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初めての担任なのに大丈夫じゃないよ。

自分の子どもにこんな事言われたら喜んでしまうかもしれませんが残念ながら三人共スカートを穿きたいって言いませんでした。

3月の末、拓朗の制服が出来上がった。


日曜日、朱美と共に洋美の店に受け取りに行き、自宅に戻る。


『お父さんには見せられないよね。』


『なんで?いずれ分かるでしょ?』


朱美の心配をよそに拓朗は涼しい顔で答えた。


『ったく……なに考えてんだか?』


朱美は飽きれる一方だ。


自宅に戻ると、父・悦朗が待ち構えている。


『おかえり。拓朗、制服着て見せてみろ。』


『うん、部屋で着替えるからちょっと待って。』


朱美はもうどうにでもなれと思う。


『どうした?あまり似合わないのか?』


浮かない表情の朱美を見た悦朗が尋ねる。


『似合うも似合わないも無いわよ!』


『なに怒っているんだよ?俺、変な事言ったか?』


悦朗は朱美の不機嫌な理由を理解出来ない。


拓朗が居間に戻って来た。


『……あ……。』


一瞬、唖然として声が出ない悦朗。


『……これってコスプレかなにかか?まだ1日になってないぞ。』


エイプリルフールは翌日だ。


『コスプレでも嘘でも無いよ。これが西高の制服。』


『って言っても女子の制服だろう?お前は女子の制服を着て学校に行くのか?』


『うん、男子が女子の制服着ちゃいけない訳じゃないって。』


悦朗が朱美を見る。


朱美の不機嫌な理由がようやく分かった悦朗だった。


『拓ちゃん、高校に行って他の人がやらない事をしたいって……。』


朱美は仕方なく悦朗に弁明すると、悦朗は考え込んだ。


『……そうか……。自分で決めた事なら仕方ないが、あまりお母さんを困らせるんじゃない。』


悦朗はそう言うが、認めた以上朱美を困らせる事は必至である。


『後な、身だしなみには今まで以上に気を付けろ。只でさえ女子は敏感なんだからな。』


なんかアドバイスの方向がおかしい悦朗の言葉だった。



4月になり、教職員の人事が発表されると、新学期に向けて学校が動き出す。


西府高校では去年新卒で赴任した青田孝子が新たに一年生の担任になると職員会議で発表された。


『実は青田先生の一年A組なんですが、LGBTの生徒が居るんです。』


学年主任でB組のの三浦勝雄がクラス割りを見ながら言った。


『はい、この野沢信男という子ですよね。』


クラス割りには野沢信男(信生)と書いてある。


『ウチの学校でも初めてのケースだから大変ですけどフォローはしますので宜しくお願いします。』


『分かりました。頑張ります。』


他の経験豊富な先生も性同一性障害の生徒は初めてなので新人が押し付けられた訳だ。


(男の子でも女の子でも捻くれていない素直な子なら問題無いけど、ひと癖あったら嫌だな。)


孝子も昨年学校に赴任して一年間副担任を経験しているのである程度は生徒の扱いは分かったつもりだ。


(面倒臭いクラスじゃなきゃ良いけど。)


3年間クラス代えはないので異動等がない限り卒業までずっと同じ生徒を受け持つ事になる。


『どうしたの?まだ学校始まってないのに。』


職員室で憂うつそうにしていると、一年先輩で二年D組の担任をしている田代友佳から声を掛けられた。


『田代せんぱ~い、私、大丈夫でしょうか?』


『なんとかなるわよ。私も去年、そんな感じだったけど。』


友佳も去年初めて担任になった。


『でも性同一性障害の生徒なんて居ないですよね。どんな感じなんでしょう?』


『そうね。私も初めてだけど普通に接していけば良いんじゃないかな?』


性同一性障害の生徒一人であれば普通に接する事が出来るかもしれない。


しかし、孝子も友佳ももう一人、普通では無い栗橋拓朗という生徒が一年A組に居る事はまだ知らなかった。



入学前の春休みをのんびり過ごしていた拓朗にメールが来た。


〔入学式どうする?一緒に行かないか?〕


拓朗が入学する西府高校は自宅から自転車で10分くらいの距離であり、そのため卒業した四谷中から西府高に進学する生徒は多い。


メールの相手、西野真吾もその一人で、小・中・高と一緒の腐れ縁である。


〔母ちゃんと一緒に行くんだけど良いか?〕


〔ウチも一緒だけど、母ちゃんが連絡してみろって。〕


拓朗の母・朱美と真吾の母・早紀とは親同士だが仲が良い。


〔分かった、言っとく。〕


拓朗は自分の部屋を出て、台所に居る朱美に声を掛けた。


『真吾がさ、真吾のお母さんと入学式一緒に行こうってメール来た。』


煮物を作っていた朱美の手が止まる。


『あんた、なに言ってんの?スカート穿いて学校に行くだけでも恥ずかしいのに、西野さんと一緒だなんて。穴があったら入りたくなるわよ。』


『一緒に行かなくたって学校に行けば分かるよ。』


『そうかもしれないけど、西野さんだって真吾くんだって困るでしょ?』


『そうかなぁ?』


拓朗には当事者としての意識は全く無いのだろうか?


朱美は拓朗の顔を見るが、なにも考えてなさそうであった。


ご近所付き合いも大変ですね。

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