双子
「ちょっと洗面所独占しないでよ、キサ」
「ムツだってのんびりいつまでも髪解かしてじゃない?」
朝のこの時間は毎日毎日戦争だ。
特に同い年のティーンエイジャーがもう一人いると、洗面所の取合いが激しい。
しかも…。
洗面所の鏡には全く同じ顔が二人写っている。
眉毛の位置も垂れ目具合も、腰までの長い髪も何もかも全く同じ人間。
桜川睦月、桜川如月。
双子なのに、如月は産まれたのが私より数時間遅くなり次の月になってしまい、この名前。
見た目だけでなく趣味も思考も全く同じの私たち…。
「おっせーぞ、睦月、如月」
玄関の扉を開けると、桜の香りと共に同級生の石井大樹の不満そうな声が私たちを待っていた。
「ごめーん、大ちゃん」
私たちは声を合わせて謝る。
物心ついた時からずっと一緒の私たちは今日からめでたく中学三年生になりました。
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三人並んで掲示板に貼られているクラス分担表の前に来たものの、人が多すぎて自分たちの名前を探そうにも頭が邪魔してなかなか見えない。
こんな時役に立つのは。
「私たち何組だった?大ちゃん」
私たちより30センチほど背の高い、大ちゃんだった。
「んー、如月は1組でオレと睦月は5組だ」
「えーーーーー。私だけ別ー?どうしてー?」
「どうして、って言われても仕方ないだろう」
「二人と同じクラスが良かった…」
腕を腰に当てぷーっと頬を膨らませ見上げる如月の姿は可愛らしかった。
同じ顔なのに可愛いと思うのは何かおかしい感じはするが、如月の方が私よりずっと可愛いと思ってしまう。
「そう言うなって。クラスは違っても登下校は同じだし部活だって一緒なんだから、いつもと変わらないだろう」
言い方はぶっきらぼうだったけど、如月の髪を撫でる大ちゃんの瞳は優しかった。
いつも大ちゃんは優しい。
見た目は目も眉もつり上がっていて強面な顔をしてて、近寄りがたいイメージだし、口も悪いけど本当はとても優しい人だ。
……、そして、いつからだろう?
特に如月に優しい。
如月を見詰める瞳が今までと違ってとても穏やかだった。
そんな大ちゃんを見上げる潤んだ如月の瞳も今までと違っていた。
いつからだろう?
私たち三人の関係が変わってきたのは?
いや、表面上は何も変わっていない。
大ちゃんも如月も私には気付かれていないと思ってる。
でも、そんなの分かっちゃうよ。
如月は私と全く同じなんだから。
好きな香水も好きなテレビ番組も好きな色も。
だから。
ずっと前から如月の気持ち分かっていた。
そして、大ちゃんの気持ちにも気付いてしまった。
だって、私は大ちゃんの事好きだから。
ずっと好きだったから。
大ちゃんの事ずっと見てたから、大ちゃんが誰を見ているかなんてすぐに分かるよ。
「取り合えず、教室に行くか。おーい、行くぞ、睦月」
大ちゃんと如月。
二人はまだお互いの気持ちに気付いていない。
だけど、そう遠く無い未来に二人はお互いの想いに気付くだろう。
その時、私は…?
私は平常心でいられることできるかな?