日々の色々 6 ユウトと『鬼ごっこ』
ヒラッ
ヒラッ
ヒラッ
「~~っ!!」
ヒラッ
ヒラッ
「んあぁあっ!!」
「どったの?ユウトくん」
「お前らなぁ!!少しは隠せよっ!?」
顔を赤くしたユウトが叫ぶ。
■
さかのぼる事、1時間ちょっと前。
ジムから少し行った所で姫望と別れたユウト。
そんなユウトに声を掛けたのは知り合いだった。
知り合いと言っても、隔離都市の中で出来た知り合いだ。
かぐ姉の家族になった少女。
自分より小さいのに、『かなり年上』だと言う。
『完全な義体』の人というのは そういうモノなのかもしれないが、中々 馴染めない。
頭で『そういうモノだ』と思っていても、納得出来るか出来ないかは別問題だと思う。
そんな少女、結城雪緒に声を掛けられたのだ。
姫望と揃って ゆいに軽くあしらわれて帰る自分とは反対に、雪緒達は これからジムに行くと言う。
「ユウトくんも一緒に行かない?鬼役が欲しかったんだ~♪」と言われ、返事をする前に腕を引っ張られていた。
ジムに逆戻りしたユウトが誘われたのは、『鬼ごっこ』。
最初に『鬼ごっこ』と聞いて どこが運動なのかと思ったが、連れられて行った先はスゴかった。
鬼ごっこの為の部屋だという その部屋、室内にはパイプとか壁とか、色んな障害物があり・・「じゃ~今日の鬼はユウトくんね~♪」と雪緒に言われ、『鬼ごっこ』が始まった。
逃げるミイシャとフェリスと雪緒。その3人を追い掛ける。
3人とも、自分より小さい。しかも女だ。
すぐに全員捕まえられると思ったのに、1人も捕まえられなかった。
しかも・・だんだんと慣れて来るにつれて、気にしない様にしていた事が気になってきた。
雪緒もミイシャもフェリスも、3人とも、スカートだ。
しかも短くてヒラヒラしていた。
当然、舞い上がるし捲れ上がる。
一度気になり出してしまうと、何故か そちらにばかり目が行ってしまった。
せっかく誘ってくれたんだし?ふざけてる訳でも無いみたいだし?こっちもマジメにやらないとダメだって分かってるけどさ?
高くジャンプして避けた雪緒のパンツが間近で視界一杯に映り・・耐えきれなくなった。
いい加減、限界だったのだ。
それで、つい叫んでしまったのだった。
■
「そんなに荒ぶって どうしたのー?」
「荒ぶってねぇし!」
「充分 荒ぶってると思うけどなー。ホント、どうしたの?」
心の底から不思議そうに、首を傾げて聞かれる。
近付いて来る姿を見ているハズなのに、どうしても直前に見たパンツが頭をよぎってしまう。
ミイシャとフェリスも歩いて来て、不思議そうな顔をされた。
ミイシャなんか、パイプに座って足広げたから丸見えになった。
そう言われた訳じゃないけど・・・『お前なんか男として見てない』と言われた気がしてしまう。
ゆいに軽く あしらわれた後だから尚更だ。
「お前らなっ・・!!スカートの中 丸見えなんだよっ!!少しは隠せっ!!」
「あー・・」
ゆきおが「そーいうことー?」とスカートを見る。
これで少しは気にするか・・と安心する。が、
「大丈夫大丈夫~♪」とスカートが たくし上げられた。
「ちょっ!?」
慌てて横を見るが、
「これ、見えても大丈夫なヤツだからさっ♪」
と意味不明な事を言われた。
「パンツだろっ!?」
「んーん。パンツが見えない様に、パンツの上から履いてるヤツ♪」
上から履いたって、パンツはパンツだろっ!?
