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The End of The World 〜休日〜  作者: コロタン
15/15

第15話(おまけ) 指輪 ~???~

 「いやーん、美希ちゃん相変わらず可愛いすぎ!」

  

 今、私の前では誠治さんの奥さんである美希が日課の報告を行っている。

 私は毎日それを見ては美希の可愛さ、健気さに心を打たれて悶えている・・・私は可愛い子や子供、動物が大好きなのだ。

 もうね、何と言うか誠治さんが羨ましいのです・・・こんな可愛い奥さんと千枝、悠枝、夏菜枝の可愛い子供達に囲まれて暮らしているあの人が羨ましくてたまらない・・・一日で良いから変わって欲しい!


 「あの・・・ちょっと・・・毎回毎回五月蠅いんですけど・・・。

 せっかく美希が報告に来てくれてるんですから黙って聞いててくださいよ!!」


 私をジト目で睨んで注意してきたのは、今目の前で日課の報告をしている美希の兄である悠介だ。

 彼を一言で表すならシスコンだ・・・度を過ぎたシスコンと言っても良い。

 まぁ、あんなに可愛い妹が居たら私だって抑えきれなくなりそうだから、あまり人のことは言えないけどね・・・。


 「ほんと、誠治さんから聞いてた印象とはかけ離れてますよね・・・」


 「あら、誰の事かしら・・・?」


 悠介は私をジト目で睨んでくる・・・いやーん、怖ーい!


 「誰って貴女の事ですよ夏帆さん!」


 悠介が言っていたのは私の事らしい・・・私の名前は中谷 夏帆、何を隠そう既に鬼籍に入っている・・・。

 私が死んだのは今から約2年前、当時お付き合いしていた井沢 誠治さんと会うため、駅で待ち合わせをしていた時に騒動に巻き込まれ、彼の目の前で命を落とした・・・。

 私はまだ28歳だった・・・世間一般では結婚していてもおかしくない年齢ではあったが、小学校から大学までずっと女子校育ちで男性への免疫がない私は、誠治さんが初めての彼氏だった。

 私がそれまで誰ともお付き合いしたことが無かったのは、誠治さんと出会うためだったんじゃないかなと思う・・・まぁ、私の勝手な思い込みだけどね・・・。


 「あのね悠介君・・・女の人っていうのは2つの顔を持っているものなのよ・・・。

 それが、私にとっては可愛いものに目が無いってだけの事なの・・・OK?」


 「OK?じゃないですって・・・毎日毎日俺と美希の時間を邪魔するのやめてくださいよ・・・」


 悠介は私の方を見もせずにため息交じりに言ってきた・・・なんと失礼な男だろうか!


