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第32話 全部俺のものですか【完】


 岱輿たいよの山腹の崖の上で、孫悟空と通天教主が卓を設けて杯を交していた。


「ま、これで落着ってわけよ」


 満足げに孫悟空が酒をすすっている。


「青玉から聞いた。最後の騒動、うまく収めてくれたらしいな」


 通天教主のいう騒動とは、大会最後に起きた淑蘭による昊天殺害の騒ぎのことを指している。


「おうさ、死人と敗者に語る権利はないからな。昊天は、師匠を殺してまで洞主の座に納まろうとした外道だが、比武大会で負けた悲しみと恋が叶わない悲しみで気が狂い、無理心中しようと試みた。しかし、玉蓉に命を救われた恩のある淑蘭が、罪を覚悟でその命を救った、とね。というか概ね合ってるだろこれ」

「さぁ。昊天が何を考えていたのかなど、われの知るところではない」

「まぁな。とはいえこれで淑蘭は5年の洞府謹慎の軽い罰で済んだ。我ながらいいことしたぜ」

「さすが孫悟空、勝ちに乗じるのが得意だな」

「はは。そう褒めるなよ。これで無事、天網恢々疎にして漏らさず、だ」

「褒めてはいないぞ」


 と言いつつも通天教主は嬉しそうに頬をゆるめていた。


「青玉の修行はどうだ?」

「大会から戻ってきて以来、身の入り方が変わったな。良い刺激になったのだろう」

「そうさな。真面目にやればあいつの才能も開くだろうさ。ところで、俺には1つ気になることがあってな」

「なんだ?」

「通天教主殿、このたびの一件、まさかすべてお主の描いた絵ではないか?」


 孫悟空は油断ない目で通天教主の顔を見た。


「なんのことだ?」

「いやな、どうにも不思議なのだ。あまりに流れができすぎている。そもそも俺がここに来たのもお主の策略だろ。建明に豪古を襲わせて。その後どこまで、流れを見越していた?」

「はっはっは」


 孫悟空の指摘に、通天教主は大いに笑った。


「買いかぶってくれるな。われとて、流れに任せ逆らわずやるべき事を(おこな)ったに過ぎんよ」

「それだ。タオを極めた通天教主どのゆえ、その流れすら策略ではないかと思ってしまうのよ」

「まさに買いかぶりだ、天にひとしき者よ。われはただ、妲己との約束を果たせてほっとしているだけの敗残老人だよ」

「ま、そういうことにしておこうか。これ以上追求すると、この美味い酒をこれ以上飲ませてくれなくなりそうだ」


 孫悟空と通天教主は、互いにくつくつと笑って、酒を飲んだ。






 建明は、静運山にいた。


 昊天は死に、李仲はじめ門下一同は仙界追放の刑を受けた。


 霹天士の縁者は建明と玉蓉のみとなって、玉鼎真人は、静運山の洞府を建明に与えることにした。


 建明は、すっかり荒れ果てた菜園で残った植物の様子を調べていた。


 兄弟子達は誰一人として菜園の健全な維持に興味が無かったとみえ、肥料も与えずに草木の伸びるままに任されてしまっていた。


「けーんめーい!」


 玉蓉が走り寄ってきた。


「どぉ?」

「一言で言って、ひどい。兄さん達にもう少しでも菜園を整えることに興味があったらと思ってしまうね」

「そっか。また1から育てるの?」

「いや、ここから立て直していくよ。術を使えば早いけど、それは自然な成長とは言えないからやらない。元に戻るまで結構時間かかると思うけど」

「ふふ、もう時間はたっぷりあるから、ゆっくりやって大丈夫だよ」

「そうだな」

「建明様!」


 そこにものすごい速度で惠が駆けつけてきた。


「菜園を建て直すなら、是非私の好きな草も!!」


 圧がすごい。

 特に胸の。


「わかってるよ、惠」

「ちょっと、惠。でしゃばんないでよ」

「あーら、まだ今日はどっちの番か決めてないんだからいいじゃない」


 玉蓉と惠がすぐに火花を散らすのは相変わらずだ。今一番建明が頭を悩ませているのは、この二人の折り合いをつけることだった。


「まぁまぁ」

「まぁまぁ、じゃないでしょ建明」

「そうです、建明様」


 矛先が建明に来た。


(しまった)


 しくじった。


「どっちが一番か決めないからこういうことになってるんでしょ!」

「まぁ、決めても逆転狙って頑張っちゃうんですけどね!」

「とりあえず今日はどっちか決めて!」


 建明は困った。

 ここのところ2日に1回これだ。どうやらこの2人の間で、謎の交戦協定が結ばれたらしい。これを聞かれ、選ぶと、その翌日にはもう一人の方がベッドに潜り込んで来る。


 そういえば今日が聞かれる日だった。

 うかつ。


「えーと、そうしょっちゅうどちらを選べと言われても」


 できれば仲良くして欲しい。

 それだけが建明の願いだ。


「なるほど。建明は、直接対決を望むと、そういうわけね」


 玉蓉の目に炎が灯った。


「そうですか。サンピーですね。望むところです」


 惠も引かない。


(あ、これまたしくじったやつ)


 建明は絶望した。


 きっともう、菜園の草木を見ていればいいだけの日々は来ないだろう。

 建明は空を仰いだ。




 【 完 】

2月16日からの一気投稿におつきあいいただきましてありがとうございました!


もうちょっとゆっくり投稿していこうと思っていたんですが、ストックがあるとどんどん放出してしまう病気なんです。


おかげさまで楽しく投稿させていただきました。

暇つぶしくらいにはなったな、という方はどうか下の☆で評価していってください。


まだ時間余ってるんだけど、という方は良かったら下記も読んでってくださいませ。

○追放された伯爵公子は、超文明の宇宙要塞を手に入れました。

https://ncode.syosetu.com/n5606gg/


○異世界転移して初日に殺されてしまった俺は

https://ncode.syosetu.com/n8845ge/


それではまた、どこかの作品でお会いいたしましょう。

重ねまして、完結まで読んでいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 久しぶりの中華ファンタジー楽しませてもらいました、もっと増えろ。 あと健明もげろ。
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