第17話 お悩みですか
「建明が予選突破!?」
昊天は予選結果を聞いて素っ頓狂な声を上げた。
本戦出場者に用意された個別の控え室に入ってすぐのことだ。係員が本戦の組み合わせを持ってきて見ると、建明の名前がある。
「えぇ。予選開始5秒で決着つけてましたよ」
係員はそう言い残して退出した。
(そんな馬鹿な)
静運山で修行していた時の建明の力はよく知っている。
修行に熱がなく、菜園で植物の世話をしてばかりいたのだ。それゆえ術も全然身につかず、力も全くといいほど伸びないでいた。
(同じブロックの奴があいつ以下の奴しかいなかったなんてことがあえりえるか?)
自問しても答えはノー。
当時の建明の力はランク分けすれば下の下といった程度だった。
仮にもこの比武大会に出てこようという者にそれより弱い者などほとんどいないはずだ。昊天のブロックで言えば、昊天でも苦戦して勝ちを拾えたくらいの実力者がそろっていた。
何か特別なことがない限り、建明が予選を勝つなどということはあり得ない。
昊天が一人考えていると、扉が開いて、弟弟子の一人、李仲が入ってきた。
「張兄!」
予想外のことが起こって相談したい、と言う顔だ。
「仲。ちょうどいいところに来た。建明が予選を突破したらしいが、戦いは見たか?」
「張兄を探している内に終わってしまったので、全然。ただ、どうやら木遁で木を操って一瞬で全員を仕留めたみたいです」
「馬鹿な、あいつがそんな術を使えると思うか?」
「とても信じられません」
「……そうか! 斉天大聖だ!」
答えを探した昊天は、そこに飛びついた。
「斉天大聖からなにかの宝貝を借りたに違いない!」
「斉天大聖が木遁系の宝貝を持っているという話は聞いたことがありませんが……」
「如意棒はどうだ? 伸び縮みするだけじゃなく形を変えることができたって不思議じゃないだろ」
「たしかに」
「だが建明と戦うことは考えなくて良さそうだぞ。みてくれ、これが組み合わせ表だ」
昊天は組み合わせ表を李仲に渡した。
「張兄の一回戦は申林波。二回戦は……建明が勝ち進んできたら建明ですね」
「あぁ。だが建明の一回戦の相手は王国翔、前回の準優勝者だ。勝てると思うか?」
「国翔は火遁の達人ですよ」
「そうだ。木遁と火遁では、火遁が有利だ。あいつの運もこれまでだ」
「しかし、仮に如意棒だとして、燃えますかね」
「宝貝は、使う者によって威力が変わる。どんなに強力な宝貝とて、弱い者が使っては弱い力しか発揮できない。使っているのはあの建明だぞ?」
「そうですね。俺たちは俺たちのことを考えましょう。国翔への対策は十分してきました。2回戦の次、決勝戦ですが、この組み合わせだと……」
李仲は組み合わせ表をじっと見た。
決勝戦まで勝ち残ってきそうな者は誰か考えたのだ。
「荆淑蘭ですね」
昊天は頷いた。
「見ていましたが、”麗剣天花”の異名通り接近戦はエキスパートですよ。武器で戦うのはよした方がいいです」
「遠距離戦だな。師匠の遺した宝貝にいいものがある。それを使っていくことを考えよう」
霹天士が作って保有していた宝貝は、今その全てが昊天の手にある。
それが昊天の切り札だ。
「そうですね。しかし、遠距離対策をしていないはずがありません。彼女の相手は皆同じ事を考えるでしょうから、戦い振りを見て戦い方を考えましょう」
「頼む」
「はい。張兄と私は一蓮托生です。必ず張兄を優勝させて見せます」
「そうだな。共に仙道を究めよう」
「もちろんです。そのために私たちは、師弟の道に反したのですから」
昊天は短く頷いた。