 「可愛い物を愛でるのは人としての性・・・美希ちゃんも千枝ちゃんも悠枝君も夏菜枝ちゃんも皆可愛い!これが愛でずにいられるもんですか!!」


 私は『ドヤァ』って感じで胸を張ったが、今度は鼻で笑われた・・・そろそろ泣きそう・・・。


 「美希達が可愛いのは知ってるんですよ・・・ですから、その可愛い妹との時間を邪魔しないで貰えると助かるんですよ!」


 悠介に怒られた・・・。


 「悠介君のシスコン!いいわよ・・・ちょっと出かけてくる!あとで誠治さんに言いつけてやるんだから!!」


 「シスコン言うな!どうやって誠治さんに言いつけるっていうんですか!?」


 「そんなもの、宇宙の言葉よ!」


 「はぁ・・・?」


 私の言葉に、悠介が首を傾げた・・・。


 「テレパシーよ!」


 「ちょいちょい古いネタぶっこんでくんのやめろよ!反応に困るわ!」


 「うぅ・・・悠介君のアホーーーー!!」


 私はそのまま誠治さんの家を飛び出した・・・。






 「さて、まずは何処に行こうかしら・・・」


 私は、誠治さんの家を飛び出して早々悩んでいた・・・勢いで飛び出したせいで、どこに行こうか決めていなかったのだ・・・。


 「うーん・・・あ、そうだ!さっきお義母さんが悠枝君と夏菜枝ちゃんを迎えに来てたから、誠治さんの実家に行ってみよう!」


 私はさっきまでの苛立ちは吹き飛び、鼻歌交じりに誠治さんの実家に向かった。


 「さて、悠枝君と夏菜枝ちゃんはいるかなぁ・・・あ、いた!慶太君も一緒だ!やーん可愛いー!!」


 私は誠治さんの実家にお邪魔するなり、可愛い3人組の赤ちゃんを見つけて畳の上で身悶えた・・・はしたなすぎて人には見せられない・・・。


 「あの・・・夏帆さん・・・」


 私の名前を呼ぶ人が居る・・・お義母さんたちには見えないはずだから、見えるとすれば私や悠介と同じ鬼籍に入った存在だ。

 私が声のした方を振り向くと、そこには慶次がいた・・・なぜかそっぽを向いている。


 「あら慶次君・・・貴方も慶太君を見に来てたの?」


 「あぁ、そうなんだが・・・すまないが、座って貰えると助かる・・・」


 「どうして?」


 「その・・・下着が見えているんだ・・・」


 おっといけない!お父さん以外では、誠治さんにしか見せたことが無いのに・・・。


 「これはなんというか・・・お見苦しいところをお見せしました・・・」


 「いや、わかって貰えたなら良い・・・これからは気を付けてくれ

 それより、夏帆さんがこっちに来るのは珍しいな・・・何かあったのか?」


 私が頭を下げると、慶次は苦笑して頷いた。

 慶次は、今私達の前にいる慶太の伯父で、慶太の父である隆二の兄だ。

 慶次は悠介同様、家族を守って亡くなった・・・。

 彼もまた、弟思いの良いお兄さんだ。


 「いやぁ、それがね・・・悠介君と揉めちゃってね・・・プチ家出中です。

 それより、慶次君は毎日見に来てるの?」


 「あぁ、隆二と由紀子は二人とも仕事だしな・・・誠治さんのお母さんが見てくれているから心配はないんだが、やはり気になってしまってな・・・。

 まぁ、悠介は妹大好きではあるが、人の事もちゃんと考えられる奴だ・・・今頃後悔しているだろうし、早めに帰ってやれば良い」


 そう言った慶次は、慶太を優しく見守っている。


 「あはは、了解です!

