表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/32

第26話 面白いですか


 龍の顎門が迫ってくる。


 その口には大きな牙が並んでいる。そのどれもが、研ぎ澄まされた剣のように鋭利だ。


 もはや防ぐ手も、回避する手もない。


 せめて正面から迎える。


 覚悟を決めた建明を、龍が食いちぎろうとした。


 その時、天空から流星が落ちた。

 流星は龍の頭に直撃し、打ち砕き、四散させ、地面に突き刺さった。


「何!?」


 驚いたのは、清虚道徳真君だ。

 建明は、驚くよりも、呆然としてその『流星』の正体を見ていた。


 黒い棍。

 その端には装飾の施された金色の輪がついていた。


「如意棒……」


 建明の作った偽典ではない。

 本物の持ち主は1人しかあり得ない。


「何をしに来た、斉天大聖!」


 清虚道徳真君が空に叫んだ。


「何って、わざわざそれを聞きたいのかい?」


 孫悟空の声は建明の背中から聞こえた。


 いつの間にいたのか、孫悟空は建明と背中を合わせてそこに立っていた。

 くるりと振り返って、建明の肩を抱くき、拳で軽く小突いた。


「よぉ建明。俺の如意棒を模しといてあっさり切られてんじゃねぇよ。もっと気合い入れてコピれ」

「すみません」


 建明は素直に謝った。

 今まさに本物の力を見せられた後には、偽典はまだ本物にはほど遠いと思うしかない。


「孫行者。何をしに来たのか、念のため、聞かせてもらえるか」


 清虚道徳真君が孫悟空を睨んだ。

 孫悟空はにっと歯を見せて笑った。


「邪魔しに来た」

「なぜだ」

「つまんねぇからだよ」

「その程度の理由で邪魔をするな!」

「するさ!」


 孫悟空は手を広げ、てくてくと清虚道徳真君と建明の間に入っていった。


「ようやく大会が面白くなってきたって時に! 妲己だかなんだか知らねぇが大昔の話を持ち出して台無しにしようってんだ! これが邪魔せずにいられるか!」

「そのような理由で泰山を荒らして許されるとでも思っているのか!?」

「許されるも許されないも知ったことか。俺を誰だと思っている! 天にもひとしき大聖者、孫悟空様だぞ! つまり、俺の行いは天の行いそのものだ!」


 清虚道徳真君が干将を構えた。

 孫悟空は、地に刺さった如意棒を引き抜き、頭の上でくるくると回転させた。

 

「おぬしの勝手理論など知るか。それで、おぬしはそっちにつく、ということでいいんだな?」

「そうしなきゃ面白くならないんならそうするがね。その前に、提案があるんだが聞いてくれるか?」

「聞こう」

「この勝負、俺に預けてくれねぇか?」

「……わしと、そいつの戦いをか?」

「そんなもん預かってどうすんだよ。もっとでかい目で見てくれよな」

「はて」


 清虚道徳真君がとぼけた。


「何のことかな」

(時間稼ぎだ)


