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二人の関係

雪菜と僕はそのまま歩き、入学式の会場だった体育館の裏に来た。


雪菜は体育館の壁に背中をつけ、スラリとした長い足を組んで、僕に質問する。


「さて……私はどうして怒っているでしょう?」


恐る恐る僕は答えた。


「じ、自己紹介の時に、友達じゃ無いって言ったから?」


「そうよ。」


「でも、そんな事で……」


すると、雪菜は突然、怒鳴り声をあげた、


「そんな事じゃない!」


僕は突然大声を出した雪菜に驚いて、彷徨わせていた視線を雪菜に向けた。


そして、重ねて驚いた。


雪菜のその綺麗な黒い瞳には、透明な雫が溜まっていたからだ。


僕は、小さな声で尋ねる。


「…雪菜?」


すると、雪菜は腕で自らの体を抱きしめ、震えながら言った。


「怖いの………また…曖昧になって離れてしまうんじゃないかって……」


「え?」


そして、雪菜はまるで天の神様に懇願するかの様に言った。


「私は…もう拓海と離れ離れになりたくないのよ…」


…どういう事だ?


僕は雪菜の言った言葉の意味を必死に考える。


"また?"


"もう?"


それじゃあまるで、僕たちが昔、会った事があるみたいじゃないか……


……いや、会った事があるのか?


僕と雪菜は、昔会った事があるのか?


僕は自分に問う。


…そして、ある推論が導き出された。



…小学2年生の時に、僕の前から居なくなってしまった女の子。


別れ際にもまともに話せず、曖昧なまま離れ離れになってしまった女の子。


あの子が雪菜だったとしたら?


そして、僕の事を雪菜がずっと覚えていたとしたら?


もしそうならば、と思った僕は、雪菜に聞いた。

ちゃんと伝わるように、ゆっくりと。


「雪菜……雪菜は昔、僕に会った事があるの?」


すると、雪菜は溜息をついた。


……そして、脱力したのか、ズルズルと座り込んでしまう。

僕は慌てて近寄って、雪菜を抱きとめようとしたのだが、


「そうよ……」


雪菜のその返事に、僕の足は止まってしまった。


雪菜はそのまま続ける。


「私は昔、拓海と会った事がある……ううん。とても仲が良かった。」


黙ったまま雪菜の話を聞く。


「楽しかった。いつも一緒だと思っていた。それなのに……」


僕は、その先を続ける。


「引っ越してしまって、僕と雪菜は離れてしまった………そうだったのか…」


雪菜は小さく頷いた。

そして話を続ける。


「でも、ようやく会えた。偶然に偶然が重なった結果だったけど、とにかく私は拓海と再会できた。でも……拓海は、私の事を覚えていなかった。」


「ごめん……」


本当に申し訳なく思い、僕はそう謝った。


しかし、雪菜は首を横に振る。


「いいの。もう7年も前の事だし、そんな事覚えてる人の方が少ないと思うから。それに……」


「……それに?」


「あのね?あの時、私は自分の事を"セツナ"って呼んでなかったの。」


僕には思い当たる節があった。


「…もしかして、雪菜の部屋のドアに掛かっていた名前か?」


「うん。私はあの時、自分の事を

"ユキナ"って呼んでたの。」


そういうことか………


…あれ?でもどうして……


「…どうして、あの時の女の子だと言わなかったのかって思ってるでしょ。」


「うん……」


すると、雪菜は顔を上げてこちらを見た。


その口は緩み、柔らかな微笑みを作っている。


黒髪が、サラリと雪菜の頬を流れた。


「それはね?また一からやり直したいと思ったから。

…昔、仲が良かった事があるから、なんて理由で繋がりたくなかったから。…ありのままの私である、"雪菜"を見て欲しかった。"ユキナ"じゃなくて、"セツナ"を。」


声が出せなかった。

雪菜がそんな想いを抱えていたなんて、思いもしなかった。


雪菜はそんな想いをずっと抱えていたのに、僕に悟らせもせず隠し通していたのだ。


本当は全部、ぶちまけたかった筈なのに……


そして、同時に決心した。


……もう、こんな辛い想いを雪菜にさせたくない。

だから、これからはちゃんとした関係を築いていこう。曖昧な関係ではなく、形ある関係を。


そして、そんな僕を見て、雪菜は立ち上がると、僕の手をギュッと握り、言った。


「結城拓海くん。……また、本当の意味で、"雪菜"と友達になってくれますか?」


僕は、言葉にできないこの気持ちを表すために、彼女の手を握り返して、返事をした。


「当たり前だ。」


「うん……」


言葉にしなくても、同じ事を思っているのが伝わってきた。


そして僕達はお互いに見つめ合うと、満面の笑みで言った。


「よろしく、雪菜。」


「よろしく、拓海。」



そして、僕達は次の物語へと進んで行く。


一章最終話です。

読んでくださった方々、感想をくださった方々、ありがとうございました!

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