 あのさ・・・慶次君はやっぱり寂しい?慶太君を抱っこしたり、渚ちゃんと結婚したかったって思う?」


 私が尋ねると、慶次は上を向いて思案し始めた。


 「寂しくないといえば嘘になるな・・・やはり甥っ子を直接可愛がってやれないのは寂しいし、渚の事は今でも好きだ・・・。

 だが、それをどうこう言うつもりはないよ・・・俺は、守るべき家族を守り、信頼できる人に託すことが出来たからな。

 渚に関しても、瀧本さんは良い人だし、渚を任せられる人だと思っている・・・彼と一緒なら、渚も幸せになってくれるだろうと思っている。

 だから、俺は満足していると言っても良い・・・」


 慶次はそう言って私に向かって笑った。

 彼は、どことなく誠治さんに面影が似ている。

 私は少し見惚れてしまいそうになった・・・誠治さん一筋のはずなのに・・・。


 「そっか・・・慶次君は大人だなぁ・・・」


 「そうか?自分ではまだまだだと思っているんだが・・・」


 慶次は首を傾げる・・・真面目な男だなと思った。


 「さてと、可愛い子達を見て元気を貰えたし、次は何処に行こっかな・・・」


 「まだ何処か行くのか・・・」


 「そりゃあ久しぶりの外出ですしお散歩しますよ。

 まぁ、あまり遅くならないようにするね!」


 私は慶次に手を振って誠治さんの実家を後にした。







 「おっ、居た居た・・・今は丁度休憩時間みたいね!」


 誠治さんの実家を出て、私が次に向かったのは誠治さんのお父さんの畑だ。

 誠治さんのお父さんは、この辺では結構な地主さんらしく、いくつかの土地と畑、田んぼを所有している。

 前は畑も田んぼも誠治さんのご両親で見れる範囲だけにしていたけど、今は本州から避難してきた人たちに余っている土地や畑、田んぼを無償で貸し与えている。

 ただ、貸したままにするのではなく、農業未経験者の人たちに指導したりして、少しでも早く農業生活に慣れてもらおうと色々と忙しそうにしている。

 今は休憩時間で、美希、渚、由紀子の三人に囲まれながらお茶を飲んでいるようだ。


 「ふぅ・・・やっぱり日本人は緑茶ですよねぇー!」


 お茶請けのお菓子を食べた由紀子は、緑茶を飲んで一息ついた。

 私も食べたい・・・まぁ、お腹は減らないんだけどね。


 「まぁ、それには同意するが・・・お前はお菓子を食べ過ぎだ!皆の分が無くなるだろうが!」


 「まぁまぁ渚ちゃん、由紀子ちゃんがよく食べるのはいつもの事じゃないか」


 「由紀子さん、太りますよ?」


 「皆酷い・・・」


 由紀子は、渚達から散々に言われて落ち込んでいる。


 「井沢さん、休憩中にすみません・・・少しよろしいですか?」


 「あぁ、どうしました?何か聞きたいことでもありましたか?」


 誠治さんのお父さんは、一人の男性に話しかけられて席を立った。


 「えぇ、少しアドバイスを頂けないかと思いまして・・・」


 その男性は、井沢家から畑を借りている避難してきた人たちの一人だ。


 「えぇ構いませんよ・・・美希ちゃん達はもう少しゆっくりしてなさい。

 私はちょっと彼の所に行ってくるよ」


 そう言った誠治さんのお父さんは、美希ちゃん達に手を振って男性と歩いて行った。


 「お義父さんは毎日毎日忙しいよね・・・ほんと誠治さんそっくりだよね!」


 「それは言えてるな!」


 「お義父さんが倒れないか心配です・・・」


 美希達は歩いている誠治さんのお父さんを見て苦笑している。

 まぁ、それに関しては私も同じ意見だ・・・私がまだ生きてるときにお邪魔した時も、何かと動き回って殆ど休んでいない感じだった。

 本当に倒れてしまわないか心配だ・・・お義父さんにはまだこっちに来てほしくはない。


 「あ、美希ちゃんおしぼりちょうだい!」


 「はい、ちょっと待ってくださいね・・・」


 由紀子に頼まれた美希はかがんでテーブルの下の手提げからおしぼりを取る。


 「おぉ・・・渚さん、美希ちゃんの胸って凶器ですよね・・・」


 「お前は何を見ているんだ・・・」


 由紀子はかがんだ美希の胸元を見て腕を組んだ。


 「ちょっと、見ないでくださいよ由紀子さん!」


 美希はほっぺたを膨らまして抗議している・・・やーん可愛いー!!

 おっといけない・・・涎が垂れそうだ・・・。


 「美希ちゃん・・・今バストは何cmくらいなのかな?お姉さんに教えてごらん?」


 「言いませんよ!」


 由紀子からエロい視線を向けられた美希は、胸を守るようにして手で隠した。


 「・・・渚さん、何cmですか?」


 「ん?私は確か85だったが・・・何なんだいったい・・・」


 「ふむ・・・私は84です」


 由紀子は渚のバストサイズを聞いてから、自分のサイズを告白した・・・二人とも私より大きい・・・。


 「さて美希ちゃん・・・私たちは言いましたぞ!これは言う流れではないですかね!?

 やっば・・・なにこれ!めっちゃくちゃ柔らかいんですけど!?」


 由紀子は美希の後ろに回って胸をまさぐっている・・・。

 私も触りたい・・・あやかりたい!


 「ちゃっと・・・やめてください!くすぐったいですって!!」


 美希は笑いながら身悶えている・・・。

 

 「わかりましたよ・・・今はまだ母乳も出ますし、張ってるので正確なのは分かりませんけど・・・悠枝と夏菜枝を産む前は96です・・・」


 「おぉ・・・乳神様だ・・・渚さん、乳神様がおられますぞ!!!」


 「なんともまぁ・・・大きいとは思っていたが、それほどとはな・・・」


 美希が観念して自白すると、由紀子のテンションはMAXになり、渚は呆れたように美希を見ている。

 美希は恥ずかしそうに俯いている・・・尊い・・・。

 でも・・・96かぁ・・・私より20cm近く大きいじゃん!

