そんな1日/姫望(ひなの)の場合
その辺に あるかもしれない出会い。
その辺に溢れている、ありふれた不幸。
過去に不幸だった。
でも、今日は そこそこ楽しくって幸せで。
明日が少し楽しみで。
それだけで、日々を生きていける。
・・・おやすみなさい。
そして、おはよう。
そこから始まる お話。
「アナタが好きです、お付き合いして下さい」
「・・・ありがとう。でも、オレ・・まだ かぐ姉が好きだから」
「・・うん、知ってる・・。また告白するね・・♪じゃあ、ゴハンに しよっか・・♪」
部屋にある端末と にらめっこして頑張って作ったゴハンを並べていく。
少しずつ少しずつ、確実に覚えていこうと思う。
ゴハン前に気まずい雰囲気にしてしまったけど、さっきのは 初めて彼に告白してから、今回で5回目の告白で5回目の玉砕だ。
うん・・断られるのは分かってるの。
でも、彼が好きなの。
だから・・断られたら、引きずらない様に すぐ日常に戻るの。
またしばらくして、彼への想いが溢れそうになったら告白するの。
今でも、もう口に出したい・・『好き』って。
いただきます して食べ出すユウトくん好き・・。
頑張って初めて作った『肉じゃが』っていうオカズ食べてくれたユウトくん好き・・♪
時々 小さい声で「うまっ・・」て言ってくれるユウトくん好き・・。
お茶碗のお米食べ終わって もの足りなさそうに炊飯器を見るユウトくん好き・・。
「ユウトくん、ついであげる・・♪」
「ぁりがと」
ぁあ・・・少し恥ずかしそうに お茶碗出すユウトくん好きぃ・・。
「はいっ、大盛りだよ・・♪」
「ありがと」
「うんっ♪」
~~~~~っ♪
ユウトくん好きぃ・・♪
■
私が好きなユウトくん。
たぶん、年も近いんだと思う。
二人とも、『このくらいに生まれたハズ』ってのは分かるんだけど、本当に正しい日付は分からない。
二人とも孤児だから。
一緒に暮らしだして、ユウトくんの色んな所を見て、色んなことを知って、少しずつ・・少しずつ・・想いが強く おっきく なっていくの。
こんな気持ち初めて・・。
産まれて来て良かった・・♪
辛いことばっかりだったけど・・今この幸せの為だったのなら、納得も出来る・・。
■
「ユウトくん、今日もお見舞い?・・そういえば・・」
「うん。かぐ姉、今日退院なんだってさ」
「そっか・・彼女・・退院したら、あのひとの所に住むんだよね・・?」
「うん・・そうらしいよ」
彼が言うところの『かぐ姉』、この人が私の恋敵だ。
華夜さん・・結城・華夜さん。
ホントの名前は『かぐら』さんというらしいけど、現在・・彼女を そう呼ぶ人は ほとんど居ない。
昔からの知り合いという人達も皆、『かぐや』さんと呼んでいる。
彼女が『かぐら』さんと呼ばれていた時、ほんの少し関わった事がある。
まだ私が隔離都市の『外』に居た頃の話だ。
酷い目に遇わされ、女としての尊厳を踏みにじられていた私を命懸けで庇ってくれたのがユウトくんで、そのユウトくんの報復を命懸けで行ったのが『かぐら』さんだ。
・・・そして、彼女は死んだ。
ううん・・・辛うじて生きのびたけれど・・大量出血と、脳の酸素欠乏で、脳障害を患い・・治療を終えた彼女は、彼女では なくなっていた。
過去の記憶を ほとんど失い、真っ白になっていた。
『かぐら』さんという『心』が死んでしまったの。
お見舞いに行っていたユウトくんは それを知って泣き崩れた。
泣きながら・・『かぐら』さんが助けてくれたから生き延びられたこと、一緒に暮らすうちに『かぐら』さんを どんどんと好きになっていったこと、『かぐら』さんからは弟の様に見られていたこと、『かぐら』さんは女の人が好きな人で最初っから可能性なんて無かったんだと知った時のこと、いつか自信を持って『かぐら』さんに告白しようと思って独り立ちした時のこと。・・・私を助けて刺されたけど『かぐら』さんに胸を張って死ねると思った、ということ・・。
