日々の色々 2 想いと、ヨスガ
「強くなりたい?」
「うん、ひなを護れる様に なりたいんだ・・!」
・・・私に相談されても、どうしようも無い問題かなぁ・・。
『最近、ユウトくんの様子が おかしいんです、お姉さま』と姫望に相談され、ユウトさんに聞いてはみたものの・・・コレは私には どうしようも無いんじゃないかなぁ・・・。
『妹』の悩みを解決してあげなくちゃ!と意気込んでたのに、もう意気消沈だ・・。
『前』の私が どうだったのかは、ハッキリとは言えない。
今の私は、戦えるとは思うけれど、戦いたくは無い・・。
両手に感じた腸の熱さ、血のぬめり、血の海に沈むアレッサさん・・・。
首を振って、脳裏に浮かんだ光景を振り払う。
・・今はユウトさんの相談に答えないと・・。
私に出来ることを・・。
「・・・強い人を紹介するなら」
私には無理でも、『強い人』の心当たりなら自信がある。
ただ・・私の数少ない人脈のほとんどが『強い人』なのがネックかもしれない・・。
『強い人』なら誰でも良い訳じゃないから。
誰か最適な人は・・・。
・・・よし、彼女に聞いてみよう。
携帯端末を取り出し、その名前を探す・・・あった。
モニターの呼び出し画面に名前が表示される。
『神添結依』、と。
■
・・・・。
「あのさ・・」
「・・・何?」
「ホントに そのままで良いの・・?」
「かかってきなさい、と言ったハズだけど?」
「・・わかった」
目の前で、ユウトが構える。
スキだらけで、何とでも出来る・・。
・・更にスキを作ってやるか。
ブラウスのボタンを更に3つ程外した。ユウトからは完全にブラが見えてるハズだ。
「っ・・///」
「何?」
「ぃや・・・胸・・」
「胸?」
「見えてるから隠してくれよ・・」
「なに言ってるの。胸?胸どころか、私の全裸を知ってるでしょうに・・」
「っ・・」
「何なら、裸で戦ってあげましょうか?」
「・・・そのままで良いっ」
「そ・・来なさい」
■
はっはっはっはっはっはっ・・・
苦しいっ・・・!
一発も当てられなかった・・。
トレーニング服のオレと、かぐ姉に呼ばれて来た時のままのブラウスにキュロットのままの ゆい。
カッコだけならオレの方が動きやすいハズなのに・・。
「ま、こんなものよね・・」
ゆいが汗を拭いている。着ていたブラウスが汗で透けてて、すっげぇエロい・・・。
「なに見てるの」
っ!!
「・・わるい」
「別に気にしてないわ・・」
じゃ言うなよ・・と思うけど、それを言ったら、オレの面倒みてくれた かぐ姉の育て方が悪かった、と言う様な気がするから言わない。
・・・。
ゆい は変わらない。
いや、変わってるのかもしれないけど、オレには分からない。
『外』で初めて会った時から、多分2年くらい経つけど、オレを見る目は冷たい。
ゆい は何もかもハッキリしている。
かぐ姉が ゆいの全てで、それ以外は無関心・・男には冷たい目を向けるだけだ。
かぐ姉が変わってしまっても、ゆいは変わらなかった。
最近は、かぐ姉が公園に居ると近くから楽器の音がする。
弾いてるのは ゆいだ。
それだって、四六時中近くに控えてる ゆいに困った かぐ姉が、『楽器でも弾いてみたら・・?』と言ったからだ。
最初は ただの騒音だった。
でも、最近は そこそこ聴ける『音楽』になってきたと思う。
かぐ姉も、ゆいの近くに行って しゃがんで聞いてたりする。
街中の人前で楽器を弾いてる人の事は、ゆきおから『路上ミュージシャン』と言うと聞いた。
「・・ゆい」
「・・・・・何」
