日々の色々 7 ユウトと、『女』達
「・・勝てる訳無いだろ・・・」
レスリング・ルームの柔らかい床の上に、これでもかと痛めつけられたユウトが倒れていた。
「気持ち次第じゃ、も少し頑張れたと思うよ?でも、まだまだ だね~♪」
倒れたユウトのすぐ近くに来た雪緒から声が降って来るが、これっぽっちも そうは思えない。
「つーか、ソコに立つな・・!」
ユウトの頭の側に立つ雪緒は、『鬼ごっこ』してた時と同じ格好だ。
ヒラヒラのスカートだから、嫌でもスカートの中が視界に入る。
「んふふふふ~・・♪」
「顔の上に立つな・・っ!!」
1歩踏み出した雪緒が顔を跨ぐ様に立ち、足で顔を挟んだ。視界が完全に、パンツで いっぱいだ。
「ゆきおっ!」
「はわわ~///」
フェリスとミイシャが走って来て、雪緒が退いた。
「ゆっゆきおっ、大人だ~・・///」
「違うって・・!ミイシャ、違うから・・!!」
退いた雪緒の顔を見ればオレにだって、バカにされてる事くらいは分かる。
ニヤニヤ顔は、『お前に見られたって、何とも思わない』と雄弁に語っていた。
手も足も出せずに ゆいに あしらわれたばっか だってのに、
また手も足も出せなかった・・!
・・多分、始めてからそんなに経ってない。ココに来てから ほんの少しだってのに・・!
■
レスリング・ルームに着くと、柔らかい床の上で離れて雪緒と向き合った。
「・・執行」
!?
雪緒の姿が消
「こっちこっち・・♪」
!
後ろから声がして、振り返りながら飛び退いた。
いつの間にか後ろに居た雪緒の顔は笑っている。
「っ・・!」
「ぉ、いいね~♪」
両手を伸ばし、雪緒に飛び掛かった。
何となく、離れてはいけないと思ったからだ。
「ぐっ!?」
雪緒の姿が消え、左側から押されて床にぶつかった。
顔の感触は多分、手だ。
手で頭が床に押し付けられてる。
「ほら、殴って来なよ。大丈夫だから・・」
女を殴れる訳無い。
かぐ姉と約束したんだ・・!
女は守るもんで、殴るもんじゃないっ・・!
両手で力一杯押した。
少し押せた気がしたのに、それ以上押せなかった。
「くっ・・そぉお・・っ!」
ビクともしないっ・・!!
「!?」
体が浮いたと思ったら、立たされていた。
「さ、左側蹴るよ?」
顔から手が離れたら、体を捻る雪緒が見えた。
右足が後ろに行ってるから、ホントに左側が蹴られると分かった。
・・身構えたのに蹴りは来ない。
ゆっくりと蹴りの動きが見える。
「ナメんなっ!」
近付いて来る脚を両手で止め・・止まらないっ!?
「ほいっと♪」
止められなかった脚が腹に当たった瞬間、爆発したみたいな勢いが来た。
「ぁ・・っ!」
みるみる、雪緒の姿が遠ざかって
ドッ!
「ぐっ!」
何かにぶつかり、何とか後ろを見ると腕が
「ぅそだろ・・」
前に居たハズの雪緒に受け止められていた。
「次は~・・掌底♪」
今度は右腕を前に左腕を後ろに引いた雪緒。また、ゆっくりと左手が近付いて来る。
さっきと同じなら、当たった瞬間に
ドッ!!
「~~っ!!」
構えたのにっ!!今度は飛ばされない様に!腕も!足も!精一杯力を込めたのにっ!!
また飛ばされっ!?
ドッ!!
今度は床に倒れ込んだ。
「まだまだ~♪」
服を掴まれたと思ったら、また立たされ、
■
倒れては起こされ、起きては倒され、立たされても自力で立っていられなくなるまで続いた。
顔を動かすとマズイから動かさないけど・・走って来たフェリスに止められた雪緒と、すぐ横にはミイシャも居る。
「ミイシャちゃん、そこに立ってちゃダメ・・!」
ひょいっと、ミイシャが持ち上げられて引っ張られていった。
引っ張られた先には、あかりさんと さつきさんが居た。
2人共、脚を閉じてスカートの裾を押さえている。
そう、ついさっきまで、倒れたオレを挟んで雪緒がフェリスに叱られ、ミイシャがすぐ横に立っていた。
顔を上げる訳にも、そっちを見る訳にもいかなかった。
ミイシャが引っ張られて離れたから、とりあえず そっちの方は見れる様になった。
見ると、ミイシャが さつきさんに「スカートの時は気を付けないとね♪」と優しく注意されている。
「!」
倒れた体が優しく起こされ、すぐ横にはあかりさんが居た。
「大丈夫ですか?」
「・・・大丈夫・・///」
・・///。
ひな もだけど、何で女の人って こんな良い匂いすんだよ・・///
「ユウト君?」
「っ、はいっ!」
「頭とか打ったりしてませんか・・?」
~~~!!
ヒザ立ちしたあかりさんが頭を擦ってくれる、胸が近い・・っ///
「だっ・・」
「だ?」
「だ、ぃじょう、ぶ・・///」
「・・」
心配そうな顔のあかりさんが顔を覗き込んできて、ますます顔が熱くなる。
「朱莉・・!男性として接してあげて・・!」
さつきさんの声がして、あかりさんの手が離れた。
「・・・」
ホッとした・・でも心臓はドクドクいってる・・。
その後の事は あんま覚えてない。
ドキドキしたままジムを出て・・ジムの方から呼ばれて振り向くと、雪緒が立っていた。
「言ってくれたら相手するからねー♪」
満面の笑顔で手を振った後、雪緒はジムの中に走って戻っていった。
「ユウト君ー!結城さんに走って向かって行った時、ズッキューンって感じでカッコ良かったですよー!」
さつきさんも来てて、何かよく分からない励まし?方された。
「・・・」
顔を上げると、もう屋根は真っ暗。
完全に夜になっていた。
ひなと別れてから何時間くらい経ってるか分からないけど、早く帰るべきだと気付いた。
周りを見ても、もう歩く人の姿は見えない。
時間的に、『女性の外出は危ないです』と聞いてたくらいの時間かもしれない。
ひな なら多分、何時間でも待ってる気がした。
早く帰らないと、ひなに心配させてしまう。
走って帰り、ビルの入口のオートロックに入ると、ひなが待っていた。
「お帰りなさい、ユウトくん」
「・・ただいま///」
ひなに何から説明しよう・・・とりあえず、遅くなってゴメンって謝らないと。