第27話 決勝戦ですか
『中一日をおいて、本日ついに決勝戦!』
闘技場に実況の声が響き渡る。
『片や、さすが崑崙十二大師の直弟子と賞賛するほかない鮮やかさでここまで勝ち抜いてきた優勝候補筆頭!
対するは、予選わずか5秒で勝ち抜くという離れ業を見せた、実力不明の大穴選手!
どちらの選手もまだ全ての力を見せていないように見受けられますが、どうですか解説の哪吒さん』
『知らん』
実況木吒の横で、哪吒が仏頂面をしていた。白い輪で胴体を拘束されている。
その横には、顔を赤く腫らしている司会金吒が座っていた。
『哪吒、真面目にやれ。なんのために無理矢理縛って連れてきたと思ってるんだ』
金吒の声。
『どちらの試合も見ていないから、分からん』
『それだけ分からない試合と言うことでしょう! 期待が高鳴りますねー!』
木吒が無理矢理話をまとめた。
『そうだな。黄天花は強かった。荊淑蘭にその再来と言われるほどの実力があるなら、非常に楽しみだ。問題は相手にそれを引き出すほどの実力があるかだな』
「建明だって通天教主様直々だ。負けるもんか」
観客席に座る青玉が呟いた。
手には穀物を加熱して破裂させた菓子と飲み物を持って、すっかり観戦の準備を整えている。
「勝ちます、絶対」
惠は膝の上で手を握りしめ、無人の試合場を見つめている。
「お前、今回はチャンスって言わないのな」
「玉蓉との勝負は正々堂々とつけてやるのよ。それに、勝負は五分五分になったし」
「五分五分?」
何のことだ、と青玉には話が見えない。
「ふっふ。あれくらいで五分五分にしたつもりとは笑えるね」
後ろから玉蓉が観客席にやってきて腰を下ろした。
「側室は側室らしく、お控えになったらいかが?」
ぺたん。
「側室が愛されるのは、正室では満足できないからだわ、かわいそうな建明様」
ぽよん。
2人の争いは根深く激しい。
「いやだから何の話だよ」
2人の仲が悪いのはもはや恒例として、青玉には話が見えない。そこではたと気づいた。
「惠、お前、今日なんか肌つや良すぎないか?」
青玉の問いかけに、惠は露骨に顔を緩めた。
「ふふふ、これが愛!」
「建明のために仕方なく許可したって事忘れないでよね、この女兎!」
「あーら、女狐がなにかコンコン言ってるけど、狐語は分からないわ~」
青玉は踏んではいけない地雷を踏んでしまったことを理解した。
「ぐぐぐ、万が一の時には先にお前を殺してやる……!」
このままでは血を見る。
青玉は義務感を感じて、争いを収めにかかった。
「まぁそれくらいにしておけ、そろそろ始まるぞ」
青玉の言葉通り、木吒が観客を煽り始めていた。
『さぁそれでは決勝を戦う2人の入場だ。まずは東! ノーマークの瞬殺男がついにここまでやってきた! 108斤5尺6寸! 斉天大聖特別推薦枠! 姜、建明!!!!』
入場口が開き、建明が入ってきた。
「お、建明の奴、また急にレベルアップしてるな」
青玉が臨戦態勢の建明を見て気づいた。
「えへん」
惠が胸を張った。
青玉は、惠の得意げな顔と、玉蓉の今にも飛びかかりたいのをこらえている険しい顔を見て、ききほどの2人の言い争いを理解した。惠と房中術を行ったのだ。
「羨ましい奴め」
青玉は小声で呟くと、試合場に視線を戻した。
試合場の中央に立って、建明は待った。
『西! 剣を持たせれば仙界随一、ここまで一切術を使うことなくその剣一本で圧勝してきた超実力者! 95斤5尺1寸! 青峰山紫陽洞清虚道徳真君門下! 荆、淑蘭!!!!』
木吒の声が響くと同時に、正面の入場口が開いた。
その奥から、淑蘭がゆっくりと出てきた。
上がりかかった歓声は不発のまま静まった。
淑蘭はすでに試合前の緊張感を纏っていた。今にも剣を抜き斬りかかるのではないか、という緊迫感を持ったまま、ゆっくりと試合場の中央へ歩いてくる。
腰には剣が一本。干将だ。
もう一本あるようには見えないが、仙道が相手では目に見えないからと言って持っていないとは限らない。隠したり何かに納めたり、持ち物をごまかす手段は多い。
淑蘭は、一歩踏み込めば建明に剣が届く間合いにまで近づいてきた。
『今、共に底知れぬ力を持った2人が対峙しました!!』
ようやく、歓声が轟いた。
「建明殿」
淑蘭が口を開いた。
「顛末はどうあれ、ここで戦うことができて嬉しく思う。万全の状態と思っていいのだな?」
淑蘭の質問は、清虚道徳真君と戦った消耗が回復しているのか、ということだ。
「一日程度では十分には回復しないな。だけど安心して欲しい。それでも、俺は万全だよ」
「そうか。それならいい。良い戦いをしよう」
「良い戦いには興味ない。俺が勝つように戦わせて貰う」
「いいとも。私もそのつもりだ」
最期に笑みだけを交して、建明と淑蘭は黙った。
淑蘭は干将を抜き、建明は地面に右手をついた。
互いにタイミングを図りあう。
互いに初手をどう繰り出し、どう防ぐか。
淑蘭の初手は剣とみていいだろう。
いきなり干将の能力を使ってくるだろうか。いや、おそらく違う。使ってくるとしたら、剣技だけでは勝てないと理解した時だ。
本当の戦いはそれからだ。
初手の内から、二手目三手目を意識して組み立てていかなければ。
『はじめ!』
金吒の声。
淑蘭が地面を蹴った。
建明は右手を地面につけたまま、操木式を発動させた。
「操木式・大列柱!」
試合場に数十本の柱が生えた。
建明はすぐにその場から飛び退き、頭上から振り下ろされる干将の一撃をよけた。
建明は立ち並ぶ柱の一本の上に乗った。
「刻符!」
全ての柱に符印が刻まれた。
淑蘭の剣が、建明が乗っている柱を切った。建明は別の柱に飛び移りながら、符陣を発動させた。
「律令をもって万物を封じよ。連環封気大縛仙陣!」
符陣が効果を発揮する。




