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ココロのトバリ  作者: サザンク
第4話 夢見る魔法少女

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◇9

◇9


 化心の衝突は確実だった。

 むしろ、衝突自体は間違いなくしていたと言っていい。

 どこからどう見ても、化心と寧音との間に一分の隙間はなく、お互いの距離はゼロだった。

 なのに彼女は吹っ飛ぶことも、仰け反ることもなく。

 痛がることも、うめくこともなく。

 その場に〝留まったまま〟だった。

 そして化心の図体は、寧音の身体にしっかり〝接触〟して――〝通り過ぎた〟。

 ぬるり、と、

 まるで空中に投影された立体映像のように、彼女には実体がなく、故に障害物のない化心は、そのまま彼女の身体を貫通したのだ。

 ただし、化心がそのまま逃げおおせたわけではなかった。

「な……」

 人間の身体をすり抜けるという、これだけでも意味不明な事象。

 しかし、不可解は〝連続で〟発生した。

 抵抗なく寧音の身体を(どういうわけか)素通りし、等速で向こう側へ行くかと思われた化心の動きは……何故か、誰が見ても明らかな程に……〝鈍化〟した。

 鈍くて、どんよりになった。

 スローモーションのよう――とまでは流石に言いすぎだが、とはいえ秒速10メートル前後で移動していた体躯は、目視にして半分以下の速度まで落ち、やがて、よたよたともたついた動きになった。

 そのおかげも相まってか……このタイミングでようやく、既に放っていた血の鏃が化心に追いついた。

 寧音を回避するような軌道を描いて(もしかしてすり抜けたかもしれないが、一応当たらないように念じた)、緑色の目玉に突き刺さる。鈍い音をたてて、化心は公園の床に伏し……やがて消えた。

 そうして、青緑の化心との戦闘は、完全に終了した。

「寧音さん!」

 へたり込んだままの寧音に駆け寄る。まだ事態を飲み込めていないのか、その表情はどこかぼんやりとしている。

「大丈夫ですか、怪我は」

 一呼吸置いて、意を決してから、肩に触れる。手のひらに伝わる肌の冷たさ。あの現象は解除されているようだ。そのまま顔、首、腕、足にも触れる。思った通りどこにも負傷はない。服に土がついているだけだ、とりあえず軽く払っておいて…………念のためもう一度全身を――「と、とばりっ……ちょっと、くすぐったいって……」

 寧音からの反応、身をよじって、顔を赤らめていた。この感じなら、意識も問題ないようだ。

「あ……すみません、その、どこか痛いとこは」

「ううん」寧音がかぶりを振る「どこもない、けど……あの、バケモノは」

「殺しました。寧音さんが逃がしてくれたので、子供たちも無事です」

「……そっか」

 よかった〜と息を大きく吐いて、寧音が地面に倒れ込む、またしても服が汚れた。

 もちろん、そのまま土の下まですり抜けて落ちるなんてこともない。

 あの特殊な状態は、あの瞬間だけのもの。

 彼女が〈明日なんて大っ嫌い(デイドリーム)〉という〝言葉〟を叫んだ……否、〝唱えた〟瞬間のみ、彼女の身に起きた変化。

 

 〈見当違いの恋(スクリーム)〉、

 〈遠く遠くへ(ランペイジ)〉、

 〈明日なんて大っ嫌い(デイドリーム)〉。

 

 魔法少女たる彼女が咄嗟に発揮したそれは、過去に出会った魔術師が用いる〝デザイア〟に、よく似ていた。

 正確には、その響きが――声が空間と身体を震わせるような感覚が、空骸黑よりも、七凪勇兎がデザイアを使った時を想起させた。……が、そもそも自分は空骸のデザイアを一回しか見てないし、しかもあの時は対峙していてそれどころではなかったので、この主観に主観以上の根拠はなかった。

「えっと……」

 どこから何をどう言うべきか。

 衣装の変身術を見ている以上、この期に及んで正体を疑う余地は無かったが……それでも、戸惑ってしまう。

「……さっきの、アレのことですけど」

 まぁ、聞かない訳にはいかないのだが。

 なにせ、せっかくの有力な手掛かりなのだ。

 公園という場所からは、寧音の正体に迫れなかったものの、しかし公園に来たこと自体は、結果的に得るものはあったといえる。デザイアは魔術師にとって得意な術を指すと空骸は言っていたが……これがデザイアにせよそうでないにせよ、寧音という少女のアイデンティティを形作る要素と考えるのは、ごく自然に思えた。

 なので、故に、

 確認しなければならない。

 質問しなければならない。

 ならない、の、だが、

「……すぅ……すぅ……すぅ……」

「………………」

 わたしは、ただ見下ろすだけだった。

 対象から発せられる規則正しい、静かな呼吸音。

 言い換えれば、寝息。

 大の字になって安心を表現した魔法少女は、自身の安心感に任せるまま、爆睡していた。

 もう一度補足しておくが、ここは土の上、である。

「やれやれ」

 虫に抵抗感もないようだし、遊具での振る舞いも鑑みるに、外で遊ぶことが好きな少女だったのかもしれない。

 それこそ、友達と魔法少女ごっこをするような……いや、実際魔法少女なわけだから、そこは大真面目に正体を隠していたのだろうか?

「なんとも言えない、けど……とりあえず」

 一歩前進、と信じることにする。

 色々聞くのは帰ってからにしよう。

「ほら、寧音さん。起きてください、こんなところで……いやホントにこんなところで寝ないでください、まったくもう……寧音さん、早く起きて……寧音さん……全然起きない!?」

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