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第13話 他にはだれが出るんですか

 

 一人の道士、王国翔(こくしょう)を、20人の武装した男たちが囲っていた。

 剣、槍、矛をはじめとしたあらゆる武器種がそろっている。


 囲われている国翔の手には羽団扇。

 とても武器になるものではないが、国翔の顔はゆったりとして緊迫したところのない自然体そのものだった。


「はじめ!」


 号令の元、20人の男たちが国翔に襲いかかった。


 ある者は空からとびかかる。

 またある者は地を這うように下から攻める。


 国翔は最小限の動きで襲いかかる刀槍をかいくぐった。20人の連携攻撃をことごとく見切っている。

 風に舞う蝶のようだった。


 直接の攻撃では国翔に当たらないとみて、何人かが、武器を空に放り投げた。


「裂天剣!」

「飛火槍!」

「雷震槌!」


 そのすべてが宝貝パオペイ

 仙術によって特殊な力を持たされた超常の武器具。


 剣が国翔に向かって飛び、槍が火を噴き、ハンマーが雷をまき散らす。


 国翔は左手で懐から一枚のふだを取り出した。


「拒界符!」


 国翔の周りを結界が包んだ。

 炎と雷が結界に防がれた。


 結界を突き抜けたのは飛翔する剣一本。国翔はこれを難なく回避した。


 結界が消えた。

 国翔は手に持つ団扇に気を込めた。


「神火神風扇」


 国翔が団扇を仰ぐと、宝貝であるその扇から白い炎が吹き出て、攻め寄せる男たちの半分を包み込んだ。


 残り10人。

 再び団扇が火を噴いた。


「水龍坤!」


 それを、ひとつの宝貝が放った水の龍が迎え撃ち、消火した。


 水蒸気の煙が周囲を包んだ。


 国翔はその中を走り、水龍を生み出した男に切迫し、拳を振るった。

 拳が男の腹にめり込む。


「ぐぅっ」


 男が悶絶し崩れ落ちた。


 そして再び。


「神火神風扇」


 団扇から吹き出す炎が残りの男たちを焼いた。


「それまで!」


 声が響き、炎が散った。

 20人の男たちは全員膝をついている。炎は試合のためにあらかじめ貼っていた耐火符が防いだが、激しい動きと、炎が酸素を奪ったことで、呼吸が苦しくなっていた。


「見事だ、国翔」


 一人、距離を取って戦いを眺めていた青年が国翔を讃えた。

 その青年が国翔の師父、太日真君である。


「ありがとうございます、師父」

「うむ。準備は万端のようだな」

「はい。このたびの大会こそ、必ずや優勝を手にして見せます」


 国翔は比武大会の出場者の一人だった。今大会、優勝候補の一人と目されている。


「心強いな。前回大会では惜しくも準優勝に終わったが、今回こそはだな」

「はい。今度こそ、この緋隼洞ひしゅんどうに栄光を!」

「そうだな。だが今回の大会は前回よりも厳しい戦いになるぞ」

「存じております。靂日洞れきじつどうの張昊天が出るそうですが、なによりも紫陽洞しようどう荆淑蘭けいしゅくらんも出るとか」


 国翔の言葉に、太日真君がうなずいた。

 どちらもかなりの実力と噂され、下馬評も高い。


「荆淑蘭は崑崙十二大師、清虚道徳真君門下だ。勝てるか?」

「勝ちます」


 国翔は断言した。


 崑崙十二大師。

 たとえ彼ら自身が仙界屈指の大仙人たちとはいっても、弟子はそうではない。


 必勝を期した修行を重ねてきたつもりだった。


「そのためだけに、この50年を費やしてきました。得道のためではなく、ただ勝つための修羅の修行を」

「邪道の誹りをあえて受けてまで今回の大会にかけたお前の思い、ありがたく思う。そんなお前にこれを授けたい」


 国翔は太日真君が懐から出した一振りの剣を受け取った。


「この大会のために私が作った、宝貝“梅火”だ。これを用いて思いを遂げよ」

「ありがたくお預かりいたします」





 同じ頃、その荆淑蘭は下界の廃墟にいた。


 そこはかつて、200人あまりの人が暮らす穏やかな村だった。

 田畑を耕して生き、男と女が睦み合い子を成し、死んでいく。


 そんなどこにでもある村だった。


 その村に訪れた唯一最大の不幸が、オオカミの妖魔の群れが通りがかったことだった。


 住人はほとんど全員、一夜のうち食い殺された。

 その様子を仙界で見た清虚道徳真君は、弟子の淑蘭に妖魔討伐を命じた。


 淑蘭は凜とした女道士だ。

 長い髪を後頭部で一つにまとめ、切れ長の目が涼やかだ。油断をすればすぐに斬られてしまいそうな、玲瓏とした雰囲気がある。


 その周囲を十匹のオオカミ妖魔が囲っていた。

 オオカミたちは低いうなり声をあげている。淑蘭のことを警戒すべき敵と認識しているのだ。


 淑蘭は腰に提げた剣を抜き放った。


 刀身が月光を受けて白く煌めいている。


 その隙を突いてオオカミの一匹が飛びかかった。

 ひゅん、と剣が鳴った。

 一太刀でオオカミの首が断ち切られ飛んだ。


 その様子を見て仲間のオオカミたちが吠え、いっせいに飛びかかった。


 淑蘭はその場から一歩も動かず、剣を走らせた。

 一振りごとにオオカミが斬られていく。


 剣を振るう淑蘭の顔には何の感情も浮かんでいない。舞うような鮮やかさでただ当たり前のように剣を振るい、オオカミを屠っていった。


 淑蘭がオオカミを全て斬り捨てるまでに5秒もかからなかった。


 オオカミの血潮と死骸が辺りに飛び散る中、淑蘭だけが血の一滴も浴びず清らかなまま立っている。


 息は乱れず、穏やかな吐息が夜の寒さで霞のように吹き流れていく。


 淑蘭は剣を振って血を飛ばし、鞘に収めた。


 すたすたと歩き、一軒の家に向かった。

 家の中にあるタンスを開けると、中で小さな男の子が震えていた。


「大丈夫か?」


 声をかけられた小さな子供はうなずいた。


「よかった。怖かったろう? もう大丈夫だ」


 淑蘭はその子供を片手で抱きしめて抱え上げた。


 子供は無言で淑蘭にしがみついた。


「近くの村まで送ってやろう。強く生きるんだぞ」


 淑蘭は懐から符を出し子供に貼った。

 すぐに子供はすやすやと眠りだした。


(ほかに生存者はいないな)


 この子のほかに生きている気を感じない。

 淑蘭は子供を抱えたまま、滅びた村を後にした。



日間36位まで上がらせていただきました!

ありがとうございます!!

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