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俺は空気が読めないバカなのか?

『きみは誰?』


拓朗が尋ねる。


『そんなの、どうだって良いわよ!今すぐ着替えてよ!』


『どうだって良くないよ。先ずは名前くらい言ってくれなきゃ。突然頭ごなしに言われても困るんだけど。』


拓朗はまだ信生が性同一性障害の生徒であるどころか、名前すらも知らない。


『野沢信生。中学から性同一性障害の女子として学校に認められたの。この学校だって制服が選択出来るから頑張って入学したんだから。』


拓朗は信生の顔を見て、ようやく信生の素性が分かったが、だからといって特別な変化は無い。


『それは良かった。宜しく。』


『ふざけないで!あんたみたいなのが居ると、一緒に変態扱いされるでしょ?』


信生の怒りは収まるどころか酷くなった。


『変態かぁ、そうか~。』


『なんなのよ、その反応?』


『俺のせいで変態呼ばわりされるなら謝る、ごめん。でも、俺は変態って言われても気にしないから。』


柳に風である。


『私が気にするの!大体あんたなんでスカート穿いてんのよ?』


『なんでって、この学校で男子もスカート穿いて良いって書いてあったからなんと無く……。』


クラスメイトの大部分が注目している。


『野沢さん、こいつバカだけど悪気は無いんだ。……あ、俺はこのバカと同じ四谷中から来た西野。』


『バカとはなんだ?俺、間違っているのか?』


真吾が間に入り仲裁するが、拓朗は気に入らない。


『空気読めないからだよ。野沢さんだってここまで沢山悩んで来たみたいだし。』


真吾は拓朗より信生の気持ちを代弁した。


信生は拓朗の友だちの真吾がまだ理解のある生徒だったので多少怒りが和らいだ。


そこに、担任の孝子が教室に入ってきた。


『みなさん、席に付いて下さい。入学おめでとうございます、今日から3年間、このクラスを担当する青田孝子です。先生も去年からこの学校に来て初めての担任です。宜しくお願いします。』


孝子は一気に挨拶をした。


『教室に入る時、ちょっと廊下でやり取り聞いていました。とりあえず改めて話し合いの機会を作るので一旦この話は私が預かっても良いかな?』


(こんな感じで大丈夫かな?)


孝子はクラスで問題があった時どう対処するか、先輩の友佳から教えて貰っていた。


信生は納得はしていない素振りだが、受け入れてくれた様だ。


『ではこれから体育館に移動して入学式をします。付いてきて下さい。』


生徒たちが孝子に従って席を立った。


生徒たちを先導しながら孝子は最初のハードルを越え、 ホッとしたが、先行きは不安だ。


(最初からこんな問題のあるクラスだなんてついてないよ。)


上級生や保護者が待つ中を、新入生たちが入場する。


拍手の中、行進していくが、拓朗が通ると一瞬その場だけ空気が固まる。


『もうやだ。』


朱美は小さく丸まって小声で隣の早紀に呟いた。



式が終わると生徒たちは教室に戻り、親だけが残った。


『みなさん、本日は西府高校へご入学、本当におめでとうございます。PTA会長をしている福島と申します。これからPTAのクラス役員を決めて戴きます。』


只でさえ息子が訳の分からない行動で目立っているのだからやりたくないと朱美は思う。


『はい。』


一人の女性が手を挙げた。


『百草中学出身で野沢信生の母です。ウチの子は性同一性障害で中学校から病院に通って認定され、女子として西府高校に入学出来ました。今、ホルモン治療をしていてもしかしたら在学中に手術して戸籍を変更出来るかもと言われています。皆さまにはご迷惑を掛ける事も多々あると思いますので、私PTAのクラス委員をやらせて戴きたいのですが、宜しいでしょうか?』


拍手が挙がり、信生の母・夏生のクラス委員選出が決まった。


朱美は同じクラスに性同一性障害の生徒が居るというのをここで初めて知ったが、また面倒なクラスになったものだ。


『そういえば、スカートを穿いた男の子居ましたね。』


別の親が言った。


『それはウチの子では無いです。』


信生は一目で男子とは分からない筈だ。


恐る恐る、朱美が手を挙げた。


『……それ、ウチです……。』


『あら、お名前は?』


『……栗橋拓朗と申します……。』


小さい声で息子の名を名乗った。


『栗橋さんですね、同じ境遇の子を持つ親同士、ご一緒にクラス委員やりませんか?』


(うわぁ~、この人勘違いしてる!)


夏生はスカートを穿いた拓朗も性同一性障害だと思っている様だ。


『……い、いえ、ウチは……。』


戸惑って返事を返すか返さないかという間に大きな拍手でクラス委員に祭り上げられてしまった。


他の親もみんなやりたくなかったから誰でも良かったのだ。


『栗橋さん、宜しくお願いしますね。』


『……は、はぁ。』


どうも朱美は夏生に気に入られてしまった様である。



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