 私は持たざる者・・・平たい胸の一族だったのね・・・。


 「痩せてるのに胸が大きくて身長は私より小さい、そして何より可愛い・・・なにこれ不公平じゃね?

 天は二物を与えずってのは嘘なのかい!?」


 「お前は何を言ってるんだ・・・美希さんが困ってるだろう?」


 由紀子の叫びを、渚が呆れたように見ている。

 くそう・・・皆良いなぁ・・・私は細いからトップとアンダーの差はあるけど、それでもやっぱり80行ってないのは凹むわぁ・・・。

 あ、なんか頭の中でタンクトップにホットパンツ履いた中国系アメリカ人の女の人が「あれを見るな夏帆!傷になる!」って叫んでるわ・・・。


 「だって・・・私だって小さくはないはずなんですよ?渚さんだってそうでしょう!?

 でも、美希ちゃんは私達よりも遥か先を行ってるんですよ・・・ぐやじい!!」


 由紀子は涙目だ・・・泣きたいのは私の方なんだけどね・・・。

 目の前にあるたわわに実った6つの果実を食べたら、私も大きくなるのかな・・・。

 いかんいかん・・・このままでは、私はフォースの暗黒面に堕ちそうだ・・・。

 私は冷や汗を拭い、急いでその場を離脱した・・・せっかく美希を見て癒されようと思ったのに、逆に心に傷を負ってしまった・・・。







 「さて、お次は千枝ちゃんと貴宏くんですな・・・さっきは精神的にヤヴァイ状況になってしまったし、今度こそ癒されよう・・・」


 私は畑から離脱した後、さらなる癒しを求めて小学校にやって来た。

 千枝と貴宏の通っている小学校だ。

 千枝達の教室に行く途中、由紀子の夫である隆二の姿を見かけたが、結構真面目にやっているみたいで感心した。


 「さてと、千枝ちゃんと貴宏君は・・・あ、いた!」


 私は、5年生になって教室が変わってしまった千枝と貴宏を探し出し、後ろ側の扉から中に入った。

 まぁ、すり抜けるし見えるわけじゃないから前からでもよかったのだが・・・。


 「はぁ・・・やっぱり千枝ちゃんの寝顔は癒されるわぁ・・・」


 私が教室に入ると、千枝は授業中にも関わらず深い眠りに落ちていた・・・千枝の隣の席の貴宏は、いつ先生にバレるかハラハラしながら千枝を起こそうと必死になっている。


 「貴宏君もしっかり者で可愛いなぁ・・・はぁ、他の子どもたちも可愛くて癒しの空間!

 いっそのこと、ここの住もうかしら・・・」


 「いやいや、それはどうなんだ・・・?」


 私は、声した方を振り向いた。

 そこに居たのは、誠治さんの大学時代の先輩で、貴宏の実父である貴之だった。

 貴之も、私や悠介、慶次同様鬼籍に入っている。

 彼は、世界の変わったあの日に奥さんを亡くし、貴宏を守りながら非難した集落で、男で一つで息子を育てていた・・・。

 貴之達のいた集落に偶然救助にやって来た誠治さんと共に皆の為に行動し、そして最後は愛する息子を守って死んでしまったと聞いている・・・。


 「あ、お久しぶりです貴之さん・・・あなたも貴宏君を見に来たんですか?」


 「あぁ、俺はだいたい週に1回くらいのペースで見に来ているよ・・・それより、夏帆さんがこっちに来るのは珍しいな?俺の居ない日に来てたのか?」


 私が貴之のいる教室の後ろに歩いて行くと、彼は少し横にずれて場所を開けてくれた。


 「いやぁ、悠介君とひと悶着ありまして・・・色々と回って時間を潰してたところなんです・・・」


 「ははは・・・君はあれだよな・・・井沢から聞いていた印象とは違うよな」


 「それ、悠介君と慶次君にも言われるんですよね・・・」


 私が肩を落として答えると、貴之は苦笑していた。


 「まぁ、別に井沢が見てるわけでもないんだし良いんじゃないか?

