ごたごたそれっぽく御託並べて他人のせいにしてんじゃねぇ!うっせぇわ!
マックスの拳がヴァイスの顔面を捉え、吹き飛ばされたヴァイスはオアシスに落ちるが、
何処から別のヴァイスが現れる。
「残念だったなぁ、今の私は不死身でなぁ!」
「なんだと・・・?」
それどころか、複数のヴァイスが次々と現れる。
「ちっ・・・」
次々と襲ってくるヴァイスをマックスは蹴散らす。
すると倒されたヴァイスの顔がへのへのもへじとなった。
「ん・・・もへじ野郎!?
何故喋れる?!」
「ああ、気づいたか、
そうさこの变化の杖と私の認識改変の力のおかげさ、
こいつ自身が本当は喋ってなどいないさ、喋っているという認識を君にさせてるだけさ」
ヴァイスは碧い宝玉が付いた杖を取り出す。
「てめぇがもへじ野郎を操っていやがったのか?」
「残念、正解だが間違いでもある。彼だけは特別でね、
私の意思とは関係なく自我を持つ、私が操っているこれらは彼の複製体、自我を持たない模倣品だよ。
人間になりたい彼の力を借りて君たちをオーブの間に誘い込み、
君たちが全員オーブの間に入ったのを見計らって私は認識改変の力を使った。
私の認識改変も完璧じゃなくってね、オーブの力が必要だったのさ。
後はすでに滅んでいるアシオースの街に君たちを誘いこんで、
私の毒入りの果物やエールを食してもらったわけさ、
真っ向にやると流石に勝てないからね。
ちなみに君たちが見た街人達は全員もへじの模倣品だよ」
「随分と回りくどくセコい真似しやがって・・・!」
ヴァイスは蠍の尻尾をちらつかせる
「だが困ったことに三名も私の毒入りの食物が効かないとはね」
「当たり前だ、糖質による肥満もアルコールも筋肉の敵だからな!」
「君が食べないから、鳥の串焼きのほうにも入れたんだがな・・・」
「タンパク質の塊が毒になるはずがあるまい!」
「・・・全く理解ができないが、どうやら君たちは私の毒に対する耐性があるようだ。
最大の誤算は完全な認識改変が解けてしまったことだが、
それは君たちを直接倒した後、対策を考えることにしよう」
ヴァイスは偽ヴァイスに紛れ込むと数はさらに増え、マックスを次第に追い詰めていく。
「くそっ・・・!キリがねぇ」
一方、俺はフラウと共に仲間たちを要塞に運ぶと食堂に簡易な布と枕を用意し、全員を並べる。
俺はサグメの額に手を当てる。
すごい熱だ・・・
「・・・もしかしたら、毒の類かもしれないの、
あいつの尻尾は蠍だったの。
マックスはどうか知らないけど、お兄ちゃんと私は毒に対する耐性があるの」
俺はあべこべの呪い、
フラウは人形だから毒が効かないのは当たり前か
「なるほど、解毒魔法だな」
「・・・このものを蝕む毒を祓い給え、デトス」
フラウが解毒呪文をサグメにかける、表情が和らぎ、熱も引いていく。
よしこれなら・・・
「後は任せていいか?俺はマックスの加勢に行ってくる」
「・・・気をつけてなの」
俺は要塞を飛び出る。
マックスは大量の偽ヴァイスに苦戦していた。
「くそっ!なんだか頭がボウっとして来やがった」
「くへへ、やっと毒が効いてきたか、いいぞ、どこまで持ちこたえられるかな?」
「ちくしょう、数が多すぎて本体がどれかわからねぇ・・・」
「待たせたな!」
俺はマックスの側に飛んでいく。
「他のみんなは大丈夫そうか?」
偽ヴァイスを殴り飛ばしながらマックスは答える。
「・・・どうした、顔色が悪いな、お前もまさか毒が」
「大丈夫だ、それよりもコイツらはもへじのコピーらしいぞ、とにかく数が多くそこそこ強い」
休む暇なく、偽ヴァイスが襲いかかってきてマックスは撃退に専念する。
「安心しろ、この毒は解毒魔法で治る。このものを蝕む毒を祓い給え、デトス」
俺は解毒魔法をマックスにかける。
「恩に着る、生憎自分に解毒魔法を掛けてる暇がなくてな」
マックスの顔から焦燥感がなくなる。
「そこそこ強いなら、俺ももへじを倒すのを手伝ったほうが良いか?」
「いや、お前には本体を探すのに専念してほしい、
このままだとジリ貧だ・・・
やつがペラペラ喋ったことにはやつの認識改変が壊れる
予想外の出来事があったらしいが」
俺は偽ヴァイスを蹴散らしているマックスの後ろで考える。
予想外の出来事・・・
俺たちは迷宮龍サンドラに入り、オーブの間にてサンドラを起動してしまった。
その後砂漠に放り出され、アシオースの街にたどり着く。
アシオースの街は崩壊していたから、この時にはすでに幻覚が掛かっていたのは間違いない。
逆に俺たちが意識を取り戻したタイミングの直前には何があった・・・?
