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第30話 最後の一撃ですか


 淑蘭が莫耶を使うより早く、竹林が再生した。

 おいしげる竹が再び建明の姿を隠した。


「なるほど、無限に再生するのか、この竹は」


 淑蘭が呟いている。


「やっかいではあるが、もはやそれ以上のものではないぞ!」


 その通りだ。

 竹がいくら生い茂ってもこのままでは淑蘭に勝てない。


(こっからさきはいちかばちだな)


 建明は覚悟を決めた。

 用意のできている攻撃手段は尽きた。こうなれば、成功するかどうか賭けになる方法によるしかない。最期の切り札といえば聞こえはいいが、その実試合では使いにくいものだった。


 建明は目を閉じた。

 イメージするのは4本の剣。


 何度も見た。何度も斬られ、刺され、刻まれた。

 その力は身をもってよく知っている。


 それぞれ、誅仙剣、戮仙剣、陥仙剣、絶仙剣という名を持つ4本で1つの宝貝、誅仙四宝剣。


「偽典召填」


 4本の剣が、建明の周囲に浮かんだ。刀身に複雑な文様が描かれている。

 形はできた。

 性能はどうか。


「刻符!」


 竹に符印が刻まれた。

 淑蘭は建明の攻撃に備えているようだ。


「仙道悉く天に還るべし。誅仙陣!」


 符陣が発動し、誅仙四宝剣の文様が光った。


 淑蘭めがけて、竹の間を縫うように4本の剣が飛んだ。

 淑蘭が殺気を悟って宙に跳んだ。


 すかさず四宝剣が軌道を変えて上空の淑蘭を追う。


 淑蘭は干将と莫耶で四宝剣を弾いた。

 弾かれた剣はまたすぐに淑蘭めがけて飛びかかっていく。


(やはり通天教主様の力には遠く及ばないな)


 本物の誅仙陣では、四宝剣は嵐を呼びつつ光そのものの速度で襲いかかってきたものだ。

 建明の偽典は、ただの飛剣よりはましな程度といったところだろう。


 そもそも木気の宝貝ではない四宝剣を、曲がりなりにも形を造り自動攻撃ができただけで幸いと言うべきだ。


 淑蘭は剣の迎撃で手一杯になっている。


 これは時間稼ぎ。


 建明はその場に座禅を組み、体の中の気の流れを整えた。


 いよいよ最後の手段と言っていい。

 これまでは何時間とかけてようやく形にできた、というそれを、建明は今、わずかな時間で作り上げようとしていた。


 建明の重ねた両手の内に、光が集まり玉となっていく。


「雌雄連環、火気・業火八頭龍!」


 上空で8つの頭を持つ火の龍が四宝剣を食らった。四宝剣の内3本が溶かされて形を失い、残り1本だけが火龍の頭を突き抜けた。


 その最後の1本も、ほどなく莫耶の遠隔斬撃で真っ二つに断ち切られた。


 時間いっぱいだ。


 建明は、手のひらの上のそれをそっと地面に置いた。


「頼むぞ」


 一声かけた。

 そして、術を成す。


「操木式・神樹創成」


 地面に置かれた玉から根が生え、芽がでた。木の芽は急速に成長し、若木となり、成木となり、巨木となり、更に大きく育っていく。


 わずか10秒でその木は大樹となった。

 何万年と時を経たかのような古木のたたずまいだ。幹や枝は太く、力強い。


 その枝の上に建明は立っていた。

 淑蘭が正面の空中で剣を構えていた。


 淑蘭は左手の莫耶を煌めかせ振るうが、遠隔斬撃は生じなかった。


「無駄だよ、淑蘭殿。この木の影はこの木の領域だ」


 建明は上手くいったことを確信した。

 失敗していれば今ので斬られて負けだった。


「それが、切り札なのだな」

「あぁ。草木を育てることしかできない俺だが、だからこそ育てられた神樹。世界の中央で天を支える建木(けんぼく)、東の果ての扶桑(ふそう)、西の果ての若木(じゃくぼく)。その同種だよ。いわゆる世界樹って奴だな」