 俺としては、井沢に聞いていた印象よりも、今の気さくな君の方が話しやすいよ・・・」


 「うーん・・・別に誠治さんと付き合ってた時に猫被ってたとかでは無いんですけどね・・・こっちもこっちで私の素の性格でもありますから・・・」


 「まぁ、別に気にする必要はないよ。

 いちいち人の反応を見て性格を使い分けるより、今のまま素の自分を出していた方が気が楽だし、何より自然だからね」


 「おぉ・・・流石は誠治さんの先輩さん・・・良い事言いますね!」


 「そいつはどうも・・・だが、俺なんかよりも井沢の方がよっぽど立派だよ」


 貴之は少し悲しそうな顔をした・・・。


 「どうしてですか?」


 私が問いかけると、貴之は少し考え込んだ。


 「あいつは失敗もするが、なによりそれを放置せずに次につなげようとする・・・そして、例え失敗したとしても必ず自分が生きる事を諦めない。

 全てが家族のため・・・そして他の皆のためだ・・・。

 自分を犠牲にしているようにも見えるが、あいつは自分に出来る事、出来ない事を判断し、例え自分一人では無理な事態になったとしても、必ず生き残るための工夫を怠らない。

 井沢は、何が何でも必ず家族のもとに帰ろうとするんだ・・・。

 俺にはそれが出来なかった・・・貴宏を守るためと言ったら聞こえはいいが、結局俺が死んであいつを悲しませてしまった・・・一人にしてしまったんだ」


 貴之の表情は辛そうだ・・・。


 「やっぱり後悔してますか・・・?」


 私は遠慮がちに聞いてみた。


 「後悔か・・・少し前まではしていたよ。

 でも、貴宏が瀧本夫妻に引き取られ、そしてこうやって笑うようになってくれたのを見てからは、あまり悔やむことは無くなった。

 あいつが今幸せならそれでいいと思っているよ・・・」


 貴之は、愛する息子を優しい目で眺めている。

 私が貴宏の方を見ると、居眠りしている千枝が先生に見つかり、貴宏は慌てていた・・・。

 恐らく、千枝は家で美希にお叱りを受けることになるだろう・・・。


 「それにしても、井沢の娘・・・千枝ちゃんは本当に見ていて飽きないな・・・あんなに慌てている貴宏を見れるのはあの子のおかげだな。

 昔は、俺は仕事ばかりであまり家族と一緒に過ごすことが出来なかったが、こんな風になって初めてゆっくりと息子を見てやれるなんてな・・・皮肉なものだ」


 貴之は少し寂しそうに笑っていたが、怒られる千枝をフォローしている貴宏を見て可笑しそうに笑った。

 

 「夏帆さんはそろそろ戻ったらどうだ?悠介君も心配してるんじゃないか?」


 「あはは、そうですね・・・私も勢いで飛び出してきちゃっただけですし、可愛いものをたくさん見れて元気が出てきたのでそろそろ帰ります!

 またお話ししましょうね、貴之さん!」


 私は、貴之に頭を下げて教室を出た。

 まぁ、もうそろそろ夕方になるし暗くなる前に帰ろうとは思っていたので、丁度良かった。

 私は、今日あった出来事を思い出しながら誠治さんの家に向かった。






 私が誠治さんの家の近くまで着くと、家の前に悠介が立っているのが見えた。


 「あ、夏帆さん!何処に行ってたんすか!?」


 「ごめん、ちょっといろんなところ回ってた・・・悠介君、今日はごめんね・・・」


 「いや、俺の方こそすみませんでした・・・意地になっちゃってキツイ言い方してしまって・・・」

 

 私が頭を下げると、悠介は慌てたように言ってくれた。

 慶次も言っていたが、悠介は妹大好きだし、おっちょこちょいではあるけど、他の人の事も考えられる優しい男性だ。


 「じゃあお互い様って事で良いかな・・・?」


 「はい、是非お願いします!

