◇11 前編
◇11
寧音を魔法少女ネオンにした人物は斐上だった。
名前の一部しか聞いてないとはいえ、魔術に関わる事象を起こしうる人物であれば、わたしたちが追っている件の魔術師に違いないだろう。
ただし、どのようにして彼女にその能力を与えたのか、記憶の消去も彼の仕業なのか、そもそも目的はなんなのか……不明点はあまりにも多い。一つの疑問が解消されたことで、新たな疑問が次々と浮かび上がってしまう。
それこそわたしが他に知っている魔法〝少女〟でいうならば――フォルテさんは自他共に認める〝魔女〟なので――空骸黑がそれに当たるが……実際どうなのだろう。もしかすると空骸もまた、魔法少女に〝させられた者〟だったりするのだろうか? それにしては空骸と寧音の〝スタイル〟は随分と異なるし(仲町→空骸は変身ではなさそう)、もしも魔術師仲間を増やすつもりなら、デザイアも知らない状態で単独行動しているのは不自然だ。でも寧音がこうなったのは斐上の仕業で間違いないだろうし……。
……うーむ。
「まったく厄介な事態にしましたねあなたは……」
「なんか私が悪いみたいな言い方してない!?」
もちろん寧音は被害者だ。
それに、勝手に依頼として引き受けたのは他ならぬわたし自身だ。ならば最後までやり遂げる責任はあるし、考えようによっては、これは奴らに近づく大きなチャンスでもある。
想定の斜め上の事態になったことに困惑する気持ちはあるが……。
「とにかく、覚えているのはこれだけ、ウソじゃないからね!」アイスの底をひっかき続ける寧音、よほど気に入ったようだ。
「わかりました」わたしも残りを口に運び(寧音がずっとスプーンを目で追ってる……あげないぞ)、次にすべきことを考える。「とりあえずは……明日以降も色々回ってみましょう。また何か思い出せるかもしれませんし……もしかしたら、その過程で斐上の痕跡も見つかるかも」
「そうね! 私もちゃんと、ヒガミさんにお礼を言いたいし」
「…………」
「何よ、その顔、なんか文句言いたげな感じ」
「え、そんな顔してましたか」
「してた」
「……お礼を言うんですか?」
「魔法少女になりたいって言ったらその通りになったんだから……ありがとうございます、じゃないの? そりゃあ、色々忘れてるのは困るけど」
「…………」
「え!? もっと変な顔になった!?」
失礼な。
文句……とまではいかないにしても、複雑な気持ちにはなる。寧音が恩義を感じていたとしても、わたしは出逢ってしまったらもう、和やかにお茶するようなことにはならないだろうし。
それとも『あ、この子がなんだかお世話になったようで……』みたいに寧音を絡めてアプローチをすれば、案外話し合いの余地が生まれる可能性も…………ないな。
脳内でかぶりを振る。
斐上も、空骸も、わたしの心臓を狙っていて、化心の実験と称して人の心を弄び……被害者もいる。
それを許してはならない、という結論は、とっくに出ているのだ。
ならばやはり、明確に奴らはわたしの……わたしたちの敵。
織草に関わる者としての責任感だけではなく、わたし自身が、そう認識している。
なので、その線はなし。
寧音の記憶の痕跡を探すのが最優先。もしもその過程で魔術師に出遭ってしまったら、寧音の意思はどうあれ、その場で戦って彼らの企みを止める。
改めて、自分の中で方針を固めた。
「ねぇ、ちょっと」ずい、と寧音が顔を近づけてきた。自分と同じ石鹸の香りがする。「急に黙んないでよ」
「ああ、すみません。ちょっと考え事をしてて」
「怒ってる?」
「え、いや、全然そんなことないですけど」
「そっか」
「どうして、そう思ったんですか」
「別に、なんとなく。……たぶん私、静かなの、あんまり好きじゃないのかも」
「テレビでも観ます?」
「そういうんじゃなくて……だって、ほら、せっかく……二人でいるんだから……さ、わかるでしょ」
「……えっと」
「今の内にポーズとダブル必殺技の打ち合わせをしておかないと……」
「その件まだ諦めてなかったんですか!?」
「そうだけど!? 悪い!?」
即座にスケッチブックを取り出す寧音。先ほどとは違い、自宅という場では突発的なトラブルは見込めない。
そして現在時刻は21時、わたしの年代で就寝するには若干早い。
……なるほど、これは覚悟がいりそうだ。




