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第11話 孫悟空ってまじですか


 円盾は、かろうじて持ちこたえた。


 だが次の一撃があれば無理だ。

 建明は円盾をほどき、攻撃を加えてきた人物を見据えた。


 そいつはちょうど、空から降りてきているところだった。


 姿は金色の猿。

 豪古に比べれば何廻りも小さく細い体に、金色の鎧を身につけている。手には黒色の棍。猿は顔だけが赤く、目は灼熱に燃え、表情は憤怒に満ちていた。


 猿が地に足をつけた。

 着地音が全くない。


「てめぇ、俺の舎弟になにしてくれてんだ?」

「兄貴! 来てくれたんだな!」


 豪古が猿に駆け寄った。


「豪古、久しぶりだな。よく俺のことを思い出してくれたぜ」

「おう、おう」


 豪古が泣き出している。


「さて」


 猿が建明に棍を突きつける。


「お前仙人だろ。こんなところで妖魔いじめか?」

「修行だよ」


 応えながら、建明も足下から木を伸ばして棍にし、手に取った。


「へぇ」


 猿から膨大な気がほとばしった。


「じゃあ、俺が腕試しに付き合ってやるよ!」


 猿の姿が消えた。


(早すぎて見えない!)


 次の瞬間には、猿はもう目の前にいた。

 振り下ろされる猿の棍を、建明は棍で受け止めた。


「やるねぇ。レベル1クリアの褒美に、名前聞いといてやるよ」

「姜建明。道士だ。あんたは?」

「斉天大聖、孫悟空」


(やはり!)


 金色の鎧を纏い、黒い棍を持った妖猿など、他にいない。

 しかし孫悟空だとすると、その強さは仙界最強の噂がある妖猿だ。

 通天教主と同等と考えて相手した方がいいだろう。


「さぁ次はレベル2だ。ああ、後ろの女のことは巻き込まないから気にしなくていいぞ」

「そうかい。操木式・槍!」


 槍となった木の枝が孫悟空を襲う。

 孫悟空の姿がかき消えた。


「惠、ここから動くなよ」


 言い残して、建明は駆けだした。

 気にしなくていいと言われても、巻き添えになるようなことは避けて少し離れたところで戦う方がいい。

 走りながら、建明はこの場をどう対処するかを必死で考えた。


 孫悟空は遊んでいる。

 つけいる隙があるとすればその一点だ。


(よし)


 作戦は決まった。

 孫悟空は建明が惠から離れるのを待ってくれていたらしい。十分離れたのを見届けてから、孫悟空は左手の人差し指と中指をそろえて立てた。


「喝!」


 孫悟空を中心に大気が震えた。

 気の衝撃波が周囲を払う。


「操木式・盾壁!」


 建明は木の盾で防ごうとした。

 しかし、盾は一瞬で砕け散り、衝撃波が建明の体を叩いた。


「!?」


 衝撃波が建明にもたらしたのはダメージではなかった。

 体が動かない。


定身法かなしばりか!)


