伝説の剣が最強だなんて誰が言った。
マックスに引きづられ、俺は城の中庭につれてこられる。
他の勇者達もついてくる。
マックスは俺を中庭の中央にある闘技場に連れ込むと
掴んでいた襟ごと俺を乱暴に放り投げる。
「といっても、ハカセによると村人程度のステータスだって?
死なねぇように極限まで手加減してやるよ、フラウ、能力低下魔法を頼む」
「・・・承知した」
フラウがマックスにありとあらゆる最上級の能力低下魔法を複数回かける。
「攻撃力低下、デパーフェスト」x10
「防御力低下、デガーディスト」x10
「魔法攻撃低下、デマジスト」x10
「魔法防御力低下、デマジガーディスト」x10
一方、俺は市場で買ったボロボロの剣を鞘から抜く。
「てめぇ、舐めてぇんのか、そんなボロボロの剣で俺とやりあおうとか、
ハンデつけてるのはこっちだ!ふざけんじゃねぇ」
伝説の剣を使う方が俺にとってはハンデなんだけどな・・・
俺はしぶしぶボロボロの剣を鞘に収め、
伝説の剣を抜刀する。
「盾もだ、そんなオナベのフタ程度で俺の拳が防げるとで思ってんのか?ああ?」
「よ、予備の盾が生憎なくってさ・・・」
俺はごねる。盾まで失ったら速攻で終わりそうだ・・・
「ふっ、我の盾を貸してやろう、存分に感謝するがいいぞ」
ジャキガンがどこからともなく漆黒の盾を放り投げる。
中央には宝珠が埋め込まれ、ドラゴンの紋章が描かれており、それなりの業物のようだ。
よ、余計なことしやがって・・・
「両者とも存分に戦って頂戴、決闘の様子は僕が記録しておくでござるよ」
ハカセは木製の箱にレンズがついたビデオカメラのようなものを取り出し決闘の様子を撮影し始める。
「それでは、レディー・・・ゴーでござるよ!」
機先を制したのはマックスの方だった。
「これで死ぬんじゃねぇぞ!」
早い・・・!一瞬うちに間合いを詰め、打撃の射程圏内に入る。
俺は右方向からのストレートを躱す。
「ほう、よく躱せたな、村人程度のステータスじゃなかったのか?」
俺は一対一であれば、見切りのスキルで大体の物理的な攻撃を躱すことができる。
だが、今まで戦ってきた弱いモンスターのほとんどは群で襲ってくることが多く、
実際の戦闘ではあまり役に立たなかったのだ。
俺は距離を取ると自分に能力低下をかける。
「速度低下、デスピーディスト」
「あぁん、なんだって自分に能力低下魔法掛けやがってんだ、
俺の拳が見切れたハンデのつもりか!?ふざけやがって!」
怒りのボルテージが上がったマックスは再び距離を詰める
「避けれるものなら、避けてみやがれ、クラスターナックルボム!」
爆裂の魔法が込められた拳の連打が俺を襲う。
咄嗟に盾を離し身代わりにして躱す。
ジャキガンから借りていた漆黒の業物の盾は弾かれ遠くに飛んでいき、
代わりに連打を受けた闘技場の地面が抉れて連打の後が残り、
その後、連打の数の分だけ爆発が起こる。
「おいおい、嘘だろ・・・あんなのまともに食らったら死んじまうぞ」
「どうした?防戦一方だな」
「くそっ、これでも喰らえ、ファイナルアルティメットブレイククラッシュ」
俺は縦横無尽に飛び回りきらびやかな流星のような無数の剣劇がマックスを襲う。
しかし・・・
「なんだこれは・・・?どうゆうことだ、最上級の剣技のはず。
だが、俺に傷一つ与えられていないぞ?」
「やはり駄目か・・・」
俺は最上級の攻撃魔法や秘技を習得する過程で
中級の攻撃魔法や武技を全て忘れている。
すなわち、最強か最弱の魔法と技しか使えない両極端な状態である。
村での初級炎魔法フレイムの経験上、
俺の最弱の攻撃魔法は強力な威力を発揮する代償として膨大な魔法力を消費する。
つまり最弱魔法の連発はできないため、一撃で決めるしかない。
「どうした!?打ち止めか!?」
マックスの左フックが伝説の剣の横腹を殴打する。
すると、鈍い金属音がして剣の中腹から真っ二つに折れて、切っ先の方はどこかへ飛んでいった。
なっ・・・伝説の剣が折れた・・・!?
