第3話 お兄ちゃん 〜伊達 由紀子〜
皆様おはようございます。
私は伊達 由紀子、ピッチピチの20代の人妻です。
自分でピッチピチとか言うなって?
自分で言わなきゃ誰が言ってくれるんですか!?
おっと、取り乱してすみません・・・季節は冬を迎え、凍えるような寒さの中、私はお布団でぬくぬくと二度寝の真っ最中でございます。
隣には可愛い一人息子がスヤスヤと寝息をたてており、子供特有の高い体温が、私を布団から出してくれない原因でもあります。
「拝啓、極寒の候ではございますが、お義兄様はいかがお過ごしでしょうか?
そちらは寒いのでしょうか?それとも暖かいのでしょうか?
こちらは寒過ぎて死にそうです・・・九州の冬を舐めていた自分をぶん殴ってやりたいです。
この際、隆二と別れて布団と再婚したいと思い始めた今日この頃です・・・」
「おい由紀子・・・布団の中で兄貴に変な電波送んじゃねぇよ」
私が布団に包まりながら亡くなった義兄に話しかけていると、旦那の隆二が布団を引き剥がした。
それに驚いた息子の慶太が泣き出す。
「ちょっと隆二!慶太が泣いちゃったじゃん!それに、敬具くらい言わせてよ!!」
「慶太ごめんな、父ちゃんが悪かったよ・・・。
てか由紀子、敬具くらい言わせてよって怒るのそこか?」
隆二は慶太をあやしながら私を見て呆れている。
拝啓で始めたからには、敬具で終わらなければいけないのだ。
何故かは知らないが、そう教えられた。
「由紀子、俺今日は支局の方に行かないといけないから、もう行くわ。
朝飯はパン焼いてるから、起きたら食えよ?
寒くて布団が恋しいのは解るけど、誠治さんなんか四時には起きてランニングに出かけてたぞ」
隆二は慶太を布団に降ろし、制服に着替える。
「おぉ・・・毎朝悪いねぇ、冬はどうしても苦手なんだよね。
てか、誠治さんって毎朝そんな時間に起きてるの?」
「いつもの事だし慣れたよ・・・。
あの人は、休暇の時もなんだかんだ働いてるからな・・・時間がいくらあっても足りないんじゃないか?
3時間も寝れば十分だとか言ってたけど、倒れないか心配だよ・・・。
お前も我が儘言って誠治さんをあまり困らせるなよ?」
隆二は着替え終わると、慶太の頭を撫でて玄関に向かう。
「わかってるって!今日は遅いの?」
「んー・・・どうだろ?まぁ、夕方には戻ってこれると思うよ。
じゃ、行ってくるわ」
隆二は手を振って歩いていく。
私は、抱っこした慶太と一緒に手を振り返して見送った。
ここ1年半位で、隆二は色々と大人になったと思う。
今までの平和な日常が終わりを告げ、地獄となったあの日から、徐々にではあるが変わって行った。
隆二が変わった一番の原因は、実兄である慶次の死だ・・・。
慶次は、隆二が自分勝手な行動を取った結果、弟を助けるために命を落としてしまった。
隆二は、兄を死なせてしまった自分の身勝手さを責め、しばらくは塞ぎ込んでいたが、仲間達の支えもありなんとか持ち直してくれた。
それからは身勝手さは鳴りを潜め、しっかりと考えて行動し、周りを気にかけるように心掛けているようだ。
隆二が変わったもう一つの理由は、さっき名前の出て来た井沢 誠治だ。
誠治さんは、地獄となってしまった私達が住んでいた町に、偶然立ち寄った男性だ。
彼は、仲間である私と同い歳位の悠介、美希、当時8歳だった千枝の3人兄妹を守りながら移動している最中だった。
小さな子供を守っているのを見た私達は、彼は悪い人間ではないと判断し、渚、隆二、私の3人で情報を得るべく会いに行った。
彼は、最初は私達を警戒していたが、私が襲われそうになったのを助けてくれ、話を聞いてくれた。
そして、見ず知らずの私達に一緒に行こうと言ってくれた・・・。
だが、その後起こった出来事により、私達は迷ってしまった。
