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第9話 兎っておいしいですか

 効果は、想像を絶した。


 翌朝に建明と顔を合わせた青玉が三度見するほどだった。


「は? 建明? え? 同一人物だよ……な??」

「そうだよ。なんだよ急に」

「こっちの台詞だよ。別人過ぎるじゃないか。師匠ずるい。こんな方法があるのに何で俺に教えてくれないんですか!」

「お前には千年早い」


 通天教主は青玉に厳しい。


「それ500年前にも聞いたっす。なのになんでまだ千年のままなんすか」

「お前には玉蓉がいないからだ」

「美人で貧乳の彼女をゲットすればいいんすか」

「それが九尾の狐狸精きつねならな。われもここまでになるとは思わなかったが、建明、お前かなり愛されてるな」

「はぁ、どうも」

「玉蓉は何をしている?」

「まだ寝てます」

「そうか。何回だ?」

「……3回」

「やりすぎだ馬鹿者。3回目はほとんど房中術としては無意味だっただろう」

「はい。でも、3回目が一番よかったです」


 建明がこんなことを言ってしまったのは、まだ寝起きで頭がぼやけているからだ。


 しばらく、通天教主と青玉は無言だった。


 視線が怖い。


 やがて、通天教主が青玉に噛んで含めるように言った。


「今、こいつを、殺しても、何の、利益も、ない。わかっているな青玉」

「はい、師匠。しかし殺したいです」

「耐えろ。それも修行だ」

「はい、師匠……!」


 なんと美しい師弟愛だろうか。


 二人は今、共通の敵を前に真の師弟となった。


「建明、次に惚気のろけたらそれ以上お前に教えることはなくなる。いいな」

「わかりました、気をつけます」


 ならなぜ回数を聞いたのか、と言う疑問は飲み込んだ。


「よし。それでは今日の修行を始める。今日から厳しくなるから覚悟しろ」

「はい!」


 建明は勢いよく返事をした。




 それから一年。


われが教えるのはここまでとする」


 天気のいいある日、通天教主はそう宣言した。


「修行は終わりですか?」


 建明は心の底から安堵した。


 通天教主の修行は、決して楽なものではなかった。

 精一杯控えめに言ったうえに百万歩譲っても『最悪の地獄』よりもひどい。


 手足がちぎれるくらいは日常茶飯事。

 特に3日に1回行われる通天教主との模擬戦闘は、それはもうひどいことになるのが常だった。

 灼かれ、溺れさせられ、突き落とされ、刺され、斬られ。


 およそあらゆる種類の受傷をした。


 怪我はすぐに治癒の術で回復してもらえる。


 しかしそれは安息を意味しない。

 回復したらすぐ修行に戻れるというだけの、結局地獄の構成要素のひとつだった。


 思い出すだけで気が遠くなる。


「いいや、これから最終試験を行う」

「最終試験……」


 いったいどんな地獄的な試験が課されるのだろうか。

 身構える建明にその内容が伝えられる。


「この岱輿たいよで一番強い奴に勝ってこい」

「……通天教主様のことですか」


 勝ち目ゼロ。

 無理ゲーすぎる。


われと玉蓉は除く」

「安心しました。それで、そいつはどこに?」

「この一年(われ)に教わっていたら、その答えは想像できるだろう」

「自分で探せと言うことですね」

「そうだ。勝ってくるまで、洞府に戻ることは許さん。それまで結界から弾いておく」


 通天教主の洞府の周りには、人除け妖魔除け仙人除けの結界が張られている。

 通天教主が認めない者は、入ってくることはもちろん、中を知覚することもできない。


「わかりました。では行ってきます」


 建明は右手をかざした。

 建明が“呼ぶ”と、地面を割って木の芽が伸びてきた。

 芽は伸び、ツタ状になり、自ら絡み合って一枚の楕円の板状にまとまった。


 建明はその板を手に取り、無造作に投げた。後を追って跳び、板の上に乗る。


 風が吹いた。

 ボードが風に乗り、滑空を始めた。


 通天教主の結界からでるまで10秒とかからない。結界を抜ける感触が体を走った。

 建明はちら、と後ろ振り返って見たが、そこにあるはずの洞府はなく、ただ山があるのみだった。


 すでに結界から弾かれているのだ。


「さて、あまり日数をかけたくないな」


 建明はつぶやいた。


 岱輿たいよで一番強いやつ。


 これまでの間、建明は一度も通天教主の結界から出たことがない。

 結界の外にどのような連中がいるのか、全く知識がなかった。


「しらみつぶしに聞いていくところから始めようか」


 建明は上空でボードを静止させ、周囲の気を探った。


 目当てはすぐに見つけることができた。


(いた)


