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ココロのトバリ  作者: サザンク
第4話 夢見る魔法少女

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◇15

◇15


 わたしたちはゲームセンターでのひと時を終え(また来よう……!)、別の場所へと移動するために、再びアーケードへ出た。

 完全に冷え切った身体を外気の熱が包んで心地いい……のは一瞬で、即座にかつての熱気と湿気が感覚を書き換える。自然に募る不快感。早く次の涼めるスポットに移動したいと、わたしも寧音も考えていた。

 行ける場所はいくらでもあるものの、そこが寧音の手がかりになるかどうかという点を考慮すると、途端に難易度は上がる。公園で鉄棒の技をいくつも披露した彼女はいかにもアウトドアな少女だったし、わたしの家で魔法少女の絵を描いていた彼女は、いかにもインドアな感じだ。とはいえ、人はどちらかでなければいけないという決まりもないし、どちらの面も紛れもなく彼女なのだろう。

 結局、しらみつぶしに色々行ってみるしかないのかも――と、考えた辺りで。

 わたしと寧音は、ほとんど同時に足を止めた。

「寧音さん」

「うん、わかってる」

 アーケードの出口、日差しや雨を防ぐ屋根が終わる辺りには、抽選会の開催や心宮を拠点にするサッカーチームの躍進などを知らせる横断幕がいくつか垂れ下がっている。

 そのひとつに……〝何かが巻き付いていた〟。

 ヘビに似た細長い体躯。顔にあたる部位は見つけられず、全体的にステンレスのような光沢のある銀色であり、それがうねうねと動きながら、幕から幕へ移動していた。

「…………」

 野生の化心か、

 それとも裏世界から召喚されたストレンジャーか、

 この段階では判断できない。

 ……まさか、海外の珍しいヘビってこともあるまいし。

「なんにせよ、敵ってことでしょ?」寧音がステッキを取構える。「魔法少女ネオンの、ちゃんとしたデビュー戦にしては、なんかしょぼいけど……まぁいいわ!」

「……変身するなら人目につかないとこでお願いします」

「わかった!」

 どこかへと去っていく寧音。

 意外にも素直。

「……さて、と」

 彼女の着替えを待つ間に、一応確認のためにスマホのカメラを起動して、銀のヘビに向けた。

 ……まったく映らない。

 つまりは、化心で確定だった。

「どんな感じー? あ、変身後だからネオンって呼んでね!」

 着替え終わった寧音……ネオンが戻ってきた。色と柄はそのまま、フードはなくなり、ほとんどノースリーブに近いような衣装へ変わっている。ここまでくると、もはや魔法少女らしさを担保してくれるのは手元のステッキだけのように思えるが、本人は満足気だ。

「あれが化心だとわかったところです」トートバックからアンプルを一本取りだす。「今から撃ち落とします」

 先端を折って、狙いを定める。狙わずとも当たるけれど、こうした方がなんとなく良い気がする。

「〈落とせ〉」

 細く伸びた血の鏃は真っ直ぐに化心の元へと向かい、どっ、と命中した。筺花と出会ったことで血の能力に変化が起きる……なんてことはまったくなく、能力はいつも通り行使された。

 発声器官は無いタイプなのか、化心は物言わずそのまま地面に激突した。金属製の固いものが叩きつけられる不快な音、わたしもネオンも顔をしかめた。化心の肉体を構成する材質のせいだろう。最初の印象通り、硬そうだ。

 落ちた衝撃で死ぬ……なんてことはもちろんなく、化心はシュルシュルと左右に身体を動かしながら、わたしたちの間を通って遠ざかった。その様子はまさに蛇行……ヘビが這って移動するのと酷似していた。

「え、うそ、速っ!」

「大丈夫、落ち着いて追いかけましょう」

 アーケード内を素早く移動する化心。落ちた個所には大きなへこみができており、地面を移動した際には引きずる跡も残っていた。サイズは小さいが、硬いだけでなく重さもあるようだ。わたしたちは、化心と化心が残した跡を見ながら、後を追った。

 現在、人通りはほとんどない。化心が誰かを襲う可能性も、わたしたちの戦いが見られる可能性も低いのは幸いだ。ただし、化心が完全に姿を消してしまえば、それ以上手出しできなくなる。焦りは禁物だが、迅速な対処が求められる状況だった。

 わたしたちは走って、走って、やがてアーケードの中心部まで戻ってきた。

「あいつは!?」

「……! あっちです!」

 化心はそこから方向を変え、店と店の間に移動し始めた。そこは雑草と室外機によって、人が通るのは困難なほどの狭い場所となっていた。

 入られて紛れてしまえば、発見できなくなる。

 厄介な状況だ。

「ネオンさん!」

「任せて! 〈明日なんて大っ嫌い(デイドリーム)〉っ!」

 ネオンが自らのデザイアの名を叫び、全速力でその場へ突っ込んだ。いくら障害物があろうとも、デザイアが発動している彼女には関係ない。壁も雑草も室外機も、阻むものすべて、身体をすり抜けてしまうのだから。そうしてどんどん奥へ進んで行き、ついにわたしからは完全に見えなくなった。

