最強魔法が最弱で最弱魔法が最強?もう訳が分からないよ。
そこにいたのは黒髪にツインテール、整った顔立ち、
大きな目に長いまつげに白い肌、誰がどう贔屓目にみても美少女だ。
その美少女は碧い鎧に鳥の紋章に宝玉の鍔ついた剣、
十字の紋章が入った白銀の盾と宝冠のような兜を身に着け、
あたかも神話の戦乙女を彷彿させるような出で立ちだった。
だが、こいつは俺の最大の天敵で
一番会いたくないリストナンバー1に入る。
それというのもこいつがいることで
俺は両親と周囲から常に比較されてきたからだ。
一度話したかもしれないが、
最強勇者夫婦の長男なのに妹と比べて脆弱だと言われるのは日常茶飯事で、
そのこともあって俺は両親から血もにじむような特訓を課せられた。
結果は数多の魔法や武技を獲得したものの、戦いでは全く役に立たないどころかスライムすらも倒せない体たらく。
一方、妹のサグメの方は天性の勘でメキメキと頭角を現し、
今や国際勇者連盟の勇者の一人であり、現魔王を倒せる最も近い勇者と呼ばれている。
そんなわけで俺は世界を救うのは妹に任せ、この村での農民生活を営んでいるわけなのだが、
面倒な勇者としての頼まれごともなく、俺は今の暮らしをそれなりに満喫していた。
頼むから俺をほっといてくれ、妹よ世界を救うのは勝手にやってくれ。
「げっ、おま、なんでここにいるんだ?」
「げっ、とは何よ!里帰りよ、悪い?それよりも何でお兄ちゃんこそ、ここにいるのよ」
「俺は要塞獣を止めに来ただけだ」
「止めに来たって、村に着く直前には止める予定だったわよ」
「おい、まさか、お前これに乗ってきたんじゃないよな」
俺は空き地に軽々収まりそうな巨大な岩、小さい山くらいの大きさの要塞獣の方を見上げる。
「え?うん、乗ってきたわよ、なんか文句ある?」
サグメは悪びれる様子もなく言い放つ。
「村の人たちは心配してたぞ、挙げ句の果てに俺が戦う羽目になったんだぞ」
「あら?御免遊ばせ、こんな雑魚にも勝てないお兄ちゃんだもんね」
「なっ!?」
俺が弱いことを知ってて煽ってくるとは
我が妹ながら性格がひん曲がっているとしか思えない。
「この子はね、巨体の割には普段は山にように擬態して隠れてたり、
見た目よりもずっと弱いのよ」
「俺は殺されかけたんだが・・・」
「まぁ、生息している場所に住んでいる魔物たちに比べたらずっと弱いって話なんだけど、
あ、でもこの辺の魔物よりはちょっぴり強いかな?」
「はぁ・・・もういいよ、頭痛くなってきた
どうやって飼いならしているかは知らないけど
他の村人に危害加えないんだろうな?」
「そんなの当然じゃん、
それより、お兄ちゃんどうしたの?
ぷぷー、まさかオナベのフタで戦ってたわけ?」
「あ、なっ!?これはなぁ、盾がふっとばされたので仕方なくなぁ・・・」
サグメは俺の方を見ると俺が持っている盾を指さす、
豪華絢爛の伝説の武具に紛れて
右手に持ったオナベのフタが否が応でも目につく
「ふーん、まぁいいけど、それ唯のオナベのフタじゃないの?」
「・・・やっぱそうなのか?」
「あたしの目に狂いはないわ、何なら鑑定してあげてもいいけど」
「いや、いい、帰るぞ」
「何仕切っちゃってんの、うっざいんだけど」
(#^ω^)ビキビキ
我慢だ俺、相手は妹だ、ここは大人の対応をだな・・・
殴りたくなる衝動を堪えて
俺たちは村に帰ると村人たちの熱烈な拍手が鳴り響く
「おお、すげぇ。ワカお前あのデカブツを止めたのか」
「きゃー、ワカ様ー」
「ワカ殿ー、お主は村の救世主じゃー」
言いづらい・・・超言いづらい・・・
ごめんなさい、俺の妹のペット(?)が暴走してご迷惑をおかけしたなんて言えない
「何よこれ?」
サグメがあっけに取られた顔をしている。
いや、お前のせいなんだってば・・・
俺は苦笑いをして村人たちに手を振ると半ば強引にサグメを引っ張り実家に帰った。
「そういえば、要塞獣を村の入り口においてきて大丈夫だったかな・・・」
「大丈夫よ、あの子賢いもの、それこそ危害を加えない限りは反撃してこないわ。
山の擬態もさせてあるし」
いや、やっぱり心配だ・・・
そもそも村の入り口にいきなり山ができてるのが問題だろ・・・
誰か犠牲にならないか見てこよう。
俺は家出て、村の入り口を出ると
先程俺をふっとばした魔法使い風な老人が山に擬態した要塞獣を見ていた。
「ほっほっほ、ワシの見込んだとおりじゃったわい、
お主はやはり勇者の素質があるようじゃわい」
「じいさん何者だよ?というか俺は何もしてないぞ、
勇者の素質があるのは俺の妹であって・・・」
「そう謙虚になるではない、ワシか?
