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ココロのトバリ  作者: サザンク
第4話 夢見る魔法少女

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◇18

◇18


「もう集団登校じゃなくて、一人で行って帰らなきゃなんだから……車には気を付けてね。寧音」

「車だけじゃなくて、変な人とかいたら、すぐに離れるんだぞ」

「だいじょーぶ! わかってるって!」

「早く友達ができれば、一緒に登下校できるんだろうけど……」

「そうだな……この感じだしなぁ……。心配だ……色んな意味で……」

「友達できないと思ってるの!?」


 お母さん、お父さんと、こんな話をしたのは、たしか中学生になってすぐのことだ。

 制服を初めて着たとき、想像以上に嬉しかったのを覚えている。

 初めてお母さん以外から貰った衣装は、なんだか私が外から〝選ばれた〟ような気がした。同じ学校に通う子はみんな同じ服というのもすごくいい。それこそ……私が大好きな魔法少女のチームみたいだと思った。

 五年、六年生にもなると、もうああいうアニメや特撮ヒーローを観なくなっちゃう子が多くなるんだけど……私はずっと好きなままだった。他の子の家ではわかんないけど、うちでは「子供っぽいからやめなさい」とは言われなかったので、小っちゃい頃と同じように楽しむことができた。

 ……ごっこ遊びは、流石にもうしない。

 相手いないし。

 大事なところだからちゃんと言っておくけど、友達がいないわけじゃない。小学校の時も遊んでいた子はいたし、その中には一緒に中学に上がってきた子もいる。というかお母さんもお父さんも、私がその子たちと遊んでいたのを見ているはずなのに……。

 あとは……部活動? ってのを始めれば、もっと友達もできるでしょ、たぶん。

 何をするかは、まだ決めてないけど。

 だから……大丈夫。

 これからは、楽しいことしか起きない。

 心配するのは……本当に〝車と変な人〟くらいだ。






 ふわふわとした気持ちだった。

 真っ黒で、真っ白で、透明な景色が見えた。

 たぶん怖い場所にいる気がするのに、怖いと思わなかった。

 とにかく眠くて、日曜日に二度寝するみたいな気持ちよさの方が強かった。

 どれくらいここにいるのかわからなかったけど、たぶん結構長い。

 ときどき……お母さんとお父さんの声が聞こえることがあった。この場所に来てから最初は、お母さんが泣いているような気がした。もしかして、お父さんが意地悪なことを言ったのかもしれない。私が言い返さなきゃと思ったけど、やっぱり眠くてうまく喋れなかった、ごめんね。しばらくすると、お母さんの声はすごく優しくなって、もっと小さい頃に絵本を読んでくれた時みたいに優しくなったので、仲直りしたんだとわかってホッとした。お父さんの声が聞こえるのは、お母さんの声よりは珍しかったけど、その代わり聞こえた時はずっと長くおしゃべりしていた。

 二人とも、何を話しているかはちゃんと聞こえなかったけど、決まって最後に言う言葉だけは聞き取れた。

 また来るからね。

 大丈夫だからね。

 いつ起きてもいいからね。

 ずっと待ってるからね。

 それを聞くたびに、明日はちゃんと起きなきゃと感じた。

 明日がいつ来るのかは、わからなかった。






「〈現れろ〉」

 誰かの声が聞こえた。

 男の声、お父さんじゃない。もっと低くて、深くて、怒っているような声で、とにかく初めて聞く声だった。

 やっぱり私は同じ場所にいた。目を瞑った時に見えるような景色がずっと続いている、何もない世界。そこに、まったく知らない誰かがやってきた。

「〈夜の底で朽ちる灯 水の底に沈む歌〉」

 いつもはぼんやりとしか声が聞こえないのに、今回はなぜかはっきり頭に入ってくる。

「〈笑みは牙に 涙は泥に 震えは毒に 掌は灰に――〉」

 意味の分からない言葉が、ふわふわの頭に入ってくるのが、なんだかとても、気持ち悪い。

 似たような意味が、なんども、なんども、なんども、繰り返し、同じ口調で入ってくる。

 今すぐにでも、やめて欲しかった。

「〈――無垢なる胎へ虚を満たし その影に形象を与えよ〉」

 そう言ったのを最後に、言葉は終わった。

 ああ、良かった……これで静かになった、とため息をついて……自分が〝ため息〟をついたことに気がついた。

 腕と足が〝見えて〟……顔に〝触る〟ことができた。

「……?」

 一体、私はどうなって……。

「……ここまで瓜二つとは」

 なにがなんだかわからない私の耳に……今度はちゃんと耳に、さっきまで聞いていたのと同じ声が届く。

 声の方向を見る。暗くてよく見えない、けど、今までとは違うタイプの暗さだった。電気が点いていないと気が付いた、窓を見つけた、月だけがすごく眩しかった、それを見て初めて、夜だから暗いのだとわかった。