彼は、私達の目の前で人を殺したのだ・・・原因は渚や隆二、慶次が捕らえられたのが発端だが、彼は躊躇無く人を殺した。
それを見た私達は、助けられたにも関わらず彼を疑ってしまった。
でも、彼は疑っていても良いと言ってくれた・・・仲間を助けるのは当然だと言ってくれたのだ。
そして、私達は彼の仲間となった。
旅の途中で慶次が死に、私の妊娠が発覚し、さらには脱出目前で、彼が弟のように可愛いがっていた悠介も死んでしまった。
悠介は隆二にとっても親友のような男性だった・・・おっちょこちょいだが、優しく、家族思いのお兄さんだった。
性格は違うが、妹達を愛する兄としての姿は、慶次に近いものがあった。
関東を脱出して自衛隊に救助され、四国に行ってからも色々と問題が起き、その中で誠治さん
は奴等に噛まれてしまった。
すぐに噛まれた右手を切断したが、彼は意識を失い死の淵を彷徨った・・・私達にとって精神的な支柱だった彼の負傷は、私達に絶望をもたらした。
兄を亡くしたばかりの美希や千枝は勿論のこと、渚や隆二、誠治さんの恩人である元気も彼の無事を祈り、殆ど休む間も無く彼に付き添った。
そんな彼が目覚めたのは3日後、目を覚ました彼は、病院のロビーで休んでいた私達の前に、美希に肩を借りながら姿を現した。
私達を驚かそうとしたのだ。
最初は彼が責められていたが、私が冗談を言うと、皆んなの矛先が私に向かって来たのは、今でも忘れない・・・納得できない!
場を和ませようとしただけなのに!!
「ふぅ、さてと・・・朝ごはん食べて畑に行こうかな!」
私は隆二の背中が見えなくなるまで見送り、家に入る。
そこで、ある事に気付いた・・・気付いてしまった。
「私って、誠治さんと2人きりになった事無くね!?これは納得出来ませんぞ!私だけ仲間はずれとか嫌だ!!」
「よし、誠治さんを借りれないか、今日美希ちゃんに頼んでみよう!」
私は隆二からの忠告をすっかり忘れ、朝食を済ませた後、慶太を誠治さんのお母さんに預けて畑に向かった。
「皆さんにお話があります!てか、美希ちゃんにお願いがあります!!」
私は、勢い良くテーブルを叩き、立ち上がった。
テーブルにあるお茶菓子が皿ごとひっくり返りそうになり、私は慌てて皿を支えた。
「何なんだ一体・・・」
「びっくりした・・・どうしたんですか由紀子さん?」
「由紀子ちゃん、元気なのは良いが少し落ち着きなさい」
「あぁっ!すみませんお義父さん!」
一緒にテーブルを囲んでいた渚、美希、誠治さんの父が私を訝しげに見る。
ちなみに私や渚は、誠治さんの両親の事をお義父さん、お義母さんと呼んでいる。
誠治さんの奥さんは美希だが、家族みたいなものだからそう呼んでくれと言われたのだ。
誠治さんの両親も、私達の事を可愛がってくれている。
本当に井沢一家には頭が上がらない。
「いやぁ申し訳ないです・・・その、何と言うかですね?今朝、ある事に気付いてしまったんですよ ・・・」
「ある事ですか?」
美希は首を傾げている。
うーん、可愛い!
「お前の事だ、また何かくだらない事だろう?」
渚は凄く面倒くさそうな表情だ・・・失礼しちゃうわ!
「まぁ、確かに由紀子ちゃんは色々と厄介ごとを持ってくるのは確かだが、あまりそう言ってやりなさんな」
お義父さん、それはフォローになってないです・・・。
「それで、私にお願いってなんですか?」
「あのね美希ちゃん、私は誠治さんに助けられてから今まで、一度もあの人と2人きりになった事が無いのですよ!渚さんや隆二はあるのに、私だけ仲間はずれは納得出来ないのですよ!!解る?この気持ち・・・」
「解りません・・・」
美希はお茶を飲みながら即答した・・・。
(早いよ美希ちゃん・・・)
「やはりくだらなかったな・・・」
渚にも辛辣な言葉を貰い、私は泣きそうになった。
「だってさ・・・2人きりだとどんな会話をするのかとか気になるじゃん?
