ペンは剣より強しという言葉はあるが・・・
あ、どうも俺、ゾンビっす。
ネクロマンサーの一件以降、
勇者連盟とギルドの関係は良好でギルドと勇者の垣根を超えての交流や
勇者連盟はギルド依頼も受けられるようにもなった。
それはいいのだが・・・
「なんで俺が試験官やらなきゃならないのですか?新入りですよ?」
「いいから、つべこべ言わずにやってね、お兄ちゃん。
一次試験なんだから、とにかく数をこなすのが大事なんだからね!」
俺はサグメにどやされる。
「へいへい・・・」
そう、今俺は勇者連盟の新しい勇者を公募するため試験官をやっている。
今回の公募はギルド、ポルトス町外問わず門戸の広い公募だ。
それゆえ、審査の人員が足りず、メイガスの指示で新入りの俺まで駆り出された次第だ。
「ホッホッホ、お主だったら強い人物が見つけやすいじゃろう」
あの狸じじいめ・・・
俺の試験内容は勇者冒険者に必要な基礎知識を問う筆記試験だ。
俺は受験生が回答した大量の答案用紙をペンで採点していく。
いつから俺は教師になったんだ?
ああ、こいつも駄目かな、基準点に達していない。
こいつは魔術の基礎を根本的に勘違いしている。
攻撃魔法を逆展開すると効果がどうなるかという問題の回答だが、
左右ひっくり返すとあべこべになって前方に射出されるが正解だ。
例えば、収縮は膨張、膨張は収縮、回転や軌道の向きも逆向きになる。
また上下ひっくり返すと逆向きに射出されるが正解だ、
補助魔法に関しては、これを応用して自身に補助魔法をかけるわけなんだがな。
なんだこりゃ・・・?落書きか?
俺は見慣れない文字で書かれた回答を手に取る。
全問記入してあるが、とにかく読めん。
残念ながらこれは0点かな・・・
俺は答案を不合格の方にひっそり仕分けると
バンダナをした短パン、Tシャツ、ポニーテールの身軽そうな少女が声をかけてくる
腰には珍しい短剣を複数ぶら下げていた。
「あ、どうだったすか?私の回答は?」
今の答案はお前のだったのか、
答案は一斉に回収しているわけではなく、
回答が終わり次第、俺の座席近くのボックスに下から入れられる。
「君は?」
「ミザリーっす。今の職業は盗賊やってるっす」
「大変申し上げにくいのだけど、読めないから採点できなかった。」
「古代文字っす。ダンジョン潜ってるマニアだったら知ってるっす」
「何!?」
ミザリーはミミズが這ったような文字の回答を指差す。
「ほら、ムニムニ語で補助魔法を上下逆展開することで自身にかけることができるって書いてあるでしょ」
「む、正解だ、だが、ムニムニ語で回答されても試験官の俺は読めん、なので回答は0点だ」
「えーなんでーいけずーっす」
「ああ、うるさい、他の受験生の邪魔になるだろ」
「大体、あんたそんな強そうに見えないっす、勇者連盟は本当に私が入るに値するんっすかね」
「む・・・」
「勝負っすよ勝負、私が勝ったらこの試験は合格にしてもらうっすよ」
本来ならこの勝負は受けないところだが、俺の直感が告げていた。
こいつは間違いなく強い。
「ふっ、いいだろう、俺が持っているお前の答案を奪い返してみろ、
ただし、答案を傷つけたり、俺を傷つけたりしたら失格とする」
俺たちは他の受験生の邪魔にならないように廊下にでる。
「武器とか魔法の使用はありっすか?」
「いいだろう、こっちはこれで受けて立とう。時間は30秒でいいか?」
俺は懐中時計を確認し、右手に答案を持ちながら、左手にペンを構える
「十分っす、吠え面かかせてあげるっす」
「さあ、こい!」
ミザリーは左手の短剣を抜くとともに右手にテープに包まれた玉のようなものを放り投げる
玉の導火線はすでに着火していた。
次の瞬間、玉は破裂し廊下に煙が充満する。
「煙幕か!?」
煙の中から、短剣が飛び出す。
「おっと」
俺はペンで短剣を受け流すと地を這い足払いを繰り出す。
「へへん、当たらないっすよ」
ミザリーは軽々と跳躍して躱すと俺を足蹴にする。
俺は咄嗟に右手の答案を腹部に隠していており盗られるのを防いだ。
「ちぇ、お兄さんなかなかやるっすね」
時計はすでに20秒経過していた。
煙幕の煙は徐々に晴れていき、周囲の様子がわかるようになる。
おそらく次が最後の攻防となるだろう。
ミザリーが右手の短剣を抜き、両手の短剣で俺に突進してくる。
右手の短剣が俺のペンをめがけて振り払われたように見えた、
だが、一瞬でミザリーの右手の攻撃は俺の視界から消え、
左手の剣からの一撃が俺のペンを襲う。
なんだ、一瞬意識が飛んだような・・・
「微睡みの剣っすよ」
俺は気づくと右手の答案を手放していた。
「し、しまった!」
宙に浮いた答案をミザリーは右手の短剣を手放し掴み取ろうとする。
「もらったあああっす!」
「く、くそっ!」
咄嗟に俺は体を捻り、体ごとミザリーの突進をブロックする、
するとミザリーともつれるような形で廊下の床に倒れ込む形になる。
答案は誰の手にも掴まれていない状態で廊下に落ちていた。
「あいたたた・・・」
「時間でござるよ、時間でござるよ」
そのとき丁度30秒が経過し、ハカセ謹製の懐中時計が終了を告げる。
ミザリーは左手に持っていた短剣が真っ二つに折れているのを確認すると驚愕する。
「は、はぁああああ!?ペンで私の魔法銀製の剣が折れたぁあああ?」
俺は倒れ込む拍子に苦し紛れに左手のペンで
ミザリーの左手の短剣を払っていたのだ。
俺は立ち上がるとミザリーの手を取って引き起こす。
「はい、合格です」
「答案取れてないのに?いいんすか?」
「剣が折れたから良いのさ、ミザリーがそれだけ強いって証明になる」
「???」
ミザリーが腑に落ちない顔をするが、すぐに気を取り直して合格部屋にいく。
「なんだか知らないけどラッキーっす?でもあの短剣高かったんだよなぁ・・・」
これは事前にメイガスから言付かっていたことだ。
そもそも俺が勝てる相手は強いに決まってるので、筆記試験の合否に関わらず合格にせよとの話だった。