マネキンとナンパそしてワンピース。
読んでくださってありがとうございます!
デート(序)です!
再び、僕は雪菜と一緒に上り電車に乗った。
雪菜はICカードを持っていなかったので、今時珍しい切符で乗車する事になる。
二分ほど待っていると、電車が到着する旨を伝えるアナウンスが流れ、ホームに電車が滑り込んできた。
青緑の車体に赤いラインが走った旧式の車両だ。
通勤ラッシュの時間帯は既に過ぎているので、人は殆どいない。乗っていたとしてもかなり高齢だと分かるお婆ちゃんや、私服姿の大学生らしき人達ばかりだ。
僕達は電車に乗り込むと、出口に近い所に並んで座った。
ドア閉まり、電車がゆっくりと動き出す。
「…………」
「…………」
先程の件があったので、お互い話しかけづらい。
僕は僕なりに色々と話題を探していたのだが、出てきたのは天気の話や所要時間の話などのありふれた物ばかりで、自分に会話力がない事を改めて思い知った。
横を見ると、雪菜はぼんやりと車外の景色を眺めている。
(こんな普通の仕草でさえ、雪菜がやると絵になるんだよな……)
と僕は思い、話題を考える事を諦め、僕も雪菜に倣って外の景色を眺める事にした。
二人の間に流れていた微妙な空気は、駅を一つ一つ通り過ぎる度に穏やかなものへと変わっていった。
* * *
「次は、福岡天神。福岡天神。終点です。」
目的地に着いた。
僕達が乗った電車は、終点に近付くごとに人が増えていって、今は軽い満員電車になっている。満員電車と言っても、本当の満員電車は戦場なので、これはまだ空いていると言える。
僕は雪菜に降りることを伝え、更に僕から離れないように、と言った。
ここの駅は改札口があちらこちらにあるので、一度はぐれると探すのが面倒なのだ。
安全に改札口を抜け、駅から出るとまず目に入ったのは美しい街並み……ではなく、
選挙カーに乗って声を張り上げるおじさんだった。
「皆さん!私には日本を変える力があります!皆さんの不安を取り払う力があります!更に〜〜」
自信過剰なおじさんだな、と思いつつ雪菜の方を見ると、驚いた事に彼女はおじさんの方をじっと見ていた。
黒い瞳がキラキラと輝いている。
「こういうの、興味あるの?」
僕がそう聞くと、雪菜は僕の方を見て頷き、選挙について熱弁しだした。
「当たり前だよ!最近、選挙参加可能年齢が下げられたから、私達も高校三年生には選挙に行かないといけなくなったんだよ?」
「お、おう。……でも、選挙なんてまだ先のことだし……」
「そんなこと言ってるから、若者の投票率が上がらないの!」
選挙ねぇ……結構先の事だと思っていたが……
「そうなのか……」
「うん!選挙の時は一緒に行こうね!」
「え?あ、ああ。そうだな。」
一緒に出かける事をさらっと約束されてしまった。
三年後だが。
……というか、こんな所で時間を潰したら勿体無い……
「雪菜、そろそろ行こう。」
「……うん。分かった……」
名残惜しそうにおじさんの方を見ていたが、渋々といった感じで僕について来てくれた。
なんだか中年のおじさんに負けたみたいで悔しい、と思いながらも、僕は雪菜を案内する事にした。
歩いていて分かるのだが、ここは周辺よりも人が多い。駅が近くにあるのも理由の一つだが、その他にも色々なものがあるので、人が自然と集まるのだ。
雪菜も人が多いと思ったらしく、
「……人多いねぇ。」
と言ってきた。
「東京なんかに比べたら、こんなの少ないと思うよ。」
僕がそう答えると、
「そうなの?……これよりも多かったら私、人に酔いそう……」
「その気持ちは分かる……」
若々しい中学生が交わす会話とは思えないような会話が飛んでいる。
僕と同様に、雪菜は人が多いところがあまり得意では無いようで、少し辟易したような表情を浮かべていた。
「ほら、もうすぐ着くからさ。中に入ったらそこまで人は多くないとおもうし。」
「ん……分かった。」
もうすぐ着くという事を聞くと、雪菜は少し元気そうな顔になった。
数分後、僕達はとある建物の中に入っていた。白い壁をした建物は、周りの建物よりも一回り大きい。
何故僕がこの場所を選んだかというと、ここは建物全体が服の専門店で、雪菜が服を見たいと言っていたからだ。
更に、ここは階層ごとに服の趣向が違う店が置いてあるので、雪菜も飽きないだろうと思った。
案の定、雪菜は建物の見取り図が描かれたマップを見て、目を輝かせている。
「ねえ拓海!まずはここに行こう!」
「了解。」
無邪気な雪菜の様子を見て、僕は一人頬を緩ませる。
……そこでふと僕は思った。
(…まだ知り合って一ヶ月も経ってないんだよな……)
こんなに自然に接する事が出来ているのに、まだ友達となってからの日は浅い。しかも相手は超絶美少女。普通の感覚をした男なら、緊張して上手く喋れないのではないか?