「楽器って、家でも練習してんの・・?」
「貴方に関係無いでしょ?」
「いや、何となく気になっただけだよ・・悪い・・」
「・・・・・家でも練習してるわ」
「・・そっか」
「そうよ」
・・・。
「楽器って、いつも持ち歩いてんの・・?」
「・・そうね」
今も、壁際の待機席には、黒い入れ物に入った楽器が置いてある。
「重くない?」
「・・貴方ほど貧弱じゃないのよ」
「はは・・悪い・・」
「私も かぐ、やも、貴方達人間とは違うのよ・・」
「・・・」
ゆいは まだ時々、かぐ姉の事を『かぐら』と言い澱む。
時折、今みたく つっかえる。
オレも もしかしたら間違えるかもしれない。
かぐ姉が ふとした拍子に、自然と『かぐら』と呼ばれる事がある。
前に、その時の顔を見てしまった事があった。
驚いた顔をした後・・居たたまれない、とても悲しそうな顔をしていた。
振り向いた時は微笑んでいたけれど、あの時の悲しげな顔が頭から離れない・・。
「ユウト」
「ん?」
「・・私は、後悔してる」
「・・・後悔?」
「そう。貴方に共感してしまった事を・・取り返しのつかない過ちを犯したと思ってる・・」
共感と言われても、何にかは分からない。
でも、かぐ姉が ああなってしまった事に関係してるんだとは思う・・。
「・・あの時、私は見てた」
・・・あの時・・?
「殴られて、蹴り飛ばされて、それでも立ち上がって・・刺されて・・さらに蹴り付けられて」
ああ、『あの時』か。そっか・・あの時・・・。
「あの時、あのまま放置して死なせれば良かったと思ってる・・」
・・。
「聞こえなければ良かったのよ・・」
・・・。
「あんな言葉・・聞こえなければ良かったのよっ・・!」
・・。
「何で、あんなこと言ったのよ・・・」
・・。
「死ぬと分かってて、何で あんな笑い方が出来たのよ・・!」
・・・。
「ほっとけば良かった・・なのに、顔を見に行ってしまった・・」
・・・。
「かぐらに知らせてあげないと、と思ってしまった・・」
・・・。
「せめて、かぐらに誇って死ねるように、なんて思ってしまった・・」
・・・。
「それが かぐらを死に追いやった・・!!」
・・・
「なのにっ・・・!?」
・・。
「ありがとうございました?」
・・。
「ひなを護れるように?」
・・・・。
「こんな簡単にっ!!かぐらを忘れてしまえる奴の事なんかっ!?考えてしまったせいでっ!!かぐらはっ・・!!」
・・・。
「死んでも償い切れない・・でも、死んで詫びるくらいしか出来ない・・・なのにっ・・・」
・・・。
下を向き、絞り出す様に、静かに怒りを滾らせる ゆいの顔は、髪で隠れて見えない。
でも、ゆいが大粒の涙を溢しているのは見える。
ゆいが皆に謝ってまわっていたのは知ってる。
地面に土下座して、前に置いた刀で『裁いてもらおう』としていた。
かぐ姉の取り巻きの内の数人まわった頃には、かぐ姉の耳にも入った。
そして、その日・・オレは見た。
土下座するゆいの耳に、近付く車イスの音は どう聞こえたのだろう。
命を振り絞る様に・・ふらつきながら立ち上がり、ゆいにぶつかる様に倒れかかった かぐ姉が、必死に絞り出した言葉を聞いた。
変わってしまった かぐ姉であっても、ゆいにとっては変わらない・・何よりも優先する大切なヒトだ。
そんな大切なヒトから言われてしまったのだ。
『私を言い訳に死ぬ事は許さない』、と。
『以前の私の事は分からない。でも、貴女の知る「かぐら」が選択したコトを貴女は否定するのか』、と。
