強化魔法?いいえ、弱体化魔法です。
俺たちは要塞獣に乗って、国際勇者連盟に向かう流れになった。
いや、俺は反対だったんだが、逃げようとしたら
サグメに速攻でぐるぐる巻きに縛られ、連れていかれた。
「俺に拒否権はないんですかね・・・」
「ないわよ!?」
「なんで!?」
「メイガス様は知恵の大賢者で国際勇者連盟の創設者、いわばパトロンみたいな存在ね。
勇者の活動に必要な主な資金源の調達とかもされてくださっているわけ、なので逆らうわけには行かないのよ」
「そんな偉い人だったのか」
「ん?なんか呼んだかの?」
白ひげの三角帽の老人がひょっこり顔を出す。
「いたのか!?じいさん」
「いやぁ、ついでに乗せてってもらおうかと思って」
「やっと里帰りしたと思ったら何でメイガス様いるのよ・・・
勇者に休日はないわけ?」
サグメが愚痴る。
「いやぁ、だってそのぉ、まともな勇者がサグメちゃんしかおらんもん。
他の勇者はワシのいうこと聞かないし・・・」
(やべ・・・聞こえてた)
メイガスが心なしか小さくなりいじけだす。
「まともな勇者がおらんから、少しでも稼働率あげてもらわないと世界がもたんし」
(ブラック企業か!?)
「それで、まともな勇者をスカウトしに各地を巡っとる最中だったわけなのじゃ、ちらっ」
(俺を見るな、俺を)
「はぁ・・・もういいよ、逃げないからいい加減この縄を解いてくれ」
サグメは縄と解いて俺を開放する。
「で・・・ここは要塞獣の要塞の中でいいんだよな。
思ったより揺れないんだな・・・」
「この要塞にはサスペンションがついておってのう、振動に強いんじゃ」
「サス・・・なんだって?」
「ほっほっほ、バネみたいなものと考えてもらうとわかりやすいかの。
左右の揺れに対して、復元する力が働くのじゃ、
そのバネが要塞の下に設置されておる。
それゆえこの要塞の中は過度に揺れない仕組みになっておる」
「他にもこの要塞の中には住居があって、普通に生活できるわよ。」
「ほへぇ〜色々便利なんだなぁ・・・
俺、勇者ってずっと野営するものとばっかり思ってたけど
これだと安全に旅できるんだな」
「あ、お兄ちゃんの部屋はあっちね」
サグメが指差した先には
明らかに長らく人の手が入っていないすすだらけ、
ホコリだらけで蜘蛛の巣が張っている部屋だった。
「ちなみにお前の部屋はどこなんだよ」
「私の部屋はあっちよ」
俺の部屋とは真逆の方向の隅の部屋を指す。
小綺麗な木の扉に可愛らしい文字でサグメのお部屋という木の札がかかっていた。
どうせこいつのことだ、開けてみなくても少女趣味全開の室内が想像できた。
「いや、いくら俺のこと嫌いだからってな、こんな汚部屋じゃなくって、もっと別の部屋一杯あるだろ。」
「出るのよ・・・」
「はっ?」
「あの部屋からたまに幽霊が出るのよ、真夜中にトイレに行くときとか変な音してたり」
「・・・いや、うん、それって普通に酷くねぇか」
「お兄ちゃんを囮に私は生き残ってみせるわ!」
妙に活き活きとした妹の顔があった。
サグメは子供の頃から幽霊や霊体といった類の話が苦手だった。
それもあって、一人でこの要塞で旅するのが心細かったのだろう。
「お前、そういえば仲間とかいないのか・・・
こんな広い要塞一人だと持て余すだろ」
「うぐっ・・・」
どうやらクリティカルヒットだったようだ。
こいつのコミュ障は筋金入りだ。
子供の頃から周囲の友達と遊ぶときは自分から誘えず、
いつも俺の後をついてきていた。
まだ直ってなかったのか、よくそれで勇者になれたものだ。
ここまで来ると兄としては若干心配になるレベルだ。
「う、うっさいわね、バーカバーカ、お兄ちゃんに私の気持ちなんかわかんないわよ!」
サグメはそう言い捨てると走り去り、乱暴に自室のドアを開け締めして引きこもってしまった。
部屋を閉める瞬間、ベットの上に大量の動物のぬいぐるみがあるのを俺は見逃さなかった。
「やれやれ、騒がしいのう、らしくないというか」
「そうなんですか?」
「国際勇者連盟じゃと彼女がまとめ役じゃからのお、
あんなに取り乱したのはワシも初めてみたわい、
他の勇者は曲者揃いでの・・・」
アレ以上にめんどくさいのがいっぱいいるのか・・・
なんだか頭痛くなってきたぞ。
とりあえず俺は幽霊が出るというホコリだらけの部屋を掃除することを決めた。
箒とハタキを持ち、窓を開き掃除していく。
雑巾とバケツで丁寧に汚れを落としていく。
後はあれだけだな・・・
部屋の奥にはひときわ大きな布が掛けられている家具があった。
布をめくると巨大な鏡のようであった。
鏡は布で守られていたおかげかホコリ一つなかった。
鏡を覗き込むと骨になった俺の姿が現れる
「・・・アラ素敵」
その骸骨は鏡の中から這い出てくる
「うおわぁあああああああ、マジで出たあああああああああ」
俺は叫びながら要塞の廊下を駆け抜ける
「お兄ちゃん、うっさい!ぎゃああああああああああああ」
俺の声に釣られて飛び出してきたサグメも俺と一緒に骸骨に追われる形となった。
「お兄ちゃんなんとかしてよ!」
「お前、勇者だろうが!」
「幽霊とかマジ無理マジ無理!!」
仕方ない、覚悟を決めろ俺。
台所を通過する直前、オナベのフタと包丁をひっつかみ骸骨に切りかかっていく
鎧は伝説の鎧のままだった。
「支援するわ。守護なる精霊よこの者を守りたまえ、ガーディ!」
サグメの補助魔法が俺の防御力を飛躍的にあげる・・・はずだった。
俺には防御力アップの魔法が反転作用し、防御力ダウンの効果が適用される。
「ぐへぇ・・・」
俺は骸骨の一撃を鎧にまともにくらい壁にふっとばされる
「回復!回復!このものを救い給え、ヒーリング!」
サグメは俺を回復しようと回復魔法をかける・・・が逆に俺は全身に激痛を感じる
「ぎゃああああああああああああ、痛い痛い!!」
「逆じゃ逆、ワカどのに支援魔法は弱体化、回復魔法はダメージとなるんじゃ」
騒ぎを聞きつけたのかそこへメイガスが駆けつける。
「あ、忘れてたわ・・・テヘペロ」
「いいから早く助けてええええ」
骸骨の続く攻撃が俺を捉える。
「不浄なるものを燃やし給え、エルフレイム!」
メイガスの魔法により骸骨は燃えカスとなった。
「はぁ・・・なんとかなったか・・・」
メイガスの話によると骸骨は下級の屍霊系モンスター、スケルトンとの話だ。
その後、あの部屋の鏡は叩き割り、窓から要塞獣の外に捨てた。
「お兄ちゃんは念の為、他にも出てこないか確認するためにあの部屋ね」
「嫌だよ!」