……普通の男(自称)だと思う僕が雪菜とこうして仲良くできるのは、やはり知り合ってすぐに腹を割って話し合ったことが一番大きいと思う。
……しかし、それだけでは無いような気がする。
なんだか、雪菜には昔会ったことがあるような気がするのだ。
波長があうからこそ感じる勘違いだとは思うが……
「拓海!早く行くよ!」
雪菜からお呼びがかかったので、僕はさっさと行く事した。
「わかった、今行く。」
(……まあ、別に気にしなくてもいいか。)
そう思って思考を打ち切ると、僕は雪菜に追いつくために少し足を速めた。
* * *
雪菜が選んだ店は、服の事をあまり知らない僕でも知っているような店だった。雪菜は店の中に入ると、僕が居るのも御構い無しにレディースのコーナーに進んでいく。
僕も一応付いて行くが、思春期の男子にとっては目に毒なものがたくさん飾られているので、非常に居づらかった。
……と、そこで雪菜から更に僕を困らせるような要求があった。
「拓海、この中から私に似合うと思うの、どれ?」
(無茶言うなよ……)
僕は自分の服は自分で選ぶが、真面目に選んだ事など一度もない。外に出て恥ずかしくない格好だったらなんでも良かったのだ。
それが女性、しかも超絶美少女ときた。真面目に服を選んだことがない上に、女性に喜ばれるものなど知らない僕にとって、それは非常に難易度の高い要求だった。
(……だけど、まだ光はある!)
そう。全く服選びが出来ない僕でも、ある程度のクオリティを出すことができる方法があるのだ。
それは即ち……
(マネキンだ!)
これは常套手段でありながらも、かなりの効果を発揮する方法だ。
服選びが難しい。そんな時、参考にするのはやはり店員さんの意見だろう。
……ただ、店員さんの意見を望めない状況もある。
例えば今の状況。雪菜は、”僕”が良いと思うものを選べと言っている。そこで自分の力で選ばず、店員さんに頼るのは少し、いや、かなり愚かな行為だ。
そんな時、道標となるのがマネキンなのだ。
マネキンは服屋に設置された、”こんな感じで選べば良いですよー”と示す説明書のようなものだ。
そのセンスは抜群。何故なら店員さんが作ったものだからだ!
僕は服を選ぶフリをしてマネキンを探す。一つくらいあるはずなのだが……
(あった!)
