右手に盾を左手に剣を
毒キノコ狩りのワイルドボア遭遇のあの後、
別のポイントで食べられる山菜を採取して
俺と村娘は村に戻ってきていた。
「これは怪我によく効く薬草なんですよ、
今日守っていただいたお礼にもらってもらえませんか」
村娘が手籠から薬草を取り出し俺に手渡す。
「薬草よりもそのオナベのフタを貰えないか?」
俺は先ほどのワイルドボアの連撃を
無傷で受け切ったフタにただならぬものを感じていた。
「ほへ?これ家で使えなくなった。ただのオナベのフタですよ。」
「そうなのか?」
「それに既に立派な盾お持ちじゃないですか」
確かに俺が装備しているのは伝説の盾、伝承レベルでしかないが、
かつての勇者が魔王や古のドラゴンと対峙したときに装備していたとされる逸品だ。
だが、俺には装備をしていても恩恵を全く感じられなかった、
それどころか受けるダメージが増幅しているようにすら感じた。
それゆえむしろ先ほど持った村娘のオナベのフタの方が安心感を感じたのだ。
村娘は少し悩んでいたようだが何かを思い付いたかのように切り出す。
「5Gでいいですよ」
「この流れで金とるんかい、いや安いけど・・・」
「ほらだって、実はめちゃくちゃ強い伝説のオナベのフタだったら
なんか損した気分になるじゃないですか、
気分的な問題です。」
「見た目には明らかにただのオナベのフタだけどなぁ・・・」
俺は村娘からオナベのフタを買い取る
直後、村人たちが慌てて逃げてくる
「た・・・大変だー!なんかでっかいモンスターが村に突っ込んでくるぞ、
みんな逃げろー」
小さな山ほどの巨大な大きさのサイ型の魔物が村の方に突進してきていた。
「ありゃ、要塞獣じゃ、ほら背中に城のっけとるじゃろ」
「じいさん、呑気な事言ってる場合か、逃げるんだよおおおおお」
白い長い髭に古風な先端がぐるんとした長い杖、長いとんがり帽子を被った
いかにも魔法使い風な老人が解説する
あれ?こんなおじいさん村にいたっけ?
「これも運命かもしれんの、
お主が要塞獣を倒してこの村の英雄になるのじゃ、ワカよ」
「え、俺?あと名乗りましたっけ?」
「とっといかんか」
老人の杖が光輝くと俺は要塞獣の方に吹っ飛ばされていく
「ちょお待って、俺スライムにも勝てないんですってばあああああああああああ」
俺は姿勢を整えるため空中飛行の魔法をかける。
だが、空中に浮遊するはずが物凄い勢いで急降下していく
「やべぇ、術式逆にするの忘れてた・・・」
そうなのだ、俺は何の魔法を発動しようとしても
あべこべに作用してしまうため、普段から魔法を発動するときは術式を反転する癖がついていた。
今は咄嗟のことなので術式を逆に展開するのを忘れてしまったのだが、
そのため空中に浮遊するための下からかかる力が反転し、上からかかる力となり、急降下する羽目になってしまった。
「あ、やべ・・・死んだわこれ」
眼下を見ると要塞獣が突っ込んできているその頭上に追突しようとしていた。
ガツンという鈍い音ともに要塞獣に激突し、俺は地面に転がり落ちる。
「痛ってぇ・・・」
口の中に広がる草と土の味を噛み締めながら、大地があることのありがたみを知る。
伝説の兜があるものの痛いで済んだのが割と奇跡に近かった、頭には大きなたんこぶができている。
体中が痛みで軋むのを堪えながら起き上がろうとすると
地面には大きな影が覆いかぶさっており、太陽が隠れるのを感じた。
ふと上を見上げると額にちょっぴり傷がついた要塞獣が鼻息荒く見下ろしていた。
「あー・・・そりゃ怒ってますよねぇ・・・」
要塞獣がその刃のような鋭く巨大な長い角で俺を両断しようとする、
無理無理無理、大きさ違いすぎんだろ、
俺は伝説の剣と盾を身構えものも軽々とふっとばされる。
ふっとばされた衝撃で伝説の盾の方はどこかに飛んでいってしまった。
「げほっ・・・」
息をつく暇もなく、要塞獣の尻尾による続く第二撃がお見舞いされる。
俺は慌てて、右手に先ほどもらったオナベのフタを左手に伝説の剣を普段とは逆の手に装備する。
大きな衝撃音はしたもののオナベのフタが難なく尻尾の攻撃を防ぐ、
強いぞ!伝説の(仮)オナベのフタ!
また、逆の手に装備した今の状態のほうが不思議としっくりきて、
剣を思いっきり振れる気がした。
「くそっ、こうなったら破れかぶれだ」
俺は左手の剣で要塞獣の足を斬りつける。
すると僅かな切り傷をつけることができ、
要塞獣は出血する。
「おお、ダメージを与えられた!?」
足をちょっぴり斬られた要塞獣はさらに興奮して暴れだし、
巨大な足で俺は踏み潰されそうになる。
あー・・・やっぱり駄目だったよ
「どうどう、止めなさい、またごはん抜きにされたいの?」
俺が踏み潰される寸前、
要塞獣の頭の方から何者かの声が聞こえる。
すると要塞獣の動きは止まり、その何者かが要塞獣から降りてくる。
「なにやっているの?お兄ちゃん」
何か汚いものをみるように蔑んだ目の妹サグメの姿がそこにあった。