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ココロのトバリ  作者: サザンク
第4話 夢見る魔法少女

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◇16

◇16


 アーケードを抜け、駅前通り――わたしと寧音が初めて出会ったところだ――まで移動してきた。

 午後過ぎという時間帯や、場所的な部分も相まってか、さっきよりも見かける人の数は多い。学校はまだ終わっていないので、関係者に出会う可能性はまずないと思うが、おとなしくしているに越したことはないだろう。

 この辺りで何か食べよう、ということに決まり、ベンチに腰掛けたわたしたちは、店を探すことにした。

「パフェ~、アイス、パンケーキ~♪ なーに食べよっかな~♪」

 わたしがスマホを操作するのを、寧音は上機嫌で横から覗いている。わたしが見ているのは現在地周辺の飲食店を検索できたり、ユーザーが口コミを投稿できたりするグルメサイト。つばさに教えて貰ってから、わたしも外食の際に重宝していた(あくまで見る専門で、レビューはしてない)。

「駅ビルの中とかどうですか? 涼しいし、カフェもあったような気がします」

「人多い?」

「多いんじゃないですか?」

「じゃあ別のとこで!」

 混雑、嫌いなのかな。

 だとすると、人気の店を掲載しているこのサイトは寧音の需要と合ってないかもだ。

「……トバリ、あれって……」

 スマホから顔を上げた寧音が、指を指して問う。視線と指の先では、女子四人が紙巻きの黄色いスイーツを持ち歩いていた。

「えっと、クレープですね、たしか」

 クレープ。

 甘い生地で生クリームやフルーツを包んだもの。

 存在は知っているが、まだ食べたことはない。

 彼女たちが歩いてきた方向に目を向けるとそれはあった。駅の端の方、通りからは少しだけ距離を置いた場所に、キッチンカーが停まっている。今も一人、車内の店員から商品を受け取っているのが見えた。繁盛しているようだ。

「いいじゃん! あれ食べようよ! ね、トバリ、あれがいい!」

 甘いものを食べるという目的にも、常日頃から未知のものを食べたいというわたしの望みにもマッチしている。

 拒否する理由はなかった。

 



 淡いピンクとグリーンのプリントが施され、陽に照らされているキッチンカー。その横に置かれた木製の立て看板には、筆記体風に『La Petite Roulante』と書かれていた。フランス語の店名だと思うが、正確な読みはわからない。車体上部に設置された日よけにはラベンダーや貝殻などが飾られており、夏らしさを演出していた。

「えーっ! かわいい! 全部かわいい! 迷う~!」

 車体に貼られた写真付きメニューを見ながら、目を輝かせている寧音。メニューは様々で、苺やバナナといった定番そうなものから、マンゴーや桃といった季節限定のもの、チキンやサーモンを包んだ軽食系まで幅広く取り揃えている。見た目も華やかで、店員からクレープを受け取った人たちはほぼ全員、スマホで撮影をしていた。

「やっぱり定番のチョコバナナ……でもせっかくなら変なものでも……どうしよっかな~」

 真剣そうに、けれども楽しそうに、寧音はメニュー写真と食べている人を交互に見て悩んでいる。ちなみにわたしは、こういうとき、明日も食べられるレギュラーのメニューよりも、そうじゃないかもしれない限定ものを優先するようにしている。今回は、マンゴーとヨーグルトホイップのやつにするつもりだった。

「じゃあこれで! フローズンベリー! アイスも食べたいし!」

 それもいいな、まだ暑いから。

「大丈夫、ちゃんとシェアしてあげるから、好きなの選びなさいって」

「……そんなに羨ましそうな顔してましたか?」

「してた。気づいてないけど、トバリって結構わかりやすいんだから」

「そ、そうですか」

「もちろん、長く一緒にいるのもあるけどね!」

 まだ出会って三日なんだけど。

 それで筒抜けなのは、結構恥ずかしい。

 関係の濃さ、という点なら、たしかにそれなりかもしれないが。

「と、とにかく、買ってきますね」

 人気はあるが、まだ行列ができるほどではない。正面に立って、当初の予定通りの注文をする。

 にこやかに店員が答え、滞りなく清算と、クレープの受け渡しが行われた。

「はい、寧音さ――あれ?」そのまま後ろを振り返ったのに、そこには隣にいたはずの寧音の姿がなかった。辺りを見回しても、キッチンカーの近くにはいない。

「トバリー! こっちー!」

 遠くから呼ぶ声、見れば、寧音はキッチンカーからそれなりに離れたロータリーで手を振っていた。この短時間でいつの間に移動していたようだ(それにしても声大きいな)。

「もう……アイス溶けちゃいますよ」

 店の方に頭を下げてから、寧音の方へ向かう。

 店員はなぜか困ったように微笑んでいた。




「どーもありがとー! ……わ、すごい綺麗、おいしそう!」

「なんでわざわざこんな方まで歩いたんですか……」

「憧れてたのよね、デートとかの『お待たせ!』みたいなやつとか」

「……?」

「えーと、『お疲れ!』って言いながら飲み物とかくれるやつとか! あるでしょ?」

「全然わからないです……」

「なんでわかんないのよ!」

 わたしが悪いのか?