僕はそのマネキンを凝視する。
えーっと……上半身、下着だけ。下半身、下着だけ………
(………………)
何故だ。下着のコーナーはあっちにあったはず。何故お前だけこちらにいるんだ。
卑猥な格好をしたマネキンに対して心の中で文句を言っていると、横から雪菜に呼ばれた。
「拓海?なに見てるの?」
「え?マネキンだけど?」
しまった。心の中で呪っていたせいで、思わず自然に解答してしまった。
しかし、時既に遅し。
雪菜は僕が見ていた方向に視線を向ける。
「……………」
「……………」
理想的なジト目で見られたので、僕は正直に弁明することにした。
「……マネキンを見て、雪菜の服の参考にしようとしていました……」
「参考………え?」
そう言ったところで、僕は自分の失言に気づいた。
ここにあるマネキンはあのマネキンのみ。更にそのマネキンは下着姿。つまり………
「…へぇ……拓海は私に服を着せるんじゃなくて、脱がせるんだ……」
「あ…いや、その……」
「ふぅん。拓海はそんなにあのマネキンを参考にしたいんだぁ?」
「そ、そうじゃなくて……」
「仕方ないよねぇー。拓海も男の子なんだから。」
と、そこで僕は雪菜の口元が少しニヤついている事に気付いた。
(……僕、からかわれてるだけじゃん……)
そう思った僕は、雪菜に反撃に出ることにした。
「ねぇ拓海?私にあの格好をして欲しいの?ねぇねぇ?」
「…そうだな……頼んだら、雪菜はあの格好をしてくれるの?」
「へ?」
お、”予想外”って顔をしてる。
このまま立場を逆転させるぞ。
「ん?どうしたの?僕、質問してるんだよ?」
「え……その……えっと………」
突然の反撃に、雪菜は言葉が出てこないようだ。
徐々に顔も赤くなっていく。
このまま行けば立場逆転もできるが、流石にそれはやめた。
(直接的な事を言うのは……な。)
顔が赤いままの雪菜に、
「冗談だよ。からかってみただけ。」
と言うと、雪菜は俯いていた顔をパッと上げ、こちらを睨んできた。
「……バカ……」
(いや……真っ赤な顔でそんな可愛らしく言われても、悶えるだけです……………)
カウンターを受けた僕はその後数分間、唇を噛み締めながら雪菜の攻撃の余波に耐えるのだった。
マネキンについて色々とあった後、僕たちはそろそろ真面目に服を選ぶことにした。
雪菜に似合いそうな服は、今日雪菜が来てきたような清楚系の服だと分かっていたので、僕は涼しい色合いの服が売られているコーナーに行くことにした。
選ぶまでお互い秘密、という事で、雪菜は今僕の服を探してくれているはずだ。
「…………お。」
目に留まったのは、清楚さの筆頭と言わんばかりのワンピースだった。しかし、あまりにもベタすぎだので、僕は素通りしようとする。もっと他にも清楚さが感じられるものが色々とあるはずだ。
そう思ったのだが……
「……うーむ………」
何故かそのワンピースの元へと戻ってきてしまう。
無意識にそこへ目がいってしまうほど気に入ってしまったのだろうか?
(……ベタな白ワンピース、という訳でもないんだよなぁ…)
白ワンピースだったなら、僕はそれを選ぼうとした自分のセンスに絶望するだけで済むだろう。
しかし、その服は白ではなく、淡い水色だ。装飾も派手ではなく、スカート部分の下の方が花柄のレースでできていて、うっすらと膝丈まで脚が透けて見えるくらいのものだ。
(………やっぱり、これにしようかな……)
ほかにそこまで良いものも無い。
僕は自分の目を信じてそのワンピースを選ぶことにした。
* * *
ワンピースを持って雪菜の元に戻ると、雪菜は誰かと話をしているようだった。
近づいてみると………ああ、ナンパか。
僕よりも背の低い、恐らく受験が終了して調子に乗った中学生らしきチャラい男が二人、雪菜に声を掛けていた。
「ねえ、俺たちと行こうよ。お金とか出すからさ。」
「…………」
「一人でしょ?俺たちと来た方が楽しいぜ?」
「…………」
(……ん?)
僕はそこで、雪菜の二人への対応がおかしい事に気付いた。
彼女はある一点を凝視して黙り込み、二人の言葉を無視している。雪菜なら、ちゃんと話してお断りするはずだ。
…というか……
(…自分が声を掛けられた事に気付いてない?)