「あっついあっついあっつい! もう何よこれっ!」

 視認できない向こう側から文句の声が聞こえる。おそらくは左右から放たれる室外機の熱だろう。これだけの猛暑の中だ、どの店もエアコンはフル稼働させているだろうし、それに伴って室外機はとんでもない熱風を放っているに違いない。そして彼女のデザイアでは熱や音といったものは防げないようだ、かわいそうに……。

「見つけた! 覚悟しなさいっ、ミスティック☆チャーム☆バッシュ!」

 やはり視認できないが、どうやら化心を発見し、何らかの攻撃を――昨日考えた技名なのかな――加えたらしい。

「ああ! この身体じゃ殴れないんだった! 私のバカ!」

 ダメだったらしい。

 そりゃそうだ。

 空骸とは違って、ネオンは魔力を使った攻撃手段を持ち合わせていない。(ワンド)のようなあのステッキでは、今のところただ物理で殴る武器としてしか使えず、そして物理的な干渉をまったく受けなくなるネオンの能力は、その戦闘スタイルと相性がすこぶる悪かった(すり抜けないってことはステッキも衣装の一部なのかな)。

 ただし、まったくの無駄かというと、そんなことはない。

「ごめんトバリ! そっちに逃げた!」

「わかりました!」

 トートバックから剣鉈とアンプルを取り出し、血をすべて刃に振りかける。硬く重い銀ヘビの化心は、生半可な攻撃では傷つかない可能性がある。血によって強化を施した一撃で、確実に仕留める算段だった。

「――来た」銀ヘビが目の前に現れた。目も口もなく、凹凸のない直方体がしなやかに動く様は、抽象的な表現の彫刻を思わせる。

 しかしその動きは、先ほど横断幕から落下して逃げた時から明らかに……〝鈍かった〟。

 かつての俊敏さは見る影もなく、銀ヘビはいかにも億劫そうに、自らの重たい身体を引きずっていた。わたしの存在を認識しているかは不明だが、たとえどこへ逃げようとも、歩いて追い抜かせるような速度だった。

 寧音/ネオンのデザイア、〈明日なんて大っ嫌い(デイドリーム)〉が有するもう一つの能力。

 彼女の身体に触れた化心の、鈍化。

 公園で出遭った青緑の化心同様に、今回もしっかり効いているのがわかった。

 躊躇なく、わたしは剣鉈を振り下ろす。

「〈斬れ〉!」

 刃に纏わりついた血に命じながら、銀ヘビの身体に攻撃をする。

 手ごたえはなく、押し戻すような抵抗感も無かった。

 赤い刃は硬い皮膚をいともたやすく砕き、化心を両断した。

 身体が分かたれた化心は――青緑の化心のように分裂して動くなんてこともなく――普通に消滅した。

 あっけない一撃。

 想定以上の威力に、他ならぬわたし自身が驚いていた。

 まさか、血をかけただけでここまで強くできるとは……。

 かつて、同様の攻撃をイルカ蝶の化心に仕掛けたことがある。あの時は油断したせいで、結局不発に終わったが、今回の成果をみるに、もしもあのまま問答無用で突っ込んでいれば、たぶんヤツも余裕で殺せたのだろう。そして……あんなギリギリの手段でとどめを刺すことにもならなかった、はずだ。

 改めて、依頼人を危険な目に合わせたかつての自分を猛省する。

 そのおかげで得られたものは……あったけども。

「やっぱりあっつい! こんなの出してたら余計気温あがるんじゃないの!?」

 室外機をすり抜けながら、ネオンが……寧音が戻ってきた。衣装は既に戻っており、その顔は入ってきたときよりもやつれているように思える。相当に熱が堪えたのだろう。

「どう!? あいつ倒せた!?」

「はい、倒せましたよ」血振りをしてから剣鉈をバックへしまう。「寧音さんのおかげです」

 施されている加工のおかげか、一定時間経つとわたしの血はすぐさま跡形もなく消える。蒸発するのかなんなのか、仕組みはよくわからないが、謎の血だまりとして事件にならないで済むのはありがたかった(なので、本来剣鉈の血振りも必要ないけれど……まぁ、そこは気分だ)。

「だったらいいわ!」得意気な表情の寧音。「次は私一人で倒すまで全部やるから、それが真のデビュー戦ってことで!」

「はいはい」

「おなかすいたし喉もかわいた~」

「はいはい」

 実際わたしも同じ気持ちだった。

 何か軽く……甘いものでも食べよう、身体を動かして疲れた時には、そういうのが良いと聞いたことがある。

 そうしながら、次の行動を考えよう。

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