 建明は思った。十二大師が集まるのを待っているのだ、清虚道徳真君は。

 そのことを孫悟空に伝えようと口を開いた瞬間、孫悟空がちらっと建明を見た。黙っていろ、という目だ。

 建明は黙った。ここは孫悟空に任せよう。


「決まってんだろ、玉蓉だよ」

「妲己の娘か」

「そうそう。あんたたちは玉蓉を葬りたい。こいつは、助けたい。これはそういう勝負だろう」

「それを預けろ、というのは?」

「ちょうど明後日、比武大会の決勝じゃないか。そこで勝った方が玉蓉をどうするか、決定権を得る」


 孫悟空は清虚道徳真君をビシッと指さした。


「道徳真君、あんたの弟子が勝てば処刑」


 その手を後ろに向け、親指で建明を指す。


「この建明が勝てば無罪放免。シンプルだろ?」


 孫悟空は『どうよ名案現る!』とばかりに得意げに両者を見た。


「こちらがそれに乗ることに何のメリットがあるというのだ」

「いーい質問だ。3つ、教えてやろう」


 孫悟空は指を順に立てながら理由を数えた。


「1つ、その方が面白い。

 2つ、この場で俺が暴れない。

 3つ、元始天尊とほかの十二大師は今ここには来られない」

「何だと?」

「みんな今頃、仲良く通天教主とお茶会してるよ」


 清虚道徳真君の余裕が崩れ、表情が険しくなった。


「さて選んでくれ、崑崙十二大師にして青峰山紫陽洞洞主、清虚道徳真君どの。時間ならいくらでもかけて考えていいぞ」


 清虚道徳真君はしばらく孫悟空を睨んだ。


「……勝負の結果は尊重するんだろうな?」

「もちろんだ。覆さないから勝負は面白いんだ。どちらが勝とうと、俺がその履行を保証する」

「いいだろう。その条件で勝負を預けよう。わが弟子淑蘭が負けるとは思えんしな」

「オーケー! その英断に賞賛を! じゃ、はやく玉蓉を連れてきてくれるか」

「何?」

「当たり前だろ。勝負が決まるまでは全て保留なんだから、とりあえず元の通りに、だ。安心しろ、逃げるなんて俺がさせねぇよ。わかったな建明?」


 孫悟空は建明が断るとは考えていないようだった。

 もちろん、状況を考えれば受け入れるしかないのだ。

 孫悟空に手伝って貰ってこの場で玉蓉を助け出そう、などという他力本願な考えを孫悟空が面白がるはずはないのだから。


「こちらもそれで構いません。ようは俺が淑蘭殿に勝てばいいんでしょう」

「物わかりが良くて俺は嬉しいぜ。あ、道徳真君、もう一つ条件いいか?」

「後出しだぞ、孫行者」

「まぁ聞いてくれ、今の戦いの内容を淑蘭に伝えないでいてくれないか?」

「……理由は?」

「もちろん、その方が勝負が面白いからだ」

「ならこちらからも。お前が本物の如意棒を貸さないのなら、だ」

「もとより貸す気は無いが、それでいいぜ」

「決まりだ!」


 清虚道徳真君は大いに笑いながら、泰山の奥へ登っていった。

 後には建明と孫悟空。


「大聖、ありがとうございます」

「俺は、俺が楽しくなるようにしただけさ。礼なら通天教主に言うんだな」

「本当に、通天教主様がここに?」

「お茶会会場は少し離れてるけどな。向こうにも今、俺の分身が話を伝えたが、納得してくれたみたいだぜ」

「あとは俺が勝つだけですね」

「あぁ。言っておくが、淑蘭は強えぞ」

「それでも勝ちますよ」

「頼もしいね。ま、俺も今夜は危ない橋を渡ったもんよ。道徳真君がもう一つの秘宝を持ち出してきていたら、俺も危ういとこだったかもしれないぜ」


 孫悟空があからさまにとってつけたような感想をつけた。

 建明がチラリと表情を窺うと、にやりとした。


(干将の他に、もう一つ強力な宝貝がある、ということか)


 建明は理解した。それが淑蘭の奥の手である可能性があるということだろう。しかしなんと露骨で下手な示唆の仕方だろうか。


「毛を刈られてしまうかもしれないくらいの危うさですか?」

「いいや、尻尾を切られるかもくらいの危うささ」

「それは怖い」

「だろ」


 しばらくして、清虚道徳真君が玉蓉を連れてきた。


 玉蓉は建明の姿を見ると、勢いよく走り出し、無言で抱きついてきた。


「なんで来るのよ、ばか建明……」


 声が震えている。


「玉蓉のいない生活なんて、塩気のない料理みたいなもんだからだよ」


 建明は照れを隠しながら玉蓉の背に手を回した。


「ふえええええええん」


 玉蓉が泣き出した。

 建明は玉蓉が泣き止むまで、ずっとそのままでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