いっぱい、いっぱい・・いっぱい、いっぱい いっぱい いっぱい、話してくれた。
ユウトくんの言葉には、想い人を永遠に喪ってしまった哀しみが溢れていた。
ユウトくんが泣き疲れて寝てしまうまで、胸元で抱き締めて頭を撫でた。
隔離都市に収容されて1ヶ月もした頃、本格的に『中』で暮らす為の準備が必要だった。
庁舎の人との お話は ほとんど全部、私がした。
受け入れの時に住むというビルを出る時にも、ユウトくんと一緒に住める部屋を希望して、後からユウトくんに知らせた。
「同時期に収容されて無関係という訳でも無いから、一緒に住んでも問題無い。それに、大勢の受け入れで住む場所が用意しきれていないんだ」と言われた、とウソをついた。
ユウトくんは『かぐや』さんのお見舞いとインプラント施術に追われていて いっぱいいっぱい だったから、少し驚いて「じゃあ、仕方ないよな・・ごめんな・・男と一緒で・・ヤだよな・・」と申し訳なさそうだった。
私こそ、ごめんなさい・・ウソついて・・。
ユウトくんと一緒なら・・私にとって、浮浪者生活だって天国だよ・・♪
■
ユウトくんから連絡があった。
華夜さんは無事退院したそうだ。
洗濯を終え、洗濯物も干し終わった。
ユウトくんと私の服を交互に干してある。
下着だって、ユウトくんのと一緒に干してある。
こうしておくと、可愛いユウトくんが見れるから好き・・。
こっそりチラチラと私のパンツを見て、見てない振りする所が すっごく可愛いの・・♪
ユウトくんだったら、いくらでも・・好きなだけ見てくれて良いのに、ユウトくんったら・・可愛いんだから・・♪
そろそろ、今日の晩御飯が出来上がりそう・・。
キッチンから、コトコト、コトコト、コトコト・・鍋から音が聞こえてくる。
今日の晩御飯はカレーライス。
一番最初にユウトくんの為に作った お料理。
ユウトくんは お腹一杯になるまで何杯も何杯も食べてくれて、私は胸が一杯になった。
カレーライスは、端末で調べて『どうやったら もっと美味しくなるか、どんな種類があるか』を 何度も何度も調べて作った。
お肉の種類を変えてみるだけでも、具材の大きさを変えてみるだけでも、辛さを変えてみるだけでも、ユウトくんは すっごく美味しそうに食べてくれる・・♪
大好きなユウトくんが美味しそうにパクパクと食べてくれる。
それだけで、幸せに満たされる。
ユウトくん、早く帰って来て・・♪
■
ベランダから下を見ていたら、帰って来るユウトくんが見えた。
私を見つけて手を振ってくれた・・♪
幸せ・・♪
この幸せを失くしたくない・・。
・・・・。
私は ひどい女だと思う。
それに、ズルい女だとも思う。
こんな女を好きになってくれる訳無いとも思う。
でも、私はユウトくんが好き・・!
誰にも渡したくないし、渡さないっ・・!
ううん・・ユウトくんが どうしても その人が良いのなら、応援しようと思う・・。
辛くなって、悲しくなって、嫌になって、どうしようもなくなったら、私のところに帰って来てくれれば良いの・・うん、それでも良いの・・。
振り向いてくれなくったって良いの。でもやっぱり、私と一緒に居て欲しいの・・!
私だけを見てくれなくったって良いの。
私がユウトくんだけ見てるから・・。
ユウトくん、大好きっ・・♪
改めての『第1話』です。
『姫望』と『ユウト』 (と『かぐら』)について もう少し知りたい方が いらっしゃいましたら、『ミッドナイトノベルズ』に連載の場を移した同名小説 (→タイトル横の『()』の中は『本編』になっています)を御参照下さいませ。
ただ、『18禁』に変わってしまったので、18歳以下の方は見てはダメですよー(>_<)
お姉さんとの約束だ★