向けられている。

「……っ」

 もう痛いのは嫌だ。

 これ以上は耐えられない。

 そんな、純粋かつ本能的な恐怖が、脳を支配する。

 なんとかしないと。

 でも、どうすれば――!

 真横に跳ねるように動き、彼女の照準から外れる。

 闇雲に動いても、僅かな時間稼ぎにしかならないとわかっているが、今はその僅かな猶予で、答えを掴まなければ。

 考えろ。

 考えろ。

 葵さんの説明を思い出せ。

 銃口はない。

 引き金もない。

 弾丸すらない。

 いくら痛くとも、本当にわたしの身体に鉛玉が捩じ込まれているわけではない。葵さんが撃ち、わたしが撃たれた――お互いがその事実を了解したからこそ、この結果が生まれた。

 そう言っていた。

 心術は心の技。

 一度そう思い込んでしまえば、逃れることができない。

 それなら、逆に――

 

「――〈だん〉」


 変わらぬ調子で放たれる葵さんの言葉。

 その言葉が言霊へと変わる直前。

 わたしは動いた。

 前にでも、横にでもない。

 移動はしなかった。

 ただ、その場にいながら――〝剣を振った〟。

 音はない。

 衝撃はない。

 打ち合った感触もない。

 ただ――〝手応え〟だけが、掌に僅かな痺れとして残った。

 身体は無事だ。

 なんともなく、わたしは立っている。

 胸の奥に残っていた、焼けつくような痛みも、いつの間にか消えていた。

「〝防いだ〟ね」葵さんが苦笑する。「もう梅穿の攻略法を導き出したか、お見事」

「……ヒントを、貰いましたから」

「だとしてもだ。普通の人間なら、二発も受ければ気絶して動けない。耐えられて且つこれなら、上々だよ」

「……」

 ……ずるい、と思ってしまう。

 わたしは怒っているはずなのに、だからこそ戦っているはずなのに。

 葵さんに褒められると、喉から背筋にかけて、むず痒い感情が通り過ぎてしまう。

 排除しなくてはいけない、という気持ちが、ほんの少しだけ緩んでしまう。

 頭を雑に撫でられたいつかの出来事が、思考の中に差し込まれてしまう。

 誤魔化すように大きく息を吐いて、今まで以上に強く睨みつけた。

 ――梅穿という技の本質は、単純だった。

 要は相手に〝思い込み〟を強要させているにすぎない。

 言い換えれば、高度な〝ごっこ遊び〟を強いているようなもの……小さな子供同士がやるヒーローごっこと変わらないのだ(もちろん、わたしにそんな経験はない……覚えはないけども)。

 このごっこ遊びの中でわたしは、無意識のうちに〝やられ役〟を割り当てられ……だからこそ、実在しないはずのダメージを受けてしまっていた。

 それなら、覆す方法は簡単だ。

 子供の理屈で勝負を仕掛けられているのなら、その理屈の中で、別の役を主張すればいい。

 相手が〝撃っている振り〟をするなら、こっちは〝弾き返す振り〟をする。わたし自身が弾いたと強く思えば、その結果を定着させることができる。そう判断して、剣を振った。

 バリアを張る振りでも、躱す振りでもあるいは良かったかもしれないが、わたしにとって一番〝イメージしやすい〟対処は、こっちだった。

 結果は大当たり。

 一度イメージが固まれば、もうこっちのものだった。

「〈だん〉」

 弾く。

「〈だん〉」

 弾く。

「〈だん〉」

 弾く!

 さっきまでの状況が嘘のように、葵さんの攻撃が無効化される。

 指を指し続ける成人女性と、やたらめったらに剣鉈を振り回す女子高生。傍目からみればあまりにもおかしな光景なので、人払いされていたのは非常に助かる(どちらかといえばわたしの方がヤバい人なので)。

「うん……これはどうやっても効かないか」葵さんがようやく腕を下ろした。腕を回して、ほぐすような動作をする。「刀も奪われちゃったし……次はどう攻めようかな」

 わたしには剣鉈と血が残っている。

 対して、葵さんの両手には何もない。

 だとしても……ここまでの戦いを経て、自分が有利だ、なんて思う事はできない。

 むしろ、足取りも軽く、構えもとらない姿を見て、さらに嫌な予感が募っていた。

「〈奏草(そうそう)第一禍(だいいっか)――」

 葵さんが唱えた。

 さっきよりもはっきりと、その言葉が聞き取れる。

 祈るような、静かで厳かな響き。

「――松躯(しょうく)〉」

 空気が重い。

 何かが光ったわけでも、音が鳴ったわけでもない。

 ただ、葵さんから感じられる〝密度〟のようなものが、変わったような気がした。

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