 建明は金縛りを解くため、体の中の気の巡りを整えた。

 孫悟空は、建明が術にかかったのを見て、手にした棍をくるくると回転させている。


「3,4,5秒っと」


 孫悟空がカウントしてから、建明に向かって飛びかかってきた。

 孫悟空の棍が建明の頭めがけて横に払われる。


 棍が当たる直前、金縛りを解くことができて、建明は孫悟空の棍を避けた。

 棍が頭髪をかすめた。


 孫悟空は間を置かずに棍を立て続けに振るってきた。


 建明は体勢を整え直す暇もない。

 棍で受けとめ、身をひねってかわして、かろうじてしのぐのが精一杯だった。


「さぁさぁ、このまま終わりか!?」


 孫悟空が煽ってくる。


「まだまだ!」


 建明は不十分な体勢ながら棍を振るい、孫悟空の連撃を一瞬途切れさせた。


「操木式・剣刺!」


 建明の手にしている棍から棘が生え、孫悟空を襲った。

 孫悟空は背後に跳んで逃げた。


 宙返りをして、降り立つ。


「操木式・列柱!」


 着地した孫悟空の周囲に、建明は十本の木の柱を立てて囲んだ。


「刻符!」


 柱の表面に、符印が刻まれた。


「律令をもって万物を封じよ。封気縛仙陣!」


 孫悟空をその中に包み込んだまま、符術の陣が効果を発揮する。

 符陣の中にいる者の気の働きを封じ、術はもちろん、身体の動きも封じる拘束術。


「へぇぇ」


 その中にあって、孫悟空は余裕の様子で感嘆の声を上げた。


「ほめてやるよ。ちゃんと動けねぇ」

「それはどうも」


 建明は応じながら、切り札の用意を始めた。

 封気縛仙陣で捕らえたくらいでどうにかできる相手とは思っていない。


「姜道士、仙術を誰に習った?」

「通天教主様に」

「あー。あのオヤジか。あいつこの辺にいんのか」

「いるよ」

「そっかそっか。あとで会いてぇな。じゃ、レベル3いくぜ。発!!」


 孫悟空が気合いを一閃。

 封気縛仙陣を維持している柱が割れて砕け散った。


(一瞬かよ)


 もう少しもってほしかった。これはそのまま力量の差だ。

 しかし、もう準備はできていた。


 建明は手にした棍を両手で捧げ持った。

 棍に気が満ちる。


「操木式・偽典召填」


 孫悟空の目が興味で見開かれた。


「きゃあ!」


 その横合いから、惠の悲鳴が響いた。

 建明がとっさにそちらを見ると、豪古が惠に襲いかかろうと飛びかかっていた。


(まずい!)


 豪古がいままさに惠を掴もうと手を伸ばした。


 その脳天に。

 黒い棍が振り下ろされた。


 頭蓋が砕ける音が建明のところまで聞こえてくるかのような一撃だった。

 豪古の頭を打ったのは、孫悟空が持っていた棍。

 棍は一瞬のうちに長さを伸ばし、豪古の頭に打撃を届かせたのだ。


 如意棒。

 持ち主の意のままに伸び縮みする孫悟空の秘宝。


「つまんねぇことしてんじゃねえよ」


 孫悟空が、棍の長さを元に戻した。

 孫悟空が一瞬で豪古の元に移動し、その腹を蹴り上げた。


「負けた奴が人の戦い(あそび)の邪魔すんじゃねぇ」


 豪古の巨体が宙に跳んだ。

 豪古の体はかるく10メートルは吹っ飛んで、地面に転がった。


 豪古は体を震わせながら体を起こし、土下座した。


「す、すまねぇ兄貴。すまねぇ。すまねぇ」


 豪古は息も絶え絶えの瀕死の様子だが、必死で謝っていた。


「おう」


 孫悟空は豪古の謝意を受け入れたらしい。

 孫悟空は再び建明の方に顔を向けた。


「さて続きを、と言いたいが、興がそがれちまったな」


 孫悟空の体に満ちていた気が霧消していた。

 戦いは終わりだ。


「ありがとうございます、大聖」


 建明はまず礼を述べた。惠を助けてくれたのは事実だからだ。


「いいってことよ。残念だぜ。一番面白くなりそうなところだったのによ」


 孫悟空は建明が手にしているものを見た。


 長い棍だったはずのそれは、すっかり短い棒となっていた。細く、長さも太鼓のバチ程度しかなく、戦闘に使えるようには見えない。


「面白い、という程度ですかね」


 棒が、ぱらぱらと細かい粒子となって散っていく。


「最低でも俺の毛を焦がすくらいはできるだろうぜ。さて、そろそろ俺にも事情を教えて貰っていいかね?」


 孫悟空は如意棒を小さくして、耳の穴に押し込めた。

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