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「何かね、円が彼氏とこの間キスしたらしいの、めちゃめちゃびっくりしちゃった、円ってそんなタイプじゃないじゃない?それから同じクラスの潤ちゃんにも彼氏ができたらしくてさー…」


友人とのカラオケから帰ってきた如月の口数はいつもより多かった。

如月の部屋で私は食後のデザートのアップルパイを食べながら聞いていた。

話の中心はもっぱら、誰々に彼氏ができたとか誰々が誰々に告白したとかそんな事ばかりだった。



「で、私に好きな人はいないの?って聞かれて、いないって言ったら、みんな稀少種でも見るような目つきで私を見るから可笑しくて…」


如月はキャキャと笑ってアップルパイのリンゴだけを器用に取って口に運んでいた。


私は如月の話を複雑な思いで聞いていた。

本当に如月に好きな人はいないの?



「それは本当なの?」


カラカラと音を立てて紅茶をかき混ぜていた如月はピタッと手を止め、驚いたような顔で私を見た。


あ…。

声に出てた。


「何が?」


「あ…と…キサ本当に好きな人いないの?」


如月はじっと私の顔を見てたかと思ったら、口もとを弛ませ途端に大爆笑し始めた。


「私に好きな人?ムツならそんな存在いないって分かってるじゃない?」


テーブルを叩いて笑っている如月のこの

姿が演技だなんて思えない。


でも…。私にはちゃんと分かってる。

如月が大ちゃんを好きな事。



「…ねぇ、キサ。キサは大ちゃんの事好きなんじゃないの?」


どうしたんだろう?

いつもは避けていたこの会話を自分から振るなんて。

大ちゃんに如月の服を着て行ったことがすぐにバレてしまったのが悔しかったから?

こうまでして私に大ちゃんへの気持ちを隠している如月に頭きたのかな?


「え…?ど、どっしたの、急に?」


「正直に答えて欲しい。私たち今までお互いに隠し事とかしたことなかったじゃない?」


言いながら心がぎゅっと締めつけられる苦しさを感じる。

自分だって正直に自分の気持ち伝えてないのに。

自分だって大ちゃんの事好きなのに。

自分の気持ちは隠したままでこんな風に問い出すなんて最悪だ。


「うん…そうだね…いつかムツには話さなきゃって思ってた。でも、もしムツが同じ気持ちを抱えていたら?と思うと怖くて言えなかった」


如月の言葉がやるせなく部屋に響く。

もう聞かなくても分かる言葉の続きが、心を少しづつカラカラにさせていく。


「私ね、大ちゃんが好きなの」


カラカラに乾ききった心は荒れた大地になり、音を立てて粉々に崩れていく。


「ムツ?」


「あ…うん、聞いてる」


「やっぱり…ムツも大ちゃんのこと好きなの?」


向い側に座っている如月の瞳が不安で揺れ始めた。



「まさかー、私は大ちゃんの事何とも思ってないよ」


生まれて始めて如月につく嘘は心が張り裂けてしまいそうな切ない嘘だった。


「良かった。ムツも大ちゃんの事絶対好きだと思ってたから」


安心して笑う如月の目に涙がちらり見えた。


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