「本体の意識が著しく弱まっていれば、感情や意思は化心側の方に偏る……ということか。姿もその影響のようだが……」

「誰、なの……?」

 自分の口が動くことも……喋れることも、今初めて気づいた。

「……斐上」

 暗闇の中にいる影が言う。ヒガミ……というのは名前で、つまり私の質問に答えてくれたってことなんだろう。この人は、お話ができるようだ。

 ……とりあえず、挨拶しておくべきかな。

「ヒガミ……さん。……こんばんは?」

「言葉が使えて、会話もできるのか」

「バ……バカにしてんの!?」

 初めて会ったのに悪口を言われたんだけど!?

 お話できるけど、できないかもしれない。

「ここまで来ると、ますます化心とは言い難いな。お前の在り方は……幽体離脱や、生霊の類に近い」

「けし……何?」

「実験は成功〝してしまった〟ようだ」

 さっきから、私のことをお構いなしで、ヒガミさんは話をし続けている。窓から離れた場所にいるせいで、月明かりで目が慣れてきた今も、彼の顔はよく見えない。声の感じから、結構おじさんなんだろうと思った。

 ……そうだ。

 目は慣れてきた。

 だから自然に……色んなものが見えてくる。

 いや、もうとっくに見えていたけど、うまく飲み込めなくて、今の今まで無視していた……というのが本当だ。

 細長い木の机が見えた。その上には花瓶が乗せられていて、花も何本かささっていた。

 モニターが見えた、黒い背景に緑や青で数字が映されている、詳しく何の数字かはわからないけど、そのモニターから生えている〝線の先〟に関係があるのは、間違いないと思った。

 ベッドが見えた。きちんと洗濯された綺麗な白いベッド、モニターの線はそのベッドの上で寝ている〝女の子〟に向かって伸びていた。モニター以外にも、女の子からは色んなものが繋げられているようだった。

 もしかして、ここは、病院――――「!? っ……ぁ……!」

 急に頭が痛くなった。

 お皿が割れるような、誰かが大きな声で叫ぶような、そんな音がずんずん響いた。

 目の前が揺れる。吐きそうな気持ち悪さも感じ、思わずベッドに手をついた。

「っ……!?」

 そこに手をついたせいで、それに近づいたせいで……〝思い知らされる〟。

 わけのわからないことの連続で、意味の分からないことの連続で、おかしくなりそうだった。

 どうしてこんなに痛くて嫌な気分なのか、どうして病院にいるのか、目の前にいるヒガミさんはなんなのか。

 どうして――――眠っている女の子の顔が……私と〝そっくり〟なのか。

「お前は■■寧音から■まれた■心」ヒガミさんが続ける。私がこんな目に合っているのに、何も思ってない風だ。「この場で■してもいいが、■■の■在は利■できそうだ。■に……〈役割を与えよう〉」

 頭痛のせいで、彼の言っていることの半分くらいが入ってこない。

 どうにかしたいのに、どうすればいいかわからない。

「たす……けて……」

 誰に?

 どうやって?

 病院で働いている人はいるかもしれないけど、なんて言えばいいのかわからない。お母さんやお父さんはきっと寝ているし、やっぱり来たところでどうにもできない。

 そもそも……お母さんとお父さんの〝顔〟と〝名前〟が……どういうわけか〝思い出せない〟。

「なんで……なんでなの……」

 痛いと一緒に、怖いのも襲ってきた。

 私は何?

 この子は誰なの?

 どうすればいいの?

「答■ろ。お前が……〈どうなりたいか〉を」

 重く沈んだような声が、もう一度わたしの胸深くに響く。

 嫌な頭痛はまだ続いている。

 どんどん大きくなっているような気さえする。

 震えが止まらない。

 息ができない。

 このまま死んじゃうんじゃないかと、本気で考え始めた。

「死に……たくない……!」

 死にたくない。

 楽しいことばかり起きると思ってたのに、こんなのってない。

 伸ばした手は、何もない空中を掴むだけだった。

「そうか」

 呻くしかない私を見下ろしながら、ヒガミさんは短く答えた。


 そこからのことは、正直ほとんど覚えていない。

 むしろ、その前後から、色んな記憶があやふやになってしまったような感じだった。

 

 ぐるぐるとした感覚の中で……最後に〈何か〉を言ったような気がした。

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