『死ぬ』ことすら許されなくなってしまった ゆいは、涙ながらにすがった かぐ姉から・・『ひとまず、何か夢中になれることでも探してみましょう』と苦笑まじりの『ヨスガ』を得た。
■
「私が泣いた事は忘れなさい・・!」
ひとしきり泣いてスッキリしたのか、今度は顔を赤くして怒りだした。
かぐ姉と暮らしてた時も いつも思ったもんだけど・・・女の人って、色んな感じにコロコロ変わるからなぁー・・。
「分かったって・・」
「どうだかっ・・!」
「じゃあ、完全に忘れただろってくらいボコボコに鍛えてくれよ」
「・・・そもそも、何で私が貴方なんかに・・」
「いや、案外さ・・お互い、良いコトばっかかもよ?」
「・・・キモっ」
「ははっ・・ひっでぇなぁー・・」
「・・・何が『お互い』なの」
「まず さ・・ゆい はオレに手加減しないだろ?」
「・・してやる理由が無いわ」
そんな見下げ果てたみたいな目で見られたって・・。
「それに、男のオレ相手ならさ・・遠慮無くボコるつもりでやれば、ゆいのストレス発散にも なるだろ?」
「・・・」
「あと~・・ん~・・」
「・・貴方のメリットは?」
「手加減無しで相手してくれる対戦相手、とか?」
「・・なるほど」
「あと・・多分、その方が かぐ姉は喜ぶと思う・・」
「・・・訓練と称して私の体をベタベタ触るのが?」
「ちげーよっ!!てか、そんな当たってた!?」
「・・・何度も当たったわよ・・」
ブラウスの上から胸を擦る姿が、何かエロい・・・。
「・・はっ、これだから男はっ・・!」
視線を上げると、軽蔑の目があった。
「・・・ごめん」
■
やっと、爆発しそうなくらいドクドクいってた心臓も落ち着いてきた。
「もう少し鍛えなさい。私の機嫌が悪かったら死んでるわよ」
「怖ーよっ!!機嫌悪いだけで殺さないでっ!?」
「・・まったく・・・よくそれで生き延びてたわね・・」
「かぐ姉のおかげだよ・・」
「・・・特訓相手がこれじゃ、私の訓練には ならないじゃない・・」
「・・ぇ」
「何よ」
「特訓に付き合ってくれんの?」
「かぐやからは、『貴女にも得られるモノがあるハズです』と言われてるわ」
「・・・もしかして、最初っから やってくれるつもりだった・・?」
「私が かぐやの言葉を聞かないとでも?」
ぃや・・無条件に聞く方がどうかと思うけど・・。
「でも、ここまで貧弱で愚鈍で最弱な微生物並みの、ホントに男かどうかすら疑わしい生き物を鍛えるなんて、いくら何でも私が可哀想よね・・」
「・・・」
そこまで言われるオレの方が可哀想じゃね・・?
「やり方次第かしら・・・何とかも おだてりゃ木に登るって言うし?」
「・・・はっきりバカって言われたほーが楽なんだけど?」
「私が そんなひどい女に見えるって言うの?」
「・・もーいいよ・・」
女に口で勝てるなんて思ってないし。
「・・つまんない男ね」
「つまんなくて良いよ・・」
「オレも、強くなって心配されないようになりたいしさ・・」
「・・」
?
「ご褒美をあげるわ」
・・ご褒美?
「勝てたら、また私の体を好きにして良いわよ?」
普段は ほとんど無表情のゆいが、ニヤリと挑発的な笑みを浮かべた。
バサッ・・!
何かが落ちる音がして振り向くと、誰も居なかった待機席の所に ひなが立ち尽くしていた。
『ゆい』の人柄は、『本編』の方を参考下さいませ。
『来訪者 24.01 届け、あなたの想い・・・』が「ゆい回」と言えるかもです。
『来訪者 25 響く『破滅』の音と、私』も、密かに「ゆい回」だったりするかも。