「そうだ、早く食べなきゃ、ドロドロになっちゃう」寧音がそそくさと包み紙を開くのを見て、わたしも自分のクレープに手を付ける。

「うーん! アイスのクレープ、シャリシャリして! 甘くて! めっちゃいい! ね、トバリも食べて!」

「マンゴー、初めて食べたんですけど、濃厚で、香り高くて、美味しいですね。寧音さんもどうぞ」

「これ、なんかトロトロで……とにかくおいしい!」

「この暑さだとアイスはやっぱりいいですね。ベリー系の酸味もあって、食べやすいです」

 自分のクレープを齧って、スプーンを使ってお互いの口に運んでの繰り返し。

 そんな風にお互いのクレープがなくなるまで、わたしたちは、午後のひと時を楽しんでいた。

 もう何度も口にしているのに、二つのクレープを食べる度、「おいしい!」と「さいこう~!」を連発する寧音。リアクションの大きさに、こっちも頬が綻ぶ。そういう意味では、この場所を選んだのは正解だ。キッチンカーの周りで食べていれば、騒がしくなって迷惑だったかもしれない。広々としたロータリーは人も車もなく、一見すると広大な広場のようになっていた。

「…………」

 …………いや、

 ちょっと待った。

 人も……〝車も〟なく?

 それはおかしい。

 心宮は大きな街だ。もちろん街の中心部にある心宮駅の乗降者数も多いし、それに伴って送迎のための車やタクシー、バスのいずれかは常に駅のロータリーに停車している。台数が少ないことはあれど、一台も車が見当たらないことは、まず考えられない。

「はぁ、もうなくなっちゃった、残念」包み紙を名残惜しそうに見つめる寧音。近くにゴミ箱がないため、仕方なく自身のポケットに入れた。「トバリ? どうしたの?」

 嫌な予感がして、先ほどまでいたキッチンカーの方向を見る。車内の店員は見えないが、少なくとも、周りで食べている人はいなかった。これだけなら、たまたま客がいなくなっただけ、という可能性もある……。

 否。

 予感は既に、確定事項になりつつあった。

「そんな……!」

 キッチンカーだけではない。

 その他の場所を見ても――駅前通りやアーケードへ続く道、人の往来が比較的あった場所でさえ――今は誰も歩いていない。

 息が詰まりそうだった。

 思い出すのは、学校で首無しの化心と戦う直前に起きた出来事。あの時は廊下を歩く生徒がいつの間にかいなくなり、一時間以上廊下で立っていたことに気づかなかった。今のこれは、その状況に若干似ている。

 スマホを見る。さっきレビューサイトを見たときからほとんど時間は経過していなかった。ならばよりおかしい、この短時間で、周囲から完全に人が消えることがあり得るのか?

「ねぇ……トバリ、なんか……人、少なくない?」寧音がわたしの袖を掴む。彼女にも異常であることがわかってきたようだ。「よくわかんないけど……なんか、怖い……」

「何が起きているかは不明です」その手をとって、しっかりと掴む。「まずは、ここから離れましょう」

「う、うん」

 わたし自身、色んな意味で未熟者だ。急にやってくる〝何か〟に対して、適切な対処ができると、胸を張って言うことはできない。今だって、掴んでいる寧音の手と同じくらい、震えそうな気持ちになっている。

 けれど、それでも、この場においては、彼女よりも場数が上の人間として、冷静にならなければならない。

 息を大きく吐いてから、彼女を見る。

 わたしは頼りがいがあるように見えているだろうか。

 少しでもそう見えているなら……いいんだけど。


「……じゃあ、行きましょう」

「――行ってはいけないよ、帷ちゃん」


 いつも聞く声がした。

 いつも知る声がした。


「流石にこの規模の人払いは、結構骨が折れるんだ。結界の準備にもかなりかかってしまったし……できればここで済ませたいから、移動はしないで貰えると助かるかな」

 長い黒髪。

 すらっとした立ち姿。

 笑みをたたえているかのように少し上がった口角。

「やぁ、ただいま。お土産は事務所に置いてきたから、明日にでも食べてね。歌山煎餅って言って……一応有名なやつらしいよ、試食した感じ、普通のお煎餅だったけどね、醬油味の」

 わたしの師匠、わたしの上司、わたしを拾って、名を与えてくれた人。

 わたしにとって、最も大事な人。

「葵、さん……?」

 織草葵さんが……目の前にいた。

 そして――――


「さて、必要なことは言い終わったから、ここからは仕事の時間だ。帷ちゃん、危ないから――その〝化心〟から早く離れるんだ」


 何か、とんでもないことを言ったような、気がした。

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