スカートってスースーするよね
制服を選択出来る学校って増えてますね。普通の男子がスカートを穿いて登校するなんてあるんでしょうか?
『えと……326番……。』
ここ、都立西府高校ではこの春の新一年生の入学発表が行なわれていた。
『あ、あった!合格だ!』
この物語の主人公、栗橋拓朗にもどうやら春が来た様だ。
『合格された生徒のみなさんにはこの後入学までの案内と手続きのお知らせを渡しますのでこちらへどうぞ。』
職員の指示で拓朗は書類を貰って帰路に付いた。
『拓ちゃん、おめでとう。』
自宅に帰り、母の朱美から祝福をされた。
『どれ、資料見せて。……ふーん、制服ってスカートとズボンの選択出来るの?』
制服のパンフレットを見ながら何気なく朱美が言った。
『それってどういう事?』
『最近はLGBTの生徒とか居るでしょ?戸籍は男の子なんだけど女の子になりたいって。そういう生徒も今は女の子として通える学校も増えてるみたい。後ね、スカートって冬は寒いから結構大変でしょ?ズボン穿きたいって女の子も多いみたいよ。』
拓朗の質問に真面目に朱美は答えた。
『それってさ、普通の男子がスカート穿いても良いのかな?』
拓朗は素朴な疑問を朱美にぶつけてみた。
拓朗はLGBTでも女装趣味でも何でもない。
『良いんじゃない?拓ちゃん、スカート穿いて高校行ってみる?』
拓朗は少しの間、考えた。
『そうだ!そうしよう!』
朱美は冗談で言ったつもりだったがまさか本気でスカートを穿くと言うとは思わなかった。
『拓ちゃん、冗談を間に受けないで。そんな恥ずかしいマネしないでよ。』
『なんで恥ずかしいの?女の子がズボン穿いても良いんだから男の子がスカート穿いたって良いじゃん?』
拓朗が真顔で言うので朱美は困り果てた。
『もしかして、拓ちゃん女の子になりたかったの?』
『なりたいなんて思った事無いし、女装趣味でも無いよ。でも、高校でなにか今までと違う事をやりたいだけだから。』
拓朗ははっきり言った。
『今までと違う事をやりたいのは良い心掛けだと思うけど、他にやる事あるんじゃ無いの?』
『考えたんだけどさ、これっていうものは無かったんだよね。出来れば他の人が考えない様な事をやりたいんだ。』
朱美はため息を付いた。
『3年間、休まないでちゃんと勉強もするからさ、スカート買ってよ。』
あまりに拓朗が真面目にお願いするので、朱美も諦めざるを得なかった。
『分かったわ。3年間ちゃんと休まないで毎日スカートを穿いて学校に行く事。制服って安くないんだから途中でズボン穿きたいとか言わないで。それでも良いの?』
『良いよ。』
拓朗は即答した。
『絶対後悔しないでよ。』
果たして、このバカ息子が3年間どの様な高校生活を送るのか不安だらけの朱美であった。
数日後、朱美と拓朗は市内の指定制服販売店に出向いた。
『いらっしゃいませ。』
店員の増田洋美が二人を出迎える。
『西府高校の制服なんですが。』
『今度入学される一年生ですね、おめでとうございます。』
店内には他の中学・高校の制服と一緒に拓朗の通う西府高校の制服を着たマネキンも男女2体並んでいた。
制服は紺のブレザーとズボンとスカートは最近主流のチェック柄だがチェックの色は水色に近い明るい青になっている。
それに合わせてネクタイとリボンも同じ柄になっている。
洋美が男子の制服を着たマネキンに手を添えて説明をしようとすると、
『あの、この子女子の制服を着たいって言っているんですが……。』
恥ずかしそうに朱美が伝えた。
『は?』
洋美は拓朗の顔を見た。
どう見ても普通の男子だ。
『……試着だけって事でしょうか?』
洋美が恐る恐る聞いてみる。
『いえ、女子の制服を着て学校に通います。』
拓朗は真面目な顔で返事をした。
洋美は各学校の制服の資料が書いてあるファイルを確認してみるが、確かに西府高校は選択可となっている。
『あの、本気ですか?』
『はい。』
『本気ですか?』
『はい。』
二度聞いてみたが本気の様だ。
『ではお母さま、こちらのブレザーとスカート、それにリボン……で宜しいでしょうか?』
『……はい。』
拓朗が少しでも戸惑ったらという微かな期待を持っていた朱美だったが、拓朗には全くそんな気配が無く諦めた。
『ではサイズ測りますね、こちらへどうぞ。』
洋美に促されて拓朗は試着室に行き、朱美はため息を付いた。
少しして拓朗が西府高校の制服を着て出てきた。
女子の制服を着ても男子がスカートを穿いているだけに過ぎない拓朗を見た朱美は諦め顔で言い放つ。
『どう?スカートを穿いた気分は?』
『なんかスースーする。』
率直な感想を述べる拓朗。
『女子はね、真冬の寒い時もこれで学校に行ってるの。それでも良いの?』
『寒いのは平気だから。』
取り付く島も無い拓朗に、朱美は再びため息を付いた。
『あの……こちらで宜しいでしょうか?』
洋美も申し訳なさそうに朱美に聞いた。
『……はい、お願いします。』
小声で返事をする朱美を見て洋美は憐れんだ。
(3年間、大変だろうな……。)
そんな母と店員の想いも露知らず、暇そうに手続きを眺める拓朗であった。
たぶん、本人より周りの人の方が心配しますよね。




