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第16話 予選ってこうですか


『さーあ、ついに50年に一度の大祭典、崑崙比武大会がはじまります!!』


 拡声された声が闘技場中に響いた。


『実況は私、九宮山(くきゅうざん)白鶴洞(はっかくどう)普賢真人門下、木吒もくたです!』

『司会、五竜山(ごりゅうざん)雲霓洞(うんげいどう)文殊広法天尊門下、金吒きんたです!』

『兄さん、ようやく始まりますねぇ!』

『そうだな。ところで弟の哪吒なたも解説で呼ばれてたんじゃなかったか?』

『あー。哪吒ならどっかに逃げましたよ』

『不真面目な奴だ! そんなだから斉天大聖にでかい顔されるんだ。まったくあいつときたらいつもいつも』

『兄さん兄さん、マイク入ってます』

『ん、おほん。失礼しました。さてさて、まもなく開会式と、予選が始まります。皆さん、楽しむ用意はいいですか? 食べ物と飲み物の用意は? 次世代の道士達の姿に感動する心の準備は!?』


 完全に娯楽に徹している実況ががんがんと響いてくる。

 闘技場の観客席は満員。試合場には参加者が集められて開会の時を待っていた。

 特に整列はしていない。ふわっとしたかたまりになってその時を待っている。


 建明もその中にいた。


 観客席には玉蓉たちもいるはずだが、見回しても観客の人数が多すぎて見つけられそうにない。


『それでは参りましょう。仙人(レディース)仙女(アンド)の皆さん(ジェントルメン)!! 第13回崑(ウェルカム )崙比(トゥー )武大会へよ(サーティーンス )うこそお(クンルン)集まりいただきました(ジュニアトーナメント)!! 今、この時をもって、大会開会を宣言します!』


 拍手と声援が闘技場を震わせた。


『それではまず、大会会長、太上老君からご挨拶を賜ります』


 闘技場内の貴賓席に座っていた一人の優男が立ち上がった。


『長い挨拶は好きじゃない』


 太上老君は観客席をぐるりと見回した。


『観客席に集まってくれた仙道諸君。どうか楽しんで行ってくれたまえ。まだ未熟な者達の戦いではあるが、それ故に道を究めるに役に立つことが秘められているだろうから』


 次に、試合場の参加者を見た。


『そして大会に参加する道士諸君。どうか全ての力を見せて欲しい。君たちの命はこの僕が太極図で守る、故に相手を殺す心配などせずに戦うことができるのだから』


 そして両手を広げ、空を仰いだ。


『この50年、この大会のことを思わない夜はなかった! 次の50年もそうなるような、素晴らしい戦いを期待している!』


 観客が同意を示して歓声を上げた。

 太上老君はしばらくその歓声に応えてから着席した。


『さてそれではさっそく予選に移ります』


 司会の金吒がプログラムを進めていく。


 太上老君が目の前の机に置かれていた1つの巻物に手をかけた。

 巻物が光を放つ。


 試合場内に風が吹き、砂埃が舞った。建明は袖で口元を多い、目を閉じた。


『予選は全ての参加者で行います。全ての参加者を8つにわけ、その中で乱戦を行って貰い、ただ一人勝ち残った者が本戦に進むことになります。参加者の太極図により全くランダムに振り分けられます』


 砂嵐が収まった。

 試合場の中にいつの間にか仕切壁ができていて、試合場を8つに分けていた。参加者はそれぞれの区画に均等にばらけさせられている。


 建明の目の前に10人の男女がいる。


(この11人で予選、ということか)


 知っている顔はいない。

 それに少し安堵して、建明は試合開始の合図を待った。


『それでは、試合開始!!』


 カーン、と鋭い鐘の音が鳴った。

 道士達が互いに距離を取るように一斉に広がった。どう戦いを進めるか他人の出方を見ようという構えだ。


「面倒だから一気にいくぞ」


 その中で建明だけが、動かずその場で地面に手をついた。手の中には一粒の木の種。


「操木式・展」


 その木の種を一気に生長させ、区画内全体に広く行き渡るように木の根を張った。

 何人かが地面の下の異変に気づいて足下を見た。


(もう遅い)