他の人が居ないからこそ聞ける話とかあると思うんだよね」
私がそう言って美希を見ると、少しだけ考え込んで顔を上げた。
「わかりました・・・誠治さんは明日1日家にいるらしいので、明日だけ貸してあげます!
でも、変な事して困らせないでくださいね?
折角の休暇ですし、ゆっくりして欲しいですから・・・」
「流石美希ちゃん!心配しなくても大丈夫だよ!」
「お前の大丈夫程不安なものはないな・・・」
私は渚の小言をスルーして美希に抱きついた。
お義父さんは苦笑しながら私達を見ていた。
その日、帰ってきた隆二にその事を伝え、こっぴどく怒られたのは言うまでもない・・・。
翌日、私は慶太を連れて家を出た。
誠治さんに会うため、彼の家に行くのだ。
まぁ、徒歩2〜3分の距離だからご近所さんなのだが、今日の私は気合いの入り方が違う。
何しろ、美希が愛する夫を貸してくれたのだ。
誠治さんと美希はラブラブだ・・・そりゃもう見てるこっちが恥ずかしくなる程にラブラブオーラが立ち昇っている。
誠治さんは見た目は身長が高くて強面だが、性格は優しく家族想いで、何より頼りになる。
あんな状況で惚れるなと言う方が無理がある。
聞いたところによると、渚も好きだったらしいし、私も隆二や美希が居なかったら惚れていたと思う。
「誠治さん居ますかー?」
私は誠治さんの家の玄関を開けて声を掛ける。
返事は無い・・・まさか出掛けてるのか!?
考えてみれば、時間を指定していなかった。
だが、鍵は開いている・・・まぁ、田舎の場合鍵を掛けずに出掛ける事はしょっちゅうだが、あの人に限ってそれは無いだろう。
「誠治さーん、上がりますよー?」
私は一応断りの言葉を呟き、リビングに向かう。
リビングの扉を開けると、そこには誠治が居た・・・ソファーの上で寝ていたのだ。
誠治さんのお腹の上には、彼と美希の子供である夏菜枝と悠枝の2人が気持ち良さそうに寝ている。
「井沢 誠治の朝は早い・・・とか隆二が言ってたしね。
眠たくなっても仕方ないかぁ・・・」
私はリビングの一角にたたまれた洗濯物を見つけ、誠治さんのお腹の上で眠る子供達にブランケットを掛けた。
すると、何処から出てきたのか、猫達がゾロゾロと集まって来た。
「相変わらず壮観だなぁ・・・」
列をなして歩いてくる猫達は、私が掛けたブランケットを奪い合うように誠治さんの上に寝転がっていく。
誠治さんは苦しそうに顔をしかめている。
「うーん・・・お前ら暑苦しいよ」
誠治さんは目を覚まし、猫達を左手で掴んで降ろしていく。
「ん・・・由紀子ちゃん?
あぁ、そう言えば美希が昨日言ってたな・・・ごめんな、寝てたよ」
「いえいえ、ちゃんと休めてます?無理して倒れたら、美希ちゃん泣いちゃいますよ?」
「まぁ、大丈夫だよ・・・それより、今日はどしたん?何か俺に用事があるって聞いたけどさ。
珍しいよね、由紀子ちゃんが1人で俺に会いに来るって・・・まぁ、慶太君も居るんだけど」
「ふふふ、良くぞ聞いてくれました!
まさしくそれが私が来た理由ですぞ誠治さん!!」
私がそう言うと、途端に胡散臭そうな表情をした・・・酷い。
「何が目的だ・・・?まさか、俺に乱暴する気だな!エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!!」
「あはは、誠治さんのそう言うノリ大好きですよ」
私が軽く受け流すと、誠治さんは苦笑した。
「で、冗談はさておきどうした?
