かくれんぼの鬼
最近の息子のマイブームはかくれんぼだ。
お風呂の時間になると適当な所に隠れ、私はどこに隠れたのかわかっていながら息子の名前を呼びながら室内を行ったり来たりする。
クスクス笑っちゃ隠れている意味が無いよ?
今日はリビングのカーテンに包まっているらしい。
カーテンから小さな足が出ている。
私はそろそろだと思いながらカーテンへと向かった。
さあ、見つけたと言って息子を捕まえるのだ。
「うぐ。」
息子のくぐもった声に、私のカーテンを掴んだ手が固まった。
だって真後ろから息子の声が聞こえたのだ。
苦しそうな。
私は後ろを振り向いた。
当り前だがそこには誰もいなかった。
だってそうだろう。
カーテンの下から息子の足が見えているのだから。
私はカーテンを思いっきり引いた。
しかし、カーテンは重くて、いつものようにぱっと開かなかった。
どうしてこんなにも重いのか。
息子がカーテンにしがみ付いているの?
「ま、ま。」
真後ろから息子の声が再び聞こえた。
「どうして!」
私は再び振り向いた。
やっぱり何も後ろにはいなかったが、カーテンから手が離れていた。
私が手を放したばっかりに、カーテンは自分が巻き付いている重量のものに耐え切れずにカーテンレールから外れて下に落ちた。
ゴツン。
とても重い音がした。
私は落ちたカーテンに振り向いた。
両手をカーテンにしがみ付かせたまま、床に横たわる私がそこにいた。
外は真っ暗。
カーテンが消えた窓は鏡のようだ。
そこに映るは息子の首を絞める女の姿。
夫と別れてくださいと、私に迫った夫の愛人だ。
私は慌てて後ろを振り返った。
リビングは私の家のものでは無かった。
間取りは我が家なのに、ソファも絨毯も違うものになっていた。
そして、家族が座るべきソファに座って、若い女が育児雑誌を読んでいた。
私の真後ろで、カーテンが締まるシャッという音が鳴った。
振り返れば、数十秒前の私が破いたカーテンでは無く、悪趣味な花模様のカーテンがそこで揺れていた。
床に横たわる私の死体だってそこには無い。
私は怒りのままそのカーテンにしがみつき、それを引き剥がした。
「きゃあ!いやだ、カーテンが落ちるなんて。」
女は立ち上がり窓辺に来た。
私は彼女の真後ろだ。
女はガラスに映った私を見て、その顔を驚きに大きく歪ませた。
私は彼女に最高の笑顔を見せつけると、彼女の後頭部を掴み、思いっきり窓ガラスに叩きつけた。
この女はあの女では無かったけれども。