中々面白い事になっているなと思いながらも、僕は雪菜から引き剥がすために男二人に声をかける事にした。
「おっす。お二人さん。」
「あ?」
「誰だ?」
ナンパを邪魔された事が気に障ったのか、虚勢を張ったような声で返事をしてくる。
僕は出来るだけ笑顔を意識しながら、二人に言った。
「多分その子、二人の話には乗らないと思うよ。」
「……はぁ?テメェなに言ってんだ?」
僕の事を見上げながらオラオラ言ってくるチャラ男A。
僕はその男に現実と言うものを教えてやろうと思い、雪菜に声をかけた。
「雪菜。」
すると彼女は直ぐに振り返り、僕の姿を視認するとふんわりと笑った。
「なに?私の服は決まった?」
……どうやら、本当にこの二人には気付いていなかったらしい。僕は親切にも、二人に雪菜と話すチャンスを与えてやった。
「ああ。服は決まったんだが、この二人が雪菜と話したいって言ってきてな。」
僕が連れだったと分かった瞬間、コソコソと離脱しようとしていたチャラ男二人の服の袖を掴む。
雪菜はその二人を見て、不思議そうに首を傾げた。
そして、可愛らしい仕草とは裏腹に、猛毒が付与されたナイフを二人に突き刺す。
「……どなた?拓海の友達?」
「……………あ、いや……」
「……えっと………」
気付かれてさえいなかったと理解した二人は、口をパクパクと金魚のように動かすだけで、言葉が出てこない。
僕はそんな無様な二人の耳元で囁いた。
「……ナンパなら他を当たってくれ。そもそも男物のコーナーに女の子がいる時点で、連れがいると察しろ。」
「…………チッ……おい、行くぞ。」
「…あ、ああ。」
チャラ男たちは、せめてもの置き土産として舌打ちをすると、足早に店を出て行った。
(……面倒臭いタイプじゃなくて良かった。)
恐らく僕の方が背が高かったのもあり、少し怖気付いてくれたのだろう。喧嘩にならないに越したことはない。
……それに、もし二人がこちらに手を出してきたとしても、半年ほど運動をしてないとはいえ、体は部活でそこそこに鍛えていたのでねじ伏せる自信はあった。
二人が退散した後、僕は雪菜に持ってきていたワンピースを見せた。
「…これ、持ってきたんだけど、どうかな?」
「…え?……あ、うん。着てみるね……」
雪菜は少し驚いた表情をしたのち、ワンピースを持って試着室に入って行った。
「拓海?……どうかな?」
丁度自分の服を見ていた僕は、雪菜のワンピース姿がどれほどの破壊力を持っているかも知らずに振り返った。
「……………」
(なんていうか……アレだな………ヤバイくらい可愛い。)
普段は豊かだと自負している語彙力が、全くと言っていいほど無くなっていた。
何か言える事があるとすれば、やはり清楚系美少女とワンピースは最高の組み合わせだということくらいだ。
「……なんか言ってよ。」
黙りこくっていた僕が不満だったのか、雪菜は口を尖らせて聞いてくる。
「……あー………その、凄い似合ってる。うん。」
「どういうところが?」
どうやら雪菜様は僕の回答に満足されなかったらしい。
“似合っている”の詳細を聞いてこられた。
僕は正直に答える。
「えっと……全部、っていえばいいのか?」
「ふーん……」
まだご不満らしい。
誤解されたままなのは僕も嫌だったので、今の心情をありのままに言った。
「なんというか……言葉に表せないくらい可愛いというか……とにかくヤバイ。」
「……あ、あっそう。」
プイッと反対側を向いて突っぱねるような言い方をしたものの、横顔は嬉しそうだ。
僕は誤解が解けた事にホッとし、同時にとんでもなく恥ずかしくなった。やはり本心をさらけ出すというのはあまりやらない方がいいらしい。
その後、雪菜が選んだ服を僕が試着し、”似合っている”という嬉しい評価をもらったので、雪菜のワンピースと共に買うことにした。
雪菜は、自分の分は自分で払う、と言っていたのだが、こういう時くらい見栄を張らせて欲しい、という僕の言葉に渋々了承してくれた。
レジを通す時に、店員さんが微笑ましいものを見るような目付きで見てきたが、そんな関係じゃないので無反応で支払いを済ませた。
合計金額は………僕の財布が一気に軽くなるくらい、と言っておこう。
読んでくださってありがとうございました!
予告しておきますが、お家デートもあります!