 あれ・・・夏帆さんのネックレスに付いてるのって、美希が夏帆さんにって言って作った結婚指輪じゃないですか?」


 私が頭を下げた時に服の襟から滑り落ちてきたのだろう・・・今は私の胸元に結婚指輪の通されたネックレスが輝いている。


 「うん・・・」


 「そういえば、普段からつけてないですよね・・・どうしてですか?」


 私は悠介の質問に口ごもった・・・私は、折角貰った指輪を付けるのを躊躇っていたのだ。

 

 「まさか、美希に気を使ってますか・・・?」


 悠介の言う通り、私は美希に気を使っていた・・・結婚指輪は、やはり結婚した者同士・・・夫婦でないと付けてはいけない・・・そんな風に感じていたのだ。


 「だって・・・誠治さんの奥さんは美希ちゃんじゃない?それなのに、私が付けるのは厚かましいと言うか何と言うか・・・」


 「そんな事ありません・・・そんな事ある訳ないでしょう!何のために美希がその指輪を夏帆さんに贈ったと思ってるんですか!?

 付けてほしくない人の為に、そんな大切な物をわざわざ贈ると思ってるんですか!?」


 私は言い返す事が出来なかった・・・彼の言っている通りだとは思う。

 わざわざ私の為に用意してくれたのだ・・・私が付けることが前提でなければそんな事はしないだろう。

 でも、だからと言って軽々しく付けるのもどうかと思ってしまう・・・。


 「夏帆さん・・・確かに美希は誠治さん誠治さんって言って、あの人を愛してますよ・・・。

 でも、それと同じくらい夏帆さんの事も考えてるんですよ!

 夏帆さんも美希の事を思うなら、是非付けてやってくださいよ・・・その方があいつも喜びますから」


 悠介は、そう言って私に促す・・・。

 私はネックレスから指輪と抜き取り、恐る恐る右手の薬指に通した。

 すると、頭の中に聞きなれた声が響いた・・・誠治さんの声だ。

 この指輪の記憶だろうか・・・脳裏に誠治さんと美希の姿が映し出される。


 『美希、結婚指輪のデザイン決まった?』


 『はい!えっと・・・これなんですけど、ちょっとお願いがあるんです・・・』


 美希は誠治さんに遠慮がちに聞いた・・・。


 『あぁ、何でも言ってくれ!記念になるものだし、妥協はしたくないからね!』


 『あのですね・・・この指輪って宝石が3つ入れられるじゃないですか・・・これを全部別々のに出来ないかなって思いまして・・・』


 『可能だとは思うけど・・・なんで別々なんだ?』


 誠治さんが問いかけると、美希は恥ずかしそうに俯いた。


 『えっとですね・・・誠治さん、私、夏帆さんの誕生石を入れたいんですけど駄目ですか・・・?』


 それを聞いた誠治さんは驚きの表情で美希を見ている・・・。

 

 『良いのか・・・?』


 『はい・・・それと私たちの物とは別に、夏帆さんのも造ってあげられませんか?