「そうか。金気顕纏・金剛龍波!」


 淑蘭が鋼の龍を放つ。

 しかしこれも、神樹の枝葉の領域に入ろうとした瞬間、何もなかったかのように消えた。


「守りは万全、というわけだ」


 淑蘭の言葉に、建明は頷いた。


「けれど、守り切って勝つなんて勝負としてはいまいちだ。だから」


 建明はもう一度、偽典を作った。


「偽典召填、雷公鞭」

「同じ事を繰り返すのか?」


 淑蘭の言葉はもっともだ。雷公鞭はすでに一度防がれている。


「いいや、同じじゃないんだな」


 建明は雷公鞭を天に向け、力を込めた。自身の力だけではない。神樹の気も同時に注いでいく。

 空が暗くなった。


「木は、天の気を受け、大地の気を吸って大きく育つもの。この神樹が集めるその力全てをこの一撃に込める」


 雷雲が空を覆っていく。

 厚さも広さも桁が違う。日の光がほとんど遮られ、闘技場が夜のように暗くなった。観客席に設けられた照明宝貝が自動で点灯した。


 雲の中で雷光が走り、地鳴りのような音が周囲に轟き始めた。


 その様子を見て、貴賓席の太上老君が立ち上がった。


「どうしたのです?」


 太上老君と共に貴賓席で戦いを観戦していた清虚道徳真君が尋ねた。


「まずい、まずいまずい。太極図が浸食されてる」

「太極図が?」


 太上老君が机に安置していた太極図を手に取り、気を送り込み操作をはじめた。


「あの樹が吸ってるんだ。くそ、道士ごときに僕の太極図が破られてたまるか!」

「あの神樹が?」


 太極図に影響を及ぼすようなものは試合場内にそれしかない。


「そうだよ。なんてやつだ! 斉天大聖のやつ、あとでシメてやる!」


 清虚道徳真君は、試合場内の弟子を見た。


 その背中を見る限りまだ戦いを諦めてはいない。

 干将と莫耶、雌雄一対の宝剣を揃えて捧げ持った。


「五気顕纏、雌雄は連環し陰陽は合一せよ!」


 干将と莫耶が共に光を放った。

 2本の宝剣が1つになる。


「これが我が洞府最後の切り札。お前が天地を支える大樹の力を借りるなら、私は天地がまだ1つだったころの世界創世の力を振るおう」


 淑蘭は、干将と莫耶が1つになった宝剣を、肩の高さでまっすぐ後方水平に向けて構えた。


 刀身がまばゆいばかりの光を宿している。

 互いに準備ができた。


「雷公鞭!」


 建明は雷公鞭を振り下ろした。


 轟雷が淑蘭を襲う。


「盤古剣!」


 淑蘭は宝剣を振り抜く。


 淑蘭の盤古剣からほとばしる光の奔流が雷と撃ち合った。


 力は拮抗していた。

 互いに残った気の全てを宝貝に注ぎ込む。

 流れる力に耐えられないのか、雷公鞭にひびが入った。


「切り、裂けぇぇぇ!」


 淑蘭が叫び、光の圧がました。


「なんのまだまだぁ!!」


 建明も叫び更に雷公鞭に力を込めた。その手の中で雷公鞭が砕けていく。


 力の衝突の余波があふれ、周囲を白く染め上げた。









 光が収まっていく。


 決着がつき、役目を終えた神樹が太極図によって分解されていった。

 空を覆う雷雲も霧消していく。

 試合場内は白煙に包まれていて、2人がどうなっているのか、観客には全く分からない。


『ただいま、太極図による判定が下りました』


 木吒が粛々とした口調でアナウンスしている。


『太極図が一方の死亡を確認。現在死者の回復作業中です。勝者は』


 少しずつ煙が晴れて、人影が見えた。


 どっちだ。


 観客の全員が固唾をのんで目を見張った。


『姜建明!』


 建明が右手を突き上げ、観客が一斉に沸いた。


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