正直、何か企んでそうで怖いんだけど・・・」
「流石に私も傷付きますよ?ただ、今まで誠治さんと2人きりになった事が無いなって思いまして・・・」
誠治さんは明後日の方向を見て考え込む。
「確かに無いな・・・でも、それがどうかした?
俺が居る時には会ってるし、別に2人きりにこだわらなくても良いんでない?」
「いやぁ、2人きりじゃないと出来ない話とかあったらしてみたいじゃないですか・・・」
「ふむ・・・特に無いな!」
(この野郎・・・!)
私は目の前の男の反応に怒りを覚えたてしまった。
もしかして、この人は私の事が嫌いなんじゃないかとさえ思える。
「そんな事言わずに・・・」
「うーん・・・別に何か不満がある訳でも無いし、隠し事してるつもりも無いしなぁ」
誠治さんは、首を捻りながら唸って居る。
本当に何も無いらしい・・・不満が無いと言ってくれるのはちょっと嬉しい。
嫌われている訳ではないようだ。
「じゃあ、私は誠治さんにとって何なんでしょう?」
「あのさ、その言い方はあらぬ誤解を生むからやめてくれる!?美希に聞かれたらどうすんの!!?
うーん・・・何って言っても、隆二の嫁で、大事な家族で、よく子供達の面倒を見てくれて、あと可愛い妹分だな!」
おぉ・・・何か好印象だぞ!
兄弟の居ない私にとって、妹分と言う言葉は嬉しい。
兄妹に憧れてはいたが、義兄になるはずの慶次は亡くなってしまい、もう二度と私を妹と言ってくれる人はいないと思っていた。
もう一度聞きたい・・・。
「最後のところワンモア!」
「ん?可愛い妹分・・・これで良いか?」
「もうちょっと心を込めて!そして、分は要らない!!あと、由紀子って言ってください!!」
「注文多いな!?可愛い妹だよ由紀子は・・・あぁもう、恥ずかしい!!・・・ってどうした!?」
誠治さんは、私を見て驚いている・・・何故だろう?
その理由はすぐに解った。
私は泣いていたのだ・・・正直、今まで優しい兄のいる隆二や美希達が羨ましかった。
だが、彼等の兄は亡くなってしまった。
親が亡くなった悲しみは私にも解る。
私の両親も奴等に殺されたから・・・でも、兄が亡くなった悲しみは私には解らない。
だから、隆二は別として、美希達の前では兄弟の話は極力避けていた。
悲しい事を思い出させてしまうかもしれないから・・・。
「なんかすみません・・・何だか嬉しくて」
私の涙は止まらない。
「何がそんなに嬉しいんだよ・・・由紀子ちゃんは、あの日慶次に託されてからずっと俺の妹みたいなものだったじゃないか?
今更感半端ないんだけど・・・そんなに嬉しいの?」
「はい・・・!何でですかね・・・ずっと兄弟に憧れてたのに、誠治さんとはそんな感じじゃないなって思ってたんですけど、妹って言ってもらえたら嬉しかったんです・・・」
「そっか・・・由紀子、君と隆二は今までもこれからも、俺にとって大事な家族で、可愛い妹と弟だよ。
だからそんなに泣くなよ・・・」
誠治さんは優しく笑い、私の頭を撫でる。
「誠治さん・・・これから、お兄ちゃんって呼んで良いですか?」
「いや、それは勘弁・・・」
何だよ!この流れで断んのかよ!?