数多の伝説の竜や魔王を倒したといわれている名刀だぞ!?
だけど、このタイミングがチャンスだ。
「いまだっ!穿て雷、ライオ」
(・・・なんだ?ただの初級雷魔法じゃねぇ!?)
上空に小さな雷雲が局所的に出現し、雷鳴が轟く。
一瞬の雷撃は地上に舞い降りると地面が大きく抉れ、黒焦げになる凄まじい爆発と暴風を生み出す。
事前に察知していたマックスは距離を取り、防御魔法を展開していた。
一方、俺は雷撃によって生じた爆風に巻き込まれ勢いを殺すことができず、
そのまま闘技場の壁までふっとばされ、壁に激突し崩れ落ちる。
「どうやら、勝負ありのようだな」
「・・・お兄ちゃん弱い」
「あーあ、残念でござるねぇ・・・戦闘センスはあるから、あるいはとは思ったんでござるんだけどねぇ」
「おいおい、まさかの自滅かよ・・・?お前の兄は所詮、勇者の器じゃなかったんだよ。
サグメ、こんなの推薦するメイガスのじいさんもお前の目もどうかしてやがる。正直見損なったぜ!」
「っ・・・!」
サグメは唇をぎゅっと閉じて、頬からは涙が流れていた。
昔から悔しいときや辛いときは声を出さずに泣く癖があるのを俺は覚えている。
「・・・さねぇ」
「はっ?」
「俺のことを馬鹿にするのはいくらでもすればいい、
だが、妹を、サグメのことを蔑むのだけは許さねぇえええええええええええ!」
怒れ、疎め、悲しめ、滅せ、殺せ、殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ
ボロボロの剣から滲み出た紫色の邪気が俺の全身を包んでいく。
誰の目にもワカの全身から邪悪な闘気を放っているのがハッキリと見えた。
「ああああ、素敵・・・」
フラウは恍惚の表情でワカを見つめる。
「あれこそが暗黒流殺法の極致、やるではないか我が同士よ。久しぶりに我の左腕も疼いてきおるわ」
ジャキガンが左腕の包帯を握りしめ、意味不明なことをいう。
「あわわわわ、あれは大丈夫なんでござるか!?」
「お兄ちゃん・・・」
俺はこの場の全てのものがコマ送りに見えた。
壁に激突した際に受けた全身の激痛も消えている、むしろ絶好調と呼べる状態だった。
今ならば、この場の誰よりも早く動ける確信があった。
「消えた!?」
俺はこの場の誰の目にも映らぬ速度で移動していた。
次の瞬間、マックスが辛うじて俺のボロボロの剣からの一撃を両腕で受ける。
「ぬおおおおおおおお!」
マックスはその一撃を弾くものの、俺は反撃の隙きを与えず続く第二撃、第三撃を放つ
その後は壮絶な剣戟と連打による相殺のラッシュとなる。
「うおおおおおおおおお!」
気づくとマックスと俺の攻守は入れ替わり、
マックスは防戦一方となっている。
俺はさらに加速していく、
もっと力を寄越せ、力を力、力力力ちから、ちかちかちかちちちち血血血血血血を寄越せ、もっと、もっとだ・・・
視界が赤く明滅し、俺はもはや自分の意志で己の肉体をすでに動かしてはいなかった。
マックスの速度をはるかに上回り、やがてついに決着のときが来る。
マックスが俺の剣戟を受け流し、渾身の右ストレートを放つ、
しかしそれはフェイントで左足の蹴りが本命、
限界まで加速していた俺にはそれすらもコマ送りにみえていた。
斬!
強烈な横薙ぎの一閃により、マックスは深い傷を受け大量の出血をし、前のめりに崩れ落ちる。
その直後、全ての力を使い果たした俺は深い闇の中へと意識が吸い込まれていく。
それからのことは覚えていない。