日々の色々 4 女の戦い・2
「さ・・行こ♪ユウトくん♪」
「・・ホントに?」
「もちろんだよ・・♪」
ゴクッ・・
何だろう・・・。
ひな はニコニコしてるのに、何か、ピリピリする。
「~♪」
鏡の前でクルッと回る姿は すごく可愛いのに、何か・・おっかない空気を発している。
ゆいに特訓の同席を断られたひなは、昨日から ずっと、こんな感じだ。
ニコニコ、ニコニコ、笑ってるけど、コレはもう確実だと思う。
めっちゃ怒ってる。
ひな、怒ると こんな感じなんだなー・・。
笑ってた顔も、泣いた顔も、悲しそうな顔も、いっぱい見たと思ったけど・・怒ってる顔は初めてだ。
・・・・絶対、怒らせない様に気を付けよう・・・。
■
「・・・・」
付いてきたひなが後ろで準備運動をしている様子を見て、ゆいがオレに無言の視線を向ける。
「・・ゆい」
「・・・・・」
せめて何か言ってくれよー!?
ひなだけでも怖いのに、ゆいもかよー!!
「ふぅ・・・」
静かに、聞こえるか聞こえないかくらいの ため息が聞こえた。
「まぁ良いわ・・」
直前まで『ウンザリ』って顔だったのに、冷たい笑い方の顔に変わった。
「確か・・こう言ってたわよね・・」
「・・」
「ひなを護れるようになりたい、だったかしら」
ゆいの目は多分、オレを見てない。オレの後ろの ひなを見てる。
「実地訓練に出来そうね・・」
ふーー・・・!
「行くわよ・・!」
深く息を吐いた ゆいの雰囲気が変わった。
「今から、後ろの女の服を破るわ」
!!「何だよ、それっ!?」
「そうされたくなかったら、私を止めて見せなさい」
「っ・・!」
脚を広く、低い態勢になったゆいが、腕、を
ドッ!!!
「かっ・・!?」
そんな・・っ!
ゆいが腕を広げた次の瞬間、床に叩き付けられていた。
「さて、まずは どこを破りましょうかね・・」
!
オレが立ってた場所に居るゆいから、聞きたくない事が聞こえる。
「っ・・やめろぉおっ!!」
立ち上がって ゆいに飛び掛かっ・・なぁっ!?
腰に飛び掛かろうとしたのに、上に跳ね上げられていた。
・・・ドッ!!
また床に身体をぶつけた。
跳ね上げられた後、床に落下したんだ。
「ゃ・・!」ビリ・・!
声がした方を見ると、ブラウスの左腕が破られた ひなが座り込んでいた。
「守れてないじゃない・・?」
ひなの前に立つゆいが破れたブラウスを投げて寄越した。
「さて・・全裸まで持つかしら・・」
「やめろ!!ひなは関係無いだろっ!?」
「酷い事言うのね・・?関係無いそうよ?」
オレから目を反らしたゆいが ひなに顔を向けた。
「っ・・ユウトくん、私は大丈夫だからっ・・!」
立ち上がったひなが ゆいから離れる。
「せめて、構えるか解放するかくらい、しなさいよ・・!」
不快げに目を細めたゆいから強めに言葉が飛び、ビクッとした ひなが後退りした。
「・・・そう。どおりで・・」
・・?
「今日は おしまいっ」
床に倒れたままのオレと、距離をおいた ひな、2人の間をゆいが歩いて行く。
さっき ひなに言った事が何なのかは分からないけど、ゆいのヤル気が無くなったのは分かった。
「もし、今が『その時』だったなら、どう守るつもりだったのかしらね?」
■
「ひな・・ごめん・・」
「ぅぅん・・」
帰り道、会話も無く、居たたまれなかった。
「オレ・・口ばっかだ・・」
「違うよ・・違う・・」
「いや・・少しも、ひなを守れなかった・・!」
「・・ユウトくんは強くなる為に来たんだもん・・まだ・・」
「いや・・ゆいが言ってた通りだっ・・!!もし、ゆいじゃなくって、そんな男が相手だったら・・・ひなは今頃・・」
「・・・」
「・・ひな」
「ん」
「ゆいが言ってた『解放』って分かるか・・?」
「・・ぅん」
「オレも出来るかな」
「・・・・ムリ、だと思う」
「・・そっか」
「解放ってね・・?」
「うん」
「亜人の能力なの・・」
「・・能力?」
「ぅん・・亜人の・・元の、動物の、力を・・使い、こなすの・・」
「・・・元、の・・?」
「ぅん・・私なら、猫型だから、猫の能力・・かな・・・」
猫・・?
『外』のスラムで何度も見たけど・・そんな凄い力、あったかな・・・。
「ね。無いよね・・」
!「っ・・え。ぇ?」
「猫の能力・・思い浮かべたでしょ・・?」
「・・・ひな、すごいな・・」
「んーん・・勘?・・女の、勘・・」
怖っ・・!!