 目星をつけた瞬間、あちらも建明に気付いたようだ。

 そいつの気が一気に加速して建明から遠ざかっていく。


「逃がすか!」


 建明はボードと風を操り、そいつを追う。


 空を一直線に飛んで追いかける建明に対し、そいつは森の中をジグザグに駆け抜けて逃げていく。


 しかし速い。

 進む速度はほぼ互角で、このままではいつまでたっても追いつけないだろう。


 すぐに建明は作戦を変えた。


 飛行に角度をつけ、降下したのだ。


 着地。

 建明はすぐに地面に手をつけ、再び周囲に気を走らせた。


 標的はかなり遠い。


 しかし射程内だ。

 建明は標的の周囲にある樹木数百本に気を通わせて掌握、気を送り込んだ。


「操木式・縛!」


 これが建明が修行によって得た力。


 『以心操木』。

 草木を思うままに生長させ、形を変え、性質を変える。


 建明の術を受けて木が一気に育った。

 枝がツタ状に変化し標的を絡め取ろうと風よりも速い速度で標的に迫った。


 全方位からの急襲にもかかわらず、標的は素晴らしい回避行動をみせ、二度三度、絡みつこうとするツタを回避した。


 だが、すべてを避けきることは不可能だ。

 ツタは着実に標的の逃げ道を塞いでいき、ついにその体を絡め取った。


「よし」


 そう思った瞬間、標的のサイズが一気に小さくなって、ツタから逃げた。


 だが既に逃げ道はない。


 すぐにツタが絡み合って隙間を埋め、再び標的を捕縛した。


 一件落着。

 建明は再びボードに乗り、ゆっくりと森の中を飛んだ。


 捕まえた獲物は、ほとんど裸の女だった。

 女はツタから逃げようともがいたためか、変なポーズでツタに絡まっていた。


 胸と腰回りだけがやたらにふかふかした白い毛皮で隠されている。玉蓉とは対極の豊かさだ。


 人間ではない。

 目星をつけたときから、建明はそいつがウサギの妖仙であることを知っていた。元々獣型でいたのだが、一度ツタに絡め取られた際に人型に化けたのだ。


「わ、私を食べても美味しくないですよぅ」


 涙目で訴えてくる。


「肉食の趣味はないし、精気を奪うつもりもない。安心してくれ」


 建明は両手を広げて害意がないことをアピールした。


 人畜無害。

 怖くないよ。


「じゃ、じゃあなんで他の妖魔ひとじゃなくて私なんですか」


 周囲にはいくつかほかの妖魔妖仙の気配もあったのだ。

 だがなぜ建明が彼女を選んだかというと、


「逃げたから」

「やっぱり食べるつもりなんだぁー!」


 涙がほとばしった。


「食べないってば」

「ほんと?」

「本当。ちょっと探してる相手がいて、手がかりを聞きたいと思ってるだけだよ」

「じゃあこれほどいてくださいー」


 もっともだ。

 建明は女を絡めているツタを操作して緩めてあげた。


「逃げないでくれよ」

「無駄なことはしないです」


 女はツタの間からすり抜けて地面に降りた。

 女は怪我がないか自分の体を一通り改めてから、建明に向き合った。


「それで、聞きたいことってなんですか?」

「このあたりで一番強いやつを教えて欲しい」

「何のために?」

「倒すため」


 女の目が賢明の真意を探ってきた。


 結論はすぐに出たらしい。


「ちょうど、どうにかできないか困っていたんですよ!」


 そして女は身の上話を始めた。


一日2話とか言いながら、こっそり三話目笑笑


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