◇14 後編
◇14 後編
学校をサボるだけならまだしも、その間ゲームセンターに興じるとは。
状況だけ見れば、つばさの言った通り、織草帷は不良街道を突き進んでいた。
「ねぇ見て見て! めっちゃでっかいポテチの箱! 晩御飯入らないわね!」
「取ったその日に全部食べなくていいんですよ」
「これなんだろ? お魚のぬいぐるみ……? お腹が開いてティッシュケースになってる!」
「『ヒラキボシ君ぬいぐるみ』……干物をモチーフにしたキャラクターみたいですね、ちょっと、見た目が怖いですけど」
「ラジコンある! 欲しい!」
「たぶん大したものじゃないですよ」
寧音はクレーンゲームの景品を一台一台、物珍しそうに見ている。化粧品をモチーフにした文房具、小さなヘアアイロン、露出度の高いアニメのフィギュア、とにかく色々なものが景品として並べられていた。
「へぇ~~~……!」寧音はそのどれらに対しても、同じように興味の視線を注いでいる。まるで初めて来たみたいだ、と思った。わたしの予想と反して、あのテンションの上がりようは、未知に対する好奇心だったのかもしれない。
喪失した記憶を呼び起こすきっかけにはならなそうだ。
まぁ、それはそれで、仕方ないし、別にいい。
エアコンが効いた室内、その冷たさに思わず肩が震える。そこらで燃えるような外から一転、汗をかいていたことも相まって、今度は全身に氷水でもあてられたような気分だった。
これが……〝夏〟なのか。
油断すると、具合が悪くなりそうだ。
「トバリ! 奥にクレーンじゃないゲームもあるわ!」
「寧音さんは平気そうですね……」
丈夫で何より。
走らないでくださいねー、と声だけかけて、わたしもゆっくりと後を追う。
途中、店員とすれ違ったが、わたしの姿をちらと見るだけで、特に何か言われるということはなかった。わたしも寧音も背格好からすれば補導されかねないのだが、余計な口出しはしないスタンスなのだろう。あるいはわたしの髪色が年齢を誤魔化したのかもしれない。いずれにせよホッとした。
中にはわたしたち以外の客はおらず、店員も先ほどすれ違った以外には見ていない。平日の昼間という時間帯なら自然なことだし、わたしたちにとってはむしろ好都合だった。
静かだった。
様々な筐体から音楽が流れ、ぶつかって、ガチャガチャとした騒音と化している室内の中で、そう感じた。
人間がいる、ということ自体が、単純な音量だけで計ることのできない騒がしさを生むのだ、きっと。
「トバリ‼ 百円が無いわ‼」
そんな周囲に負けないくらいの声を上げる者がいるなら、また別の話になるが。
ガンシューティングゲーム……ゲームセンターの隅にあったそれは、まるで寧音が見つけるまで姿を隠してたんじゃないかと思ってしまうほど、ひっそりと存在していた。
画面は暗く、映っているキャラクターや背景も今のスマホゲームと比べ物にならないくらい大味なポリゴンで構成されている。ゲームの知識は持ち合わせていないが、割と古いゲームなのだろうというのは、想像に難くなかった。
寧音が「やってみたい!」と言うので、百円を入れる……あ、二人プレイの場合はもう百円必要なのか。
簡単な操作説明を受けた直後に、おどろおどろしい見た目のゾンビが次々と表示された。
「トバリ! 右! 右から来てる!」
「わかってますっ……寧音さんこそ、早くリロードしてください!」
「あれ。リロードできてない!?」
「ちゃんと画面の外に向けて撃つ! ……あっ、回復箱!」
「よし来た――って、なんか来るなんか来るめっちゃ来るわ!」
ピンクと青、毒々しい色合いの銃型コントローラーを構えて、画面に映るゾンビを前に、わたわたする二人。
お互いに初心者、射撃の腕はお世辞にも良いとはいえない。寧音はとにかく我武者羅に撃ちまくってすぐに弾切れになるし、わたしの方はというと狙いがうまく定まらず、全然当たらない。血の矢を外したことはなかったけど、あれはわたしの意思で軌道を操作できたが故の命中率だったのだ、やっぱり便利だな(あとわたし、近接攻撃主体だし)。
通常のゾンビなら数発撃ち込めば倒せるが、身体が大きいものや、ガトリング砲のような特殊な武器を構えた敵は体力も攻撃力も高く、出現した際には二人の攻撃を集中させる必要がある。個人の技量と連携力、両方のスキルが試されるシビアな難易度と奥深いゲーム性に、自然と前のめりになった。
最初のステージをクリアして喜びのハイタッチをしたのも束の間、次のステージで燃えたトラックがこちらに向かってきた。トラックを時間内に撃ちまくって大破させなければならないのだが、寧音側の攻撃が足りず、そのままぶつかってゲームオーバーになった。
カウントダウンと「Continue?」の文字が表示される。百円を投入すれば、今の状態からゲームを再開できるらしい。まだ小銭には余裕があった。
「どうしますか? わたし、続けてもいいですよ」
「ん、んー……いいや、大丈夫」
かなりハイテンションでやっていたような気がしたが、意外にも寧音はすっぱりと諦めた。そのまま銃を筐体のホルダーにしまったので、わたしもそうした(ちなみにわたしは全然続ける気だった……)。
そのままカウントが0になり、スコアが表示された。その後に、歴代のベスト記録のランキングが表示される。もちろん、第二ステージの序盤で脱落したプレイヤーの数字がそこにあるはずはない。
わたしたちの戦いは、まるで最初から起きてすらいなかったように、幕を閉じた。
「次なにやる!? 太鼓のやつでもいいわよ!」二つ並んだ和太鼓を、寧音が指し示す。画面のチュートリアルを見るに、音楽のリズムに合わせてバチで太鼓を叩くゲームのようだ。
「いいわよってなんですか」
お金出すのわたしだし。
というか……
「遊ぶのが目的じゃないんですよ、ここに来たのも、あくまで寧音さんの記憶探しのためなんですから」
「何よ、トバリだってさっきはノリノリだったくせに」
それを言われると弱い。
本当なので。
反論できないわたしを見て調子づいたのか、寧音が続ける。
「それに、太鼓を叩いたら記憶が戻るかもしれないでしょ? それなら意味はあるんじゃない?」
「なんの記憶ですか」
かつて太鼓を叩いていたってこと?
寧音の華奢な見た目からは、まったくイメージできない。
しかしながら、「絶対にそんなことで記憶は戻らない」と断言できないのも事実。
……狡猾だ。
「……しょうがないですねぇ」
何か不具合が起きるでもなし、ならば乗っかってやるのも一興か。
これはこれで、面白そうだし。
「一回だけですよ」
そう言い含めてから、わたしは財布を取り出した。
「すみません、たぶん次はパーフェクトいけるんで、もう一回やっていいですか?」
「ハマったの?」




