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一緒に歩くのも恥ずかしいよね

入学式の朝である。


明日からは自転車で通学するよていだが、今日は母の朱美と一緒なので約30分の道程を歩いて学校に向かう。


女子向けのワイシャツは一見男子のものと一緒だが、丈が短く、ボタンの左右が逆になっている。


『なんか掛けにくい……。』


左前に慣れている拓朗にとって右前のシャツはボタンを掛けるのは難しい。


スカートを腰の位置で留めると、


『ダメよ、スカートはもっと上。』


朱美にダメ出しを食らった。


リボンを付け、ブレザーを着る。


髪は耳が隠れる程度に伸びているが、男子の顔だ。


『本当に3年間これで行くの?』


朱美が言うが、男子用のネクタイやスラックスは買っていない。


『うん。』


真新しいローファーを履き、玄関を出る。


ローファーも女子が履く先が丸みを帯びたものだ。


門扉を閉め振り返ると、西野親子が待っていた。


『おはよ……どうしたの、その格好?!』


最初に驚いたのは真吾の母・早紀だった。


『お前、まさか制服を注文する時に間違えて女に丸を付けたのか?』


それこそまさかであるが真吾の言葉を拓朗は否定する。


『違うよ。自分で決めたんだ。』


早紀も真吾もよく分からないという顔をしている。


『驚かせてごめんなさい。ウチのばか、高校に行ったら人がやらない事をやりたいって言い張ってこんな事になっちゃって。』


朱美が弁明する。


『あ……そういう事……。拓朗くん、似合っているわよ。』


咄嗟に早紀が言ったが、お世辞にも程がある。


『拓にそんな趣味があるとは知らなかったよ。』


『趣味じゃないよ。』


趣味でなければなんなのだと思うが、至って拓朗は真面目な顔をしている。


『恥ずかしいから少し離れて歩きましょ。』


朱美は普段より厚めの化粧だが、それでも顔が赤くなっているのが分かる。


『栗橋さん、逆に固まった方が目立たないかもしれないわよ。』


朱美を気の毒そうに思いながら早紀が言う。


朱美にとっては学校への道がもの凄く長い道のりに感じた。


学校に近付くにつれ、新一年生とその親の歩いている数が増えてくるが、4人が固まって歩いていると意外に気が付かれない。


学校の校門まで来ると、先生や先輩の生徒が出迎えてくれた。


『ご入学おめでとうございます、お名前をお願いします。』


『栗橋拓朗です。』


女子の制服を着た生徒が低い声で男子の名前を名乗ると、それまでイスに座って顔を見ていなかった一年A組担任の青田孝子が顔を上げ、そして驚いた。


『栗橋……拓朗くん?………なんで女子の格好を……。』


『はい、男子が女子の制服を選んでも良いって学校案内にも書いてあったので……。』


悪びれず拓朗は答えた。


『あなたは性同一性障害なんですか?』


孝子はぶるぶる震えながら拓朗に聞いた。


『いえ、違います。』


『じゃあなんで……。』


孝子の異変に気付いた学年主任の三浦が慌てて拓朗の傍に来た。


『栗橋くんと言ったね。君はこの格好がおかしいと思わないのか?』


『おかしいですよ。でも認められているんですよね。間違ってはいない筈ですけど。』


性同一性障害以外の生徒に制服を選択出来る様にしたのは女子が冬にスカートよりズボンが良いという意見があるためだが、ジェンダーレスを進める上で男子がスカートを穿いてはいけないとは言えない事情がある。


そうかと言って拓朗の様な生徒が居たらどう対処するかは考えてこなかった。


『分かった。但し、間違っても女子トイレに入ったり如何わしい行為をするんじゃないぞ。行為が無くても紛らわしい事をしたら即退学処分だからな。』


実際は紛らわしいだけで即退学には出来ないが、脅しを掛けた。


『全然そういう事考えてないから大丈夫だと思います。』


拓朗は自信を持って言った。


『栗橋くん、それと西野くん、あなた方はA組です。玄関から入って教室に行って下さい。』


少し落ち着いた孝子が案内する。


『拓、一緒のクラスだな!宜しく……ってなんか一緒に居たら俺も変なヤツだと思われそうだな。』


真吾も災難である。


そしてもう一人、四谷中でクラスメイトだった女子が声を掛けた。


『うっそ~、栗橋くん、どうしたの?』


水上かなたもA組の様だ。


『ちょっと女子の制服着てみようと思って。』


『やだ~、止めてよ、変態なの?』


変態と言われてしまった。


『そうか、変態なのか。そうかもしれないな……。』


淡々と自分を分析してみた。


『私もA組だけど恥ずかしいから先に行くね。』


かなたは駆け足で玄関に向かった。


『俺たちも行こう。』


拓朗と真吾もかなたの後を追う。


教室に着くと、それぞれの机の上に名前の書いた紙が貼ってあり、自分の名前の書いてある席に座る。


拓朗の真後ろの席には既に女子がにこにこしながら座っていた。


『はじめまして、私内藤千里。せんりと書いてちさとです、宜しくね。』


『俺、栗橋拓朗。宜しく。』


『栗橋くん、面白いね~。』


千里はにこにこしながら言った。


可愛い娘だ。


『ちょっと!栗橋くんだったよね。』


千里に癒されたのも束の間、拓朗の前に一人の女子生徒が立ちはだかった。


正確には性同一性障害の女子として認められた生徒、野沢信生である。


『あなたは人をバカにしているの?』


信生は怒りの表情で拓朗に責め寄った。


自分でも一緒に歩きたくないです。

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