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私の答え

「ムツとキサって本当にそっくりだよね」


放課後の体育館。

ジリジリとした陽とムンムンとした空気の中の体育館でバスケ部の練習試合が行われていた。

その試合を見るためたくさんの生徒が来ていたのでよりいっそう熱気がこもっており、ただ見ているだけの私もジワリと汗をかいてきた。


バスケ部員の中でも、大ちゃんは特に人気があり、大ちゃん目当てで試合を見ている女子生徒も結構いる。

彼は誰よりも機敏に動き、託されたボールを確実にゴールに届ける。

その姿は『かっこいい』と言う言葉しか思い浮かばない。



そんな中で私と如月の共通の友人円にしみじみと言われたものだから驚いてしまった。

円は幼稚園の時からずっと一緒だったから、もう間違える事はないと思っていたものの、


「私だって、見分けのつかない時あるよ、せめて髪形変えれば間違える事も無くなるんだろうけど」


と言われた。


髪形を変えるか…。

腰まで伸びたふわふわの髪に私は手を触れてみた。


私が髪を伸ばしている理由は大ちゃんが髪の毛の長い子が好きって言ってたから。

きっと如月も同じ理由で伸ばしているのだと思う。

大ちゃんを好きになった時間だけ伸びた髪。

そう思うと何だか切ない。


ハーフタイムに入り、如月が大ちゃんにタオルとドリンクを持っていく。

何か二、三言、言葉を交わして笑い合う。


その様子を見て胸がチクンと痛む。

胸が張り裂けそうなほど気持ちが悪くなる。


いつかどちらかが想いを打ち明けて、想いが結ばれた時。

私はその時どうするのだろうか?



*******


「ムツ、ごめん、お願いがあるの」


昼休み、如月が私の教室に来て、手を合わせて頭を下げた。


如月の姿を見た時からイヤな予感がしていた。

その言葉には少し語弊があるな。

本当は今朝からそのイヤな予感を感じていた。

今朝から如月はいつもと少し違ってソワソワしていた。

大ちゃんを見る目もいつもより潤んでいて、今にも涙が溢れるんじゃないかと思ってしまうぐらい、瞳に見えない膜が張ってあるように見えた。

そんな姿を見た瞬間からイヤな予感が現実味を帯びてきた。

胸の中を渦巻いてるモヤモヤとした気持ち。

遂にその気持ちに終焉が訪れたのだ。


「どうしたの?」


そんな事言わなくても答えは分かっているのに。


如月の答えを聞くまでの間、キリキリとした痛みを感じた。


「今日大ちゃんに告ろうと思ってるの」


ああ…。予想通りの答えだった。


「だから、今日部活が終わったら、大ちゃんと私を二人きりにしてくれるかな?」


大ちゃんの事好きじゃないと嘘をついた私に断る権利なんてない。


「今日欲しい本の発売日だから、本屋さんに寄りたかったからちょうど良かった。今日は別々に帰ろう」



部活が終わり、如月が大ちゃんに何やら話し掛けているのが見えた。

頬を赤くして、潮らしく大ちゃんのユニフォームの裾を掴んでいる如月の姿を見送ってから私は一人校舎を出た。



きっと今日は…じゃない。

今日から別々に帰る日が続くのだろう。

仕方ない、自分が選んだ事なのに。

何でこんなに苦しいの?

何でこんなに切ないの?

どうしてこんなに涙が出てくるの?


でも…。


もう泣くのは今日が最後。

最後だからもう少し泣いてもいいよね?

人目も気にせず私は泣き続けた。



********


次の日朝の洗面所の取り合いはいつもと違って時間がかからなかった。

耳元に聞こえるパサパサとした髪の音。

私と入れ違いに洗面所に入ってきた如月から何だかいい香りがした。

いつもと同じだけど、いつもと違う如月がそこにいた。

そして…。

いつもと違う私がそこにいた。



今朝から私一人の登校だと思っていたけど、如月がいつも通り三人で行こうって誘ってくれた。

その好意に甘えさせてもらって今日は一緒に行く事にした。


如月と一緒に玄関の扉を開ける。


「相変わらず、おせーよ。……って、ムツお前どうしたの、その髪形?」


昨晩私を見た時の如月と全く同じ顔を大ちゃんはしていた。


「お前失恋でもしたのか?」


私の頭をくしゃっと触り、笑う大ちゃんの顔が眩しかったけど…。


「うん、大失恋」


もう大ちゃんを見てもときめいたりしない。

自分で決めた事だから。


「お前好きなヤツいたの?」


「うん、大ちゃんが好きだよ」


私の答えに固まる大ちゃんと如月。

二人のどちらかが口を開く前に、昨日から言うつもりだった次の言葉を出した。



「大ちゃんもキサも大好きだよ、ずっと、ずっと変わらないよ」


二人の事が大好きだから、選んだ私の答え。


私の言葉を聞いて微笑み合う二人。


軽くなった頭は私の足取りも軽くさせてくれた。



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