ゆきおの顔を見ると、面白がってニヤけた顔だった。
しかも、まだスカートは たくし上げられたままだ。
「大丈夫でも、スカートの中は見せんなっ・・!!」
ニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤ・・。
小馬鹿にした様な生暖かいニヤけ顔にイラつく。
「フェリスとミイシャはっ!?」
「・・・大丈夫なヤツ」
「わたしもー♪」
フェリスは無表情気味な半目。ミイシャは ゆきお みたく めくり上げようとして、フェリスに止められていた。というか、フェリスがミイシャの足を掴んで閉じた。
フェリスになら話が通じそうだ。
「見えても大丈夫でも、スカートの中は見られたくないもんだよな!」
「うん。でも、これ履いてると、あんまり気にならなくなる」
真顔で静かに言われると、そういうもんなのか・・と思ってしまう。
「ん~・・言われてみると確かに恥ずかしいけどさ~・・いつもより気合いが入る気がするかなっ」
「ん・・わたしも」
「マジ?」
ミイシャとフェリスから意外な言葉が聞こえた。
「うんっ!私から見ても、2人共いつもより動きが固い気がするよ!」
「・・」
「やっぱ男の子が居ると気になっちゃうもんね~♪」
さっき、おもいっきりスカートをめくり上げたヤツが言うな!と言いたいが我慢する。
それよりも聞きたい事があるのだ。
「いつもより動きが固いって、緊張するとか?」
「んーん、全然っ」
「ん」
ミイシャとフェリスに呆気なく斬り捨てられた。
「まー、いつも女の子だけでやってるしねー。私的には、ギリギリ、フェリスが捕まるか捕まらないか ぐらいかなって思ってたし」
雪緒からもザックリ斬られた。
「逆ならどうだ!?」
「逆?・・・あんまりオススメ出来ないかも?」
「何でだよ・・!」
「んー・・ユウトくんじゃ、3人とも捕まえられないと思う」
「っ・・・やってみないと、」
「ごめん、分かる。無理」
「・・」
「まぁ・・微かにでも当たったら、とかなら可能性も出ると思うけど・・」
っ・・・。
「そんな顔しないで」
「・・・何で、無理なんだ・・?」
「ん~~・・気持ちの問題?」
「・・気持ち?」
「そう」
「どういう意味だよ」
「・・・ユウトくんさ。私が声掛けた時、落ち込んでなかった?」
「・・・まぁ、少しは・・」
「ん。少しかどうかは別にして、かなり鬱屈とした感じした」
「・・」
「ほっといたら姫望ちゃんに酷い事しそうだったもん」
「するかっ・・!!」
「・・まぁ、姫望ちゃんならさ?ユウトくんが何しても、受け入れてくれそうだけど・・ユウトくんがねー?」
「オレが何だよ・・!!」
「ユウトくん、姫望ちゃんが何て言っても、自分を許さなそうなんだもん」
「・・」
「そしたら姫望ちゃんが哀しむでしょ」
「・・」
ひなが泣いてる顔が頭に浮かんだ。
「それにさ、ユウトくん・・舐めてたでしょ」
・・・。
「鬼ごっこって言った後とか、始める前の顔とか、観察してたけど・・『来なきゃ良かった』みたいな顔してたよ?」
「・・・よく見てるな・・」
「そりゃまあー・・伊達に年くってる訳じゃないのでっ☆」
に~っこり、不思議な笑い方された。
「・・それ見て、『じゃあ帰れ』って思わなかったのかよ」
「ん~?むしろ逆かな~」
「・・逆?」
「そっ♪小バカにしてるのに手も足も出なかったらさ、かな~りショックだと思うし?」
「・・」
「頭の中がゴチャゴチャでグチャグチャの時ってさ・・限界まで運動してぶっ倒れちゃうと、意外とスッキリしたりするんだよねー・・♪」
「・・」
「それにさー?」
ニンマリ笑って、少し離れた雪緒がクルッと回った。
唇に人差し指を当ててニヤリとした顔にドキッとした。
「下手にプライド傷付いてるくらいなら、粉々に砕いちゃった方がスッキリするかなーって♪」
「・・・」
何も言い返せなかった。
「男の子って、完全に砕かれても立ち上がれたらさ、強くなれるよ~?」
「・・・立ち上がれなかったら・・」
「きっと、姫望ちゃんが甲斐甲斐しく養ってくれるよ♪」
「・・情けな過ぎんだろ」
「ま、そういう生き方、いや『生かされ方』もあるよ、って は~な~しっ☆」
「っ・・」
「・・・最初、声かけた時ねー。深刻そうなら、立てなくなるまでジムから出さないつもりだったんだー♪」
「こわっ!ゆきお、こわいよっ!?」
「わたしは・・ゆきおに賛成かな」
ミイシャとフェリスは反応が別れた。
「・・意外だな」
「そう?」
フェリスが首を少し傾けた。
「あぁ。フェリスって、すっげぇ落ち着いてるじゃん?だから、ミイシャみたく言うかと思った」
「ふっふっふっ♪フェリスって、こう見えて かなりの武闘派だからねっ♪」
「・・・そう?」
雪緒の横で首を傾げる姿は とても武闘派には見えない。
「ま、長話してたら身体冷えちゃうし、場所を替えよっか♪」
ポンと手を合わせた雪緒が提案する。
「・・変えるって、どっか行くのか?」
「うんっ♪さっき言ったよ?『粉々に砕いちゃった方がスッキリするかな』、って」
「・・マジか」
「マジ♪・・何か悩んでるっぽいし、お姉さんが相談に乗ってあげるよ・・拳で、ね♪」
・・・雪緒の方が よっぽど武闘派だよ。
■
「ゆきお」
「ん?なぁにフェリス~♪」
「さっきの、普通のパンツじゃなかった?」
「うんっ、そう」
ふぅ・・「やっぱり・・」
「スカートで外出する時さ、風吹いたり転んだり、階段で下からだったり、いつ見えちゃうか分からないでしょ」
「ぅん」
「だから、スカートで外出の時は、『見えても大丈夫なヤツ』♪」
「・・・使い方が違う気がする・・」
「まぁ そうだけど、年頃の男の子をからかうと反応が面白いからねっ♪つい~♪」
ふぅ・・「もぉ」
いまだに、雪緒を見ると さっき見たパンツが浮かぶ・・そんなユウトが先をズンズンと歩いて行く。
行き先は聞いた。少し行った所のレスリングルームという部屋だという。
フェリスを挟んだ反対側で雪緒の話を聞いたミイシャは、顔を赤くしつつ「大人だ・・」と、フェリスが聞いたら「違うから。間違ってるから」と軽く4時間は説教が続きそうな感想を抱いていた。
「ゆきおー!ココだよなっ!?」
「うん、ソコーっ♪」