「操木式・縛」


 区画のあちこちから木の芽が噴き出し、(ツタ)となって参加者達を襲った。

 参加者10人の内6人が一瞬で蔦に絡みつかれて動きを封じられ、残りの4人も、全方向からの蔦に襲いかかられては何をする暇も無い。すぐに蔦に捕縛された。


「操木式・万剣穿!」


 その蔦のあちこちから、一斉に長く鋭い棘が生え、身動きの取れない参加者達全員の体を貫いた。


 全て致命傷だ。


『おーっとぉ! 開始わずか5秒!! 第8ブロックで勝負が決まりました!!』


 金吒が叫んでいる。


『第8ブロック勝者は姜建明! なんと斉天大聖の推薦による参加です!』


 建明のいるところが第8ブロックであったようだ。


『待って兄さん。ちょうど見てなかったんですど、何があったんでしょうか?』

『木遁術のようですね。一瞬で生えた蔦が参加者を絡め取り、その棘が全員を刺し殺したのです』

『うわこっわ。さすが斉天大聖が推薦するだけのことはありますね』


 金吒と木吒がそんなやりとりをしている間に、参加者達を貫いた木が塵になって散っていく。


 建明が何かしたわけではない。


 おそらく勝負が決まったのを察して太極図が作用を始めたのだろう。貫かれた参加者達の傷も塞がっていくようだ。


(治癒とも違うな。巻き戻してる感じ?)


 建明は木に気を送って消滅に抵抗できないか試してみた。

 しかし消滅していく速度は変わらない。抵抗できているような感じもない。何もできないまま、木と、そこに込められた建明の気が消え散っていく。


 『なんでもできる』太極図。そう言われるわけだなと建明は思った。


「他のブロックの様子が見たいな」


 仕切り壁の向こうをどうやって見ようか、と考えていると、仕切り壁自体に画面が浮かび、他のブロックの戦いが映し出された。

 丁寧に画面端に数字が振ってあって、どこのブロック化分かるようになっている。


『それでは他のブロックの戦いも見ていきましょう。注目はやはり第3ブロックでしょう』


 実況につられて、建明は3と書かれている画面を見た。

 淑蘭が写っていた。


『清虚道徳真君の弟子、荆淑蘭がいるブロックです』


 淑蘭は他の参加者から一斉に攻撃されていた。全員が淑蘭を狙っている。

 剣、槍、弓、術、遠近様々な攻撃が淑蘭を襲っていた。


 淑蘭は剣一本でそのことごとくを捌いている。捌いているだけではない。一瞬の隙を突いて一人、また一人と参加者を斬っていく。


『素晴らしい剣技の冴えを見せています。ここまで一切術を使っていません。さすがというしかありません』

『黄天花の再来といわれるだけのことはありますね』


 淑蘭が最後の一人を斬るまでそう時間はかからなかった。

 結局苦戦らしい苦戦もなく、全員を斬ってしまった。


「接近戦はしないほうがいい相手だな……」


 建明は呟いた。

 接近戦で勝てる絵が思い浮かばない。もって20秒だろうか。


 遠距離戦での彼女は分からないが、接近戦よりは絶対にましな戦いになるだろう。


『第3ブロックは荆淑蘭! “麗剣天化” 荆淑蘭に決まりました!』


 大歓声が響いた。


 建明は他のブロックを見た。

 探すのは昊天だ。画面はエリアの一部しか映っていない。どこにいるか探しに探して、ようやく見つけた。

 ちょうど昊天が発火符を飛ばし、最後の一人に火をつけ倒したところだった。


『第6ブロック、張昊天が本戦進出を決めました』


 昊天はほっとしたように肩から力を抜いた。


 他のブロックでも続々と本戦出場者が決まっていった。


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