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ココロのトバリ  作者: サザンク
第3話 ウエルカム トゥ マイ ワールド

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◇14

◇14


 走っていた。

 わたしたち二人は、またしても走っていた。

 否——というよりはむしろ、後方から迫ってくるものから逃げていた、の方が表現としては正確だろう。その正体は当然化心——中年男性の顔に無数の腕のついた、あの怪物である。地面に接した部分の腕をガタガタと高速で動かすことによって生まれた推進力をいかんなく発揮し、化心はわたしたちとほぼ同じ速度での追跡を可能としていた。こちらが少しでもバテて速度を落とそうものなら、途端に追いつかれて、触手の餌食になってしまうことは、容易に想像できた。

 こうなった原因は偏に——

「——もっとこう、段階というものがあるんじゃないんですかね⁉」

「んなこと言ったって! もうやっちまったものはしょーがねーだろ!」

「やっちまう前に一言相談しましょうよ! それこそ部屋の中にいた時とか!」

「いや、俺が何やるかはわかってるもんだと思ったんだって!」

「わかるわけないでしょう⁉ わたしたちまだそんなに仲良くないんですよ⁉」

「なんか言い方……その、言い方ちょっと傷つくんだけど!」

 知るか! と言いたいところだが、これ以上体力を無駄にするのは避けたい。ある程度鍛えているとはいえ、それでも全力疾走しながら喋るのは、肺を中心に全身への負荷が大きいからだ。

 そう、こうなった原因は偏に、真横(よりはちょっと手前)で併走しているこの男、七凪勇兎にある。『戦うならまず、化心をおびき寄せないといけないよな』と彼が言ったところまでは良かった、というか完全に同意だったのだが……。

 壁を、殴り始めた。

 いきなり、何の断りもなく、次々と。

 そして例の一言——デザイアの呪文を唱えると、案の定、殴った箇所がひび割れ、凄まじい音を建物中に響かせ始めた。

 その音に釣られて化心が素早く登場し、この状況というわけである。

「音でおびき寄せるにしても、タイミングとかあったでしょう!」

「タイミングって何だよ! 結局戦うなら、いつ殴ったって別にいいじゃねーか⁉」

「先に二手に分かれておいて、挟み撃ちにするとか!」

「…………でも凄いだろ! この手袋、壁を思いっきり殴っても全然痛くならないんだぜ!」

「誤魔化さないでください!」

 五階から四階の廊下へ。

 非常階段は用いず、崩壊して穴の開いた床から飛び降りた。

 今度は走った方とは逆方向で——距離の余裕がある方へと再び駆ける。

 七凪が走る方へ追従する形。

「来たか!」七凪が後ろを振り返る。化心が、わたしたちとまったく同じ道筋を辿りながら、追跡してきているのが見えた。「今度は俺がやろうとしてること、わかるよな!」

「いつでも!」五階を走っている際に彼が行っている〝仕込み〟を見れば、彼の策を把握するのは容易かった。ついでに、耳を塞ぐ準備もしていた。

 化心の接近まで数メートル。

「よし——〈遠く遠くへ(ランペイジ)〉!」

 砲撃の号令を連想させるような叫びだった。

 次の瞬間、上階から、低く重たい破壊音がした。

 音を発した場所はちょうど——化心の真上に位置する天井。その部分がけたたましい音と共に崩れ去り、切り出された岩盤のような塊が、化心の身体を圧し潰した。

「うっしゃあ!」七凪がガッツポーズをとる。五階を走っている際、急に立ち止まった七凪は、自分の立っている床を思いきり殴りつけていた。四階を逆方向に走ったのは、殴った部分が化心の真上に来るように誘導するため、そしてその瞬間が訪れたとき、彼は狙い通りに〝起爆〟させ、瓦礫の下敷きにする形で化心を拘束したのだ。

 殴った場所を吹っ飛ばす〈遠く遠くへ(ランペイジ)〉の能力は、時間差での発動も可能、ということのようだ。

【——!】瓦礫は化心の胴体の中心部を抑え込んでおり、端から露出した首と触手をばたつかせもがきながら、脱出を試みているようだった。

 まだ、殺しきれたわけではない。

「とどめを刺さねーと……なんだが、触っちゃまずいんだよな」

「遠距離ならわたしが」アンプルを一本取り出して、開け口を化心の顔の部分に向ける。

 狙うのは、化心の顔。異形故に、身体の正確な構造は不明だが、顔を破壊して——すなわち脳を破壊して、手応えがない、というのは考えづらい。

「——〈貫け〉」

 アンプルを向けたまま、わたしは命じた。

 仕留めると決めてから、言霊を発動するまでのタイムラグは、ほとんど存在しなかったと言ってもいい。迷いなく、しかし言葉には精一杯の〝念〟を込めていた。

 血を放つ直前に頭をよぎったのは、ただ一つ、『果たしてこの化心の本体は何者なのだろうか』という一点のみだったが、この化心が重ねた被害のことを鑑みれば、誰のどんな心が化けたものであろうと、攻撃を躊躇する理由にはなり得なかった。  

 要するに——何が言いたいのかと言うと、


【オ…………オ キャクッ サマアアアアア‼‼‼‼‼】


 化心が雄叫びを上げながら、自身の上に乗っかっていた瓦礫を、無数の腕を無茶苦茶に振り回すことによって〝消し去り〟、その触手が〝血〟と〝わたしの右目〟を〝巻き込んだ〟ことについては……予想外の不可抗力だった、ということだ。


 ……まぁ、言い訳だけども。

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