ワシはそうさの、ただの旅の魔法使いじゃ、
どれお主を少し試させてもらえんかの」
「俺は戦いたくないんですが・・・」
「お主には何やら特殊な呪いが掛けられているように見えてのう、
何、数発魔法を撃ってみぃ、手加減はいらんぞい」
「本当にいいんですね・・・?」
俺は極大灼熱魔法を詠唱する。
うなれっ!コスモテックプロミネンスビックバン!
老魔法使いの周囲の大気が圧縮し、その中に恒星を取り巻く炎のごとく膨大な炎が渦巻く、
その後、超新星爆発を思わす大爆発が起きる。
だが、老魔法使いは全く無傷のようだった
いや、まぁスライムすら倒せないから大丈夫だとは思ったけど、
なんか凹むわぁ・・・
「逆じゃ」
「はっ?」
「お主の術式を見てて気づいたのじゃ、
意図的に逆の術式で展開しておるじゃろう?
お主の最弱の魔法を撃ってみるのじゃ」
「それって初級の炎魔法のフレイムですか?薪に火を付ける程度の威力の魔法ですよ」
言われてみれば、戦闘のときは常に全力で最高の技や魔法で戦っていた。
そうでもなければ、まともにダメージすら与えられないという思い込みがあったからだ。
「いきますよ、フレイム!」
俺が最弱の炎魔法を放つ、よろよろと火の玉が老魔法使いの方へ向かっていく
「む・・・これはいかん!」
慌てて、老魔法使いが避けると背後にある森の木の一つに火の玉が当たる
すると手のひらサイズの火の玉が一瞬で森全体を焼き尽くす業火へと変わる。
慌てた老魔法使いは天候魔法を詠唱し森一体に大雨を呼び出し、山火事を防いだ。
一方俺はすべての魔法力を使い果たしたかのような猛烈な疲労感に襲われていた。
「ぜぇはぁ・・・」
「ふむぅ、やはりそういうことのようじゃ。
これは逆転の呪い、すべての作用が反転するという呪いのようじゃね」
「つ、つまり、どうゆうこと何ですか?」
「最強が最弱に、最弱が最強になるすべてが逆転する呪いなんじゃよ。
例えば、お主の最強の攻撃魔法が最弱に、最弱の攻撃魔法が最強になる呪いじゃ」
「これは何事!?ってメイガス様!?なんでここに」
森が燃えるのを見て、サグメが慌てて駆けつける
「おおぅ・・・サグメちゃんじゃないの」
「ちゃんつけるんじゃないわよ、このエロジジイ、セクハラで訴えるわよ」
「まぁまぁ・・・ゴニョゴニョゴニョ」
「ええええ、お兄ちゃ・・・兄を国際勇者連盟につれてけって!?
一体どうゆうことなんですか?彼はスライム一匹満足に倒せないんですよ」
「彼には逆転の呪いがかかっているようでの、
強い敵であればあるほど力を発揮できる、
むしろこの村にいるより最前線にいたほうが活躍できると思うがの・・・
その呪いに心当たりがあるかの?」
サグメは思い当たりがあるのか、どこか悔しそうに唇を噛む
「・・・いえ、何でもありません。
わかりました、兄を勇者連盟につれていきましょう」
「どうしてこうなった!」