要塞獣がオアシスの水を飲み、水位が下がった・・・!?
「わかったかもしれない!」
「おう、任せた!」
俺はボロボロの剣をぶん回し、攻撃を当てると偽ヴァイス達が吹っ飛んでいく。
お、これなら行けそう。なんか無双してる感じでちょっと楽しい。
そうして俺はオアシスの方へと歩を進める。
俺はオアシスにたどり着くと詠唱の時間を稼ぐために周囲の偽ヴァイス達を片付けることにする。
「蛟」
俺は初級剣技である湾曲する斬撃を放つと
周囲の偽ヴァイス達が波のように吹っ飛んでいく。
あぁ、快感!!やっと俺の時代が来たかも知れない。
俺は邪魔者を排除するとオアシスの水を干からびさせるべく、炎魔法を発動する
「フレイム!」
放たれた火球がオアシスの水を蒸発させる・・・はずだった。
だが、放たれた火球は自然現象を無視して
オアシスの水を完全に凍りつかせる。
「へ!?」
あれれぇ?俺、確かに炎魔法撃ったよな?
俺はフラウの俺のあべこべの呪いが強くなったという言葉を思い出す。
もしかして、これが呪いが強くなったということなのか?
俺の放つ攻撃魔法の属性が反転するということか。
俺は背後を振り向くと先程ふっ飛ばした。もへじのヴァイス共が起き上がってきた。
「おお、もへじかどうかわかるようになった。」
「なん・・・だと・・・?」
どうやら結果OKのようだった。
オアシスの上に一人だけ浮いているヴァイスが本体のようだ。
術が解け、狼狽するヴァイスをマックスは猛スピードでとっ捕まえる。
「ヴァイスくんつ〜かまえ〜た!」
「待て、落ち着こう。
話せばわかる、な?
同じ故郷で同じ傭兵だったよしみじゃないか、
私だって好きで子供まで殺してた訳じゃないんだ。
依頼主に雇われて仕方なく、それに私たちの故郷だって仕事なくなると生きていけないだろ?
なあ、そうだろ、仕方なかったんだ。」
「救いようのない屑だな、てめぇは・・・
俺はケジメつけて傭兵から足洗ったんだ。今の仕事で仕送りだってしてる。てめぇはどうだ?
自分の罪を正当化しようと自らの手でさらに罪を重ねてやがる。
ごたごたそれっぽく御託並べて他人のせいにしてんじゃねぇ!うっせぇわ!」
マックスのナックルクラスターボムが炸裂する。
「あ、ちょ、待って・・・」
更に勢いが止まることなく、連打のラッシュは加速していく
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラあああああああああああああ!!!」
一撃一撃が必殺の拳打で打ち込まれ爆散していき、
ヴァイスはボロ雑巾のようになる。
「とどめだ!メテオフォール!
俺の手で腐った性根のてめぇに引導渡してやんよ」
マックスはヴァイスを体ごと頭の上に掲げると地を蹴り、空中へと飛び立つ。
人が米粒ほどの大きさに見える高度からヴァイスを掴んだまま自らの身体ごと地上に向かって突進していく。
その勢いは重力と空気抵抗の釣り合いである終端速度を遥かに超え空気の断熱圧縮を発生させ、
隕石が燃え尽きるかのごとくヴァイスとマックスの体が燃え上がる。
地上に辿り着く前にはヴァイスは消し炭となっていた。
その後、マックスは右の拳を天に掲げながら地に降り立ち、勝利を体現していた。
マックスを取り囲むかのようにヴァイスに操られていた大量のもへじ共も死屍累々と倒れていた。
その光景はさながら神話の英雄のようであった。
「やったな!」
たが、俺の呼びかけがマックスに届くことはなかった。
「マックス?」
マックスは全ての力を使い果たし、真っ白に燃え尽きていた。
その横顔は何かを成し遂げたかのように穏やかだった。
静寂のみ残る砂漠の地に穏やかな風が吹き、灰となったマックスの体を攫ってゆく。