あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!右に曲がったと思ったら左に曲がっていた。な…何を言っているのかわからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった…催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもry
日が暮れ小雨が降りしきる中、俺たちは街の街灯に照らされ道路に落ちているフラウの左腕を見ていた。
腕は出血しておらず、切り口の断面からは繊維が飛び出しそれが人形であることがハッキリとわかる。
「おい、こいつは・・・まずいことが起きてるんじゃないか?」
「フラウどのの腕はもがれ、サグメどの、ジャキガンは行方不明・・・」
「くそっ!」
俺は本部の入り口の木製の大きな門を殴る。
「しかし、犯人はどうゆう意図でここにフラウどのの腕を置いたのでござろうか?」
「決まってんだろ、俺たちに対する挑戦状だろ?
次はお前たちの番だって意味だろ」
「それにしても、僕は引っかかっていることが一つあるでござる。
今朝からこの門を出る際にサグメどのはいなくなったのでござるが、
僕たちが続いて門を出て堤防に向かったときも
いついなくなったのかは厳密にはわからないけど、
最後に出たはずのジャキガンがいなくなったでござる。それって・・・」
そのとき、闇が広がる空の方から声が聞こえた。しかし、その姿が見えない。
「ウフフフ、感が良いメガネは嫌いなの」
この声はフラウなのか?
「でも、もう手遅れなの、邪魔な黒髪ツインテの女も眼帯中二病男もすでに始末したの、
お兄ちゃんたちもようこそこちらの世界へなの。
私達ネクロマンサーが世界に認められないというのなら、簡単な話、世界の方を変えちゃえばよかったの
この街は全部ぜんぶぜぇぇぇぇんぶ私のものなの」
少女の声はどこか狂気を孕んでいた。
「ネクロマンサーって虐げられているのか?」
「どこの国でもそうだけど、死者を操ったりするのは死者に対する冒涜だから、
忌み嫌われるのは当然でござるね・・・」
「ネクロマンサーは生まれたら、即、肉体と魂を分離する儀式をされ、
依代となる人形に魂を移される。それゆえ彼女彼らにとって肉体というのは意味を持たない。
筋肉を鍛える喜びを持てないというのはいささか悲しき存在よのう」
肉体がないならどうやって子供を作ってるんだ?という素朴な疑問が浮かんだが、
今重要なのはそこではない、
やはり、フラウが魔王だったのか?
だとしたら、この落ちている左腕はなんなのだろうか?
「あぁ、もうすぐ、もうすぐなの、お兄ちゃんにはこの世界が終わり生まれ変わるのを特別席で見せてあげるの。
お兄ちゃんこそがこの世界を統べる王として相応しいの、そして私は王妃として君臨するの、
そこの邪魔なメガネと筋肉だるまを消したら迎えにいくわ、
ウフフ、ウフフ、アハハハハハハハハァァァァァァ・・・」
フラウの高笑いが闇の中に声が吸い込まれていく。
町外れの高台の方から、何かが光り、その方向から空の雲がさらにどす黒く変わっていく。
「高台の方がさっき光らなかったか?なんだ?雲の色が・・・」
周囲に降り注ぐ、雨の色が淡く紫色に変わっていた。
「なんだ?この雨・・・」
周囲から腐敗した人形のモンスター、ゾンビやグールどもが街の中に這い出てくる
「おいおい、どこから湧いて出てきたんだよ・・・」
「任せろ」
マックスは数匹を引きつけると拳打と足技を繰り出す。
「どらぁ!クラスターナックルボム&ツイスターシュート」
クラスターナックルボムによる爆撃打とツイスターシュートと呼称した真空波を放つ回転蹴りにより
付近のゾンビ共が粉々に粉砕される。
「結構脆いな」
だが、マックスが倒す以上にみるみるうちにゾンビやグールが集まってくる。
「流石に、キリがねぇぜ・・・」
「たしかに、このままじゃジリ貧だ・・・数の理は完全に向こうにある」
「元を断つしかないでござるね、黒い雨が降り出した後に出現し始めたということは高台の方が怪しい気がするでござる」
ハカセは高台の方を指差す。
「突破するぞ」
俺たちは、高台の方へと走り出す。
「おい、ハカセ、さっき本部の門がどうたらの下りをいっていたのはどう云う意味だ」
走りながらマックスが問いただす。
「あの門自体が魔王の仕掛けた罠なのでござる。
戦闘能力的に高い最初に飛び出していったサグメどのと一番最後に出たジャキガンを
僕たちが気づかない様に分断したでござる、
つまりここは魔王の作り出した世界・・・」
俺は次のT字路を右に曲がる。
「あれ、俺さっき右に曲がったよな?」
そちらの方向には道具屋があるはずだったが、武器防具屋の方に出てしまった。
「なんで左側にあるはずの、武器道具屋がここにあるんだ????」
周囲が明るくないこともあり、気づくのに時間がかかってしまったが
そう、全ての風景が左右あべこべなのだ。
それだけではなく、右手に装備していたはずの盾が左手に、左手に装備していたはずの剣が右手に
いつの間にか入れ替わっていた。持ち替えた記憶はない。
「そう、ここは鏡面世界、上位のネクロマンサーが術によって構築した固有世界でござるよ」
「なんで鏡なんだ・・・?」
「逆というのは、逆さごとと呼んで生者に対し亡者を意味するのでござるよ。
例えば、僕の故郷では死装束という死者に着せる着物では普段着るのと逆の左前にするでござるよ。
それを踏まえて言えば左右反転の鏡面世界は亡者の世界ということになるでござるな」
そう考えると鏡の中からスケルトンが出てくるのは納得感がある。
「もしかして、いやもしかしなくてもだけど、
フラウが俺のことをやたら好いているのは俺があべこべの呪いを受けているからか?」
「そういうことでござろうな」
正面から何か巨大な人形の肉塊が近づいてくる。
肉塊は多数の腕や足、臓器、顔がグチャ混ぜに結合しており、
もはや生物とも呼べないおぞましい何かだった。
「タイタンゾンビでござる、複数のゾンビやグールの集合体でござる」
「うげぇ・・・」
タイタンゾンビは大腕をかざして薙ぎ払おうとするも、
巨体の割には動きが鈍いため、俺たちは難なく躱す。
が、道路の露店の商品や付近の建物の壁が壊れるなどの損害が出る。
「ここは僕に任せるでござるよ」
ハカセはどこからともなく出現した巨大な大砲を構える。
いや、ほんとどこから出した。
「名付けて、ハカセキャノンマークⅡでござるよ」
ハカセキャノンマークⅡは強大なエネルギーを充電し始める。
タイタンゾンビが続く第二撃を振りかざそうとする直前、充電は完了した。
「いくでござるよ」
稲妻のようなエネルギー弾が砲台から打ち出され、タイタンゾンビの土手っ腹に大きな風穴を開ける。
タイタンゾンビはゆっくりと後ろ向きに倒れ、肉塊は強烈な腐敗臭とともに溶け骨だけと化していく。
「うえ・・・ひどい臭い」
残った骨だらけの残骸の中に、見知った眼帯をつけた学生服の青年が埋もれていた。