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ココロのトバリ  作者: サザンク
第2話 死神感染

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◇6 前編

◇6


 校門を抜けると、横断歩道の先に見知った女性がいた。

 歩行者用の信号は青色に点灯していたが、彼女が渡る様子はない。先ほどから、きょろきょろと辺りを見回しながら、誰かを探しているようだった。

 ふいに目が合った。

 彼女の動きが止まり、すたすたとこちらに向かってくる。

 やはりというか、探し人はわたしだったようだ。

 仁王立ちのような体勢で、わたしを見下ろしている。

「……どうもです。椛さん」

「ん、お疲れ」

 葵さんの妹、椛さん。数日前に事務所で話した以来だった。

 今日もハートキャッチを訪問するつもりだろうか、道はまったく違うけど……。

「ホントに学校通ってんのね。姉さんから聞いたときは半信半疑だったけど」

「なんというか、おかげさまで」

「ふーん」

 椛さんがわたしの顔や制服を見つめてくる。なんでもない風を装っているようだが、しっかりと〝観察〟されているのがわかる。なんだか葵さんにそっくりだ。姉妹だから、こういうところが似通うのか?

「帷、この後暇?」一通りわたしを眺めた後、椛さんはそう言った。

「この後はハートキャッチに寄りますけど」

「じゃあ暇ね、ちょっと付き合いなさいよ。姉さんには私から連絡しておくから」

「え」

「夜、何食べたいか考えといて」

 椛さんはスマホを操作し始めた。直後、それが激しく震えるのをしめしめといった顔で見ている。

「姉さんから電話だ、珍しく慌ててるわね」

「出た方がいいんじゃないですか?」

「嫌よ、日ごろの仕返しってやつ。ちょっと困らせてやるんだから」

 そう言うと着信拒否の設定をした。

 ……これ後でわたしが怒られたら嫌だな。




 それからというもの、わたしはずっと椛さんについて行く羽目になった。

 ただし、彼女自身に何か明確な目的があったわけではないようだった。時折立ち止まってスマホの地図を確認していたが、それは単にどこなら時間を浪費できるのかと考えを巡らせていただけで……つまりわたしは本当の意味で、彼女の暇つぶしというものに付き合わされていたのだった。

 たとえば「服を見るわ」と言うので商業施設に入ったものの、試着室に放り込まれたのは私の方で、ひたすら着せ替え人形にさせただけだったし、「本を見るわ」と言うので本屋に入ったものの、ベストセラー本のポップを眺めただけで特にそれを買うわけでもなし、「近くに公園があるんだって」と言うので園内に足を踏み入れても、花壇の植物や遊ぶ子供をぼんやりと眺めるだけ、というように。

 わたしたちはそうやって、ただ漫然と街を歩いていた。

 日が傾きだし、にわかに活気づいてきた繁華街を歩いていたとき、(制服を着ているので落ち着かない)椛さんは振り返って「どれくらい殺ったの?」とわたしに尋ねた。

「……なんの話ですか?」

「化心に決まってるでしょ。今までいくつ殺したの?」

「殺した化心の数……」

 急に思ってもみない質問が来た。

 半年間の自分の仕事を思い返す。

 最初の頃は葵さんやフォルテさんがサポートにいたから、それらをカウントしていいものかは微妙かもしれない。でも、とどめを刺したならわたしが殺したことになるか。イルカ蝶はストレンジャーが混じっているから……いや、あれもとりあえずは化心でいいのかな?

 となると……。

「10体、ですかね」

「まだまだね」

 私のスコアが一蹴されてしまった。

 しかもドヤ顔で。

 ……別に悔しくないけど。

「なんかこう、言うことあるんじゃないの?」椛さんがドヤ顔のまま私に何かを促してくる。

「……? 特にないですけど」

「普通聞くもんでしょ『そういうあんたは何体だってんだー』みたいなの」

「いや、別に興味ないです」

「いいから聞きなさいって」

「……椛さんは何体殺したんですか?」

「多すぎていちいち数えてないわ」

「なんなんですかもう!」

 まんまと自慢話の片棒を担いでしまった。どっと疲れた気分だ。

 ふふんと胸を張る椛さん、用意した返しができてご満悦のようだったが、やがて小さく息を吐くと、わたしの目をじっと見て「——今日はさ」と言った。

「姫ってのがどんなのか、私なりに調べてやろうと思ったんだ」

「……それがわたしを連れ出した理由ですか」

「そそ、姉さんや母様の真似。でも向いてないわ、こういうの」

 椛さんがたははと笑う。

 なるほど、特に何か買うわけでもなかったのは、目的がわたしだったからか。いろいろな場所や物に触れさせたのも、わたしの反応を確かめるためだと。

 ……それにしては。

「もっとやりようがあったと思いますけど」

「かもね。でも得たものはあったし、一応満足」

「得たもの?」

「『全然わからん』ってこと」

「得てないじゃないですか」

「そんなことないわよ」

 椛さんが笑みを浮かべる。

「普通、他人が何考えてるかーなんてわかんないでしょ? そんで、私はあんたのことが全然わからなかった。わからないってことはつまり『織草帷はごく普通の女の子だ』ってなるわけ。その結論に至ったのが今日の収穫」

「なんか……屁理屈じゃないですか?」

「失礼ね、あえて言うなら哲学よ」

 意味不明な理論を展開していたが、椛さんは自信満々といった様子だった。

 なんだか反論する気も薄れてしまう。

 わたしとしても、普通の人、なんて言われるのは、そう悪い気はしなかったわけで。

 織草椛さん。

 姉の葵さんほどじゃないにしても、やっぱり読めない人ではある。

 初対面よりは好印象かもだけど。

「よし、お腹空いたからどっか寄ってこ。決めといた?」

「あ」

 そんなことを言われていたような。

 すっかり忘れていた。

「えっと、どこでもいいです」

「このあたりでどこでもよかったら、そこの居酒屋になるけど」

「すみません急いで考えます」

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