「ごめん・・」
「んーん、良いの・・私も、『外』に居た時、何度も何度も、考えたから・・」
「・・・」
「でも、それも言い訳かな・・・」
「・・そんな事ないだろ」
「ぁりがと・・ユウトくん、優しい・・♪」
「そんな事無いよ・・///」
「・・・ユウトくん、ゆいさん・・何型?」
「ぇ。・・そりゃあ・・。・・・・?」
あれ・・・ゆいって、何型なんだ・・?
ゆいを思い出して何型なのか考えてみても、「これ!」というのが思い浮かばない。
他の亜人・・隣のひなと比べても大きな耳、フワッとしたおっきくて長めの尻尾・・・・。
ん・・・・耳、か・・。
ひな・・かぐ姉・・ほむら姉・・アレッサさん・・しいなさん・・・あと、えっと・・ミイシャ、フェリス、たまよさん・・・
「たまよさんと近そうだよな・・」
「ぅん」
耳の大きさも、尻尾の感じも似てる気がする。色は違うけど。
「たまよさん、何型だっけ」
「キツネ型・・」
「キツネか・・・ゆいもかな・・?」
「・・」
「ひな、大丈夫か・・?」
隣のひなは下を向いていて、髪で顔が隠れている。
「ん・・大丈夫っ」
顔を上げたひなが ほんのりと笑う。でも、悲しそうな笑い方だった。
「・・・。ゆいさん、凄かったよね・・」
「だな・・」
「ユウトくんの前で深呼吸してたでしょ・・」
こくん・・
「あの時、ゆいさん・・『解放』してたんだよ・・」
「・・・それで・・」
あの時、ゆいが何か変わった感じがした。
雰囲気って言うか、空気って言うか、その前と『変わった』感じがした。
「ゆいさんの動き、見えた?」
「・・・まったく」
「ぅん・・離れた所に居た私にも、いきなりユウトくんの所に動いてた様に見えたもん・・」
「ぅん」
「それで、ユウトくんが跳ばされて倒れて」
「・・ん」
「その後、ユウトくんが上に跳ねられた時も、ゆいさん、『ただ立った』だけだった・・」
「・・立った、だけ?」
「ぅん・・ユウトくんの身体の下に入って、立ったの」
「・・・マジか・・」
・・そっか。オレ・・勢いのまま跳ばされただけか・・。
「・・・つぇえなー・・」
「ぅん・・強い・・」
・・・。何も出来なかった。
オレに出来る事は無いのか・・?どうやったら強くなれるんだ・・?
「ユウトくん」
「ん?」
「亜人の『解放』もね?代償があるの・・」
「・・代償?」
「そう・・」
さっきの ゆいを思い出しても、深呼吸してた以外・・・?
「ゆいさん、すっごく汗かいてたでしょ・・」
汗?「そういや・・」
『ふーっふーっふーっ』と、静かだけど荒い息してたし、言われてみりゃ・・オレや ひなより何倍も汗かいてたかもしんない・・。
「『解放』ってね・・何て言うか・・・体を無理矢理 動かしてる感じなの・・」
「・・」
「このやり方をすれば、必ず力を出せる・・そういうのじゃなくって、どんな力が出せるか・・どんな方法で出すか・・はっきりとは分からないの」
「・・」
「自分で見つけて、自分だけの方法を見つけないといけないの・・」
「そっか・・」
「負担も大きいし・・」
「・・ぅん」
「ひな」
「ぅん」
「・・ぁ、いや、何でもないっ」
ひなは解放っての出来るか聞こうと思ったけど、無神経過ぎると気付いた。
「ひなは、明日は家に居るか・・?」
去り際のゆいからは「まだヤル気があったら来なさい」とボソッと言われていた。思い出してみれば・・ゆいは疲れた目をしていて、タオルで汗を拭いていた。オレは ひなの事ばっか考えてたけど、ゆいの事も考えるべきだったと思う。
「少し・・考える」
「そっか」
「ぅん」
「ユウトくん、先に帰ってて」
「・・何か用事?」
「ぅん・・大事な事、思い出したの」
「じゃ、先に帰ってる」
「ぅん、気を付けてね」
「ひなこそ。女の子なんだからな・・?」
「・・ん。ぁりがとう・・///」
ニコッとして手を振った ひなが、ジムの方に戻って行く。
ひなの後ろ姿は、いつもと違う。
左肩でブラウスが破れていて、『オレが守れなかったからだ』と激しく後悔する。
「・・」
やっぱオレも行こうか・・でも、オレなんか行ったって・・!
「あれー?ユウトくんっ?」
・・?
「・・ゆきお」
声を掛けられ振り返ったら、ゆきおが居た。
ゆきおの後ろには、フェリスとミイシャ。その後ろに あかりさんと さつきさんが居た。