「何でですか!?」
「気持ち悪い・・・」
「何だとこの野郎!泣くぞ!?」
「いや、すでに泣いてるからね君・・・」
「ちくしょー!一発殴らせろ!私の感動を返せこの野郎!!」
私は誠治さんに殴りかかった。
今更だが、この人に殴りかかるなんて命知らずも良いところだ。
誠治さんはいとも容易く私の拳を受け止める。
「ぬははは!その様な攻撃効かぬわ!!修行が足りんぞ!!」
「別に強くならなくても良いんですー!だって、隆二や誠治さんが守ってくれるんですから!私は子供達を守れればそれで構いません!!」
誠治さんはニヤリと笑う。
私もつられて笑ってしまった。
「それで良いんだよ・・・君は泣き顔よりも笑顔が似合ってるよ。
君がそうやって皆んなを楽しませてくれるから、俺は安心して行く事が出来るんだ。
俺にとって君は可愛い妹だ・・・別に言葉にしなくても、それを互いが意識してるなら良いじゃないか?
それとも、君は俺のことを兄と呼ばないとダメなのか?そう呼ばないと兄として見てくれないのか?」
「そんな事ありません・・・でも、2人の時にはお兄ちゃんって呼んでも良いですか?」
「わかったよ・・・でも、他の人達が居るところでは勘弁してくれよ?」
「ふふふっ、解ってるよお兄ちゃん!」
誠治さんは照れて顔が真っ赤になっている。
これはこれで面白い・・・。
私は、さっきの仕返しにからかう事にした。
「お兄ちゃん大好き!」
私は誠治さんの腕に抱き着き、身体を寄せる。
胸が当たってしまったが、まぁ良い。
すると、それと同時にリビングのドアが開いた。
『あ・・・』
私と誠治さん、それとリビングの扉を開けた人物の声がハモる・・・扉を開けたのは美希と隆二だった。
「誠治さん・・・」
美希は虫を見る目で誠治さんを見る。
「由紀子、お前・・・」
隆二はワナワナと震えている。
これはあれだ・・・昼ドラ的な展開だ。
「美希、隆二・・・これは違うんだ・・・」
誠治さんは顔面蒼白になり、涙を浮かべている。
「誠治さん、由紀子にマニアックなプレイを仕込まないで下さい!」
「誠治さん、説明してくれますね?」
おぉ、2人の戦闘力がみるみる上がって行く・・・。
流石に悪ノリしすぎてしまった。
「2人共ごめん、私が誠治さんにお願いしたの!
誠治さんが、私の事を妹みたいって言ってくれて嬉しくて・・・つい悪ノリしちゃった」
「誠治さん、本当ですか?」
美希はまだ疑っている・・・私のせいで2人の仲が険悪になっては申し訳ない。
「本当だよ美希ちゃん!誠治さんは悪くないんだって!!
私、兄弟に憧れてたからさ・・・だから、誠治さんを責めないであげてくれないかな?」
「・・・解りました。
今後、誤解される様な真似は控えて下さいね!
なんだか、本当に誠治さんと由紀子さんて似た者同士ですよね!
2人共すぐ悪ノリして、おかしな発言ばっかりするし・・・まるで本当の兄妹みたいですよ」
「あぁ、それは俺も思った!
特に最近の誠治さんは由紀子と似てるんだよなぁ・・・2人して癖があるって言うかなんと言うか、全力で馬鹿なことし出すからね・・・」
2人の怒りは治ったが、私と誠治さんはダメ出しをされて項垂れた。
はたから見れば確かに似た者同士なんだろう。
でも、私はそれが嬉しく思った・・・本当の兄妹と言う言葉に笑みが零れた。
私は美希と誠治さんにもう一度謝り、隆二と手を繋いで家路につく。
慶太は隆二に抱っこされてご満悦だ。
「隆二・・・私とあんたは、誠治さんにとって弟と妹なんだってさ。
なんだか嬉しくない?」
「お前・・・それは今更すぎだろ?
俺にとって誠治さんは、慶次と一緒で兄貴だよ!悠介だってそう思ってたしな!!」
そう思ってなかったのは私だけだったらしい・・・なんだか悔しいがまぁ良い。
だって、私は面と向かって妹と言って貰いたかったのだから。
誠治さんには悪い事をしてしまったが、また2人だけの時には呼ばせて貰おう・・・今度は嫌がられない様に気をつけよう。
私は兄と呼ばれて照れる誠治さんを想像し、少しだけ笑いが零れた。