 誠治さんは、夏帆さんに婚約指輪は贈ったんですよね?なら、結婚指輪も贈ってあげたらどうかなって思いまして・・・夏帆さんも喜んでくれるんじゃないかって思うんです』


 誠治さんは、美希の言葉を聞いて泣きそうな顔になった・・・。


 『美希・・・夏帆の事まで考えてくれてありがとう・・・。

 わかった・・・君の言う通りにするよ・・・』


 『ありがとうございます!石の並びはどうしよっかなぁ・・・誠治さん、何かいいアイデアありますか?』


 『そうだな・・・』


 2人はカタログを見ながらああでもないこうでもないと楽しそうに話し始めた・・・そして、そこで映像は消えてしまった・・・。

 意識が戻ると、私は涙を流していた・・・私は無理やり涙を拭った。


 「夏帆さんの霊圧が・・・消えた!?」


 「失礼な事言わないでよ!まだ目の前にいるでしょう!!?」


 悠介は優しい笑顔を浮かべながら私を見ている。


 「付けてみた感想はどうですか?」


 「そんなの、嬉しいに決まってるじゃない!」


 「そうですか、なら良かったじゃないですか・・・」


 悠介はまだ笑顔で私を見ている・・・私は、泣いてしまったせいで少し気恥しい・・・。


 「何かお返し出来たら良いんだけどね・・・お礼言いたいな・・・」


 「なら、夢枕にでも立ってみたらどうですか?」


 「おぉ・・・それは良いアイデアね!じゃあ、今夜早速試してみましょう!」


 私は、美希に何と伝えようか悩みながら家の中に戻った。







 「さて、行ってきましょうかね・・・」


 今の時間は明け方5時・・・今から美希にお礼を言いに行くところだ。

 本当は、もっと早く行きたかったんですよ・・・でもね、やっぱり夫婦で夜にってなると色々とあるでしょう?

 アレの真っ最中だったら嫌じゃないですか・・・。

 まぁ、美希はまた妊娠したらしいし、しばらくはそう言った行為は無いとは思いつつも自重したのだ。


 「頑張ってきてください!」


 仏間から出ようとする私を、悠介が励ます。

 私は笑顔で手を振って部屋を出た。


 「おはようございまーす・・・」


 私は、昔テレビで見た早朝バズーカの真似をしながら誠治さんと美希の寝室に忍び込んだ。

 誠治さんは、1時間ほど前に起きて早朝ランニングに出かけた。


 「美希ちゃん、ちょっとごめんね・・・」


 私は、ベッドの上で気持ちよさそうに寝ている美希の額に手を当てた。

 美希が違和感を感じたのか、寝返りを打つ・・・。


 『美希ちゃん・・・』


 私は頭の中で美希に話しかける。


 『美希ちゃん、指輪ありがとう・・・私の為に選んでくれたんでしょう?

 あなたとは直接会ったことはなかったけれど、それなのに私にまでこんな素敵な贈り物をくれてとても嬉しかったわ・・・。 

 私は誠治さんの事が好きよ・・・でもね、貴女の事も同じくらい大好き。

 貴女は、誠治さんと幸せになってね・・・それが私の願い・・・。

 この指輪のお礼になるかは分からないけど、ずっとあなた達の事を見守っているわ』


 私は美希の額から手を離し、部屋の扉に向かって歩きだした。

 すると、ベッドで美希が勢いよく飛び起きた。


 「え・・・あれって夏帆さん?結婚指輪してくれてた・・・!?

 夢とは言っても、喜んでくれてて良かった・・・キャッ!?」


 美希はベッドの淵に手をかけると、そのまま踏み外してベッドから落ちてしまった・・・。

 ドジなところも可愛い・・・。


 「あはは・・・大丈夫?」

 

 私は聞こえていないのは分かっていたけど、美希に声をかけた。

 彼女からの反応は無い。


 「痛いなぁ・・・はぁ、折角良い夢見れたのに・・・」


 美希は腰をさすりながらベッドの上に這い上がった。

 すると、廊下を走る音が聞こえ来た・・・そして、寝室のドアが勢いよく開いた。


 「美希、何かあったのか!?」


 誠治さんが慌てた表情で入って来た・・・。

 扉をくぐるため、頭をかがめた誠治さんの顔が私の目の前に迫ってくる・・・。

 私は驚いた・・・だって、愛する人の顔が目の前にあったのだから。

 私はキスをしたかった・・・でも、我慢してそのまま誠治さんをすり抜けた。


 「うおっ・・・美希、窓空いてる?なんか風が吹いたような気がしたんだけど・・・。

 それより大丈夫か?何があった?」


 誠治さんは身震いしながら美希に近づいて行く。

 やはり触れることは出来ない・・・衝動に駆られなくて良かった・・・。


 「ごめんなさい、ベッドから落ちてしまって・・・。

 あ!えっとですね、さっき夢の中に夏帆さんが出てきてくれました・・・それが嬉しくて飛び起きたんですけど、その拍子に落ちてしまって・・・」


 「そっか・・・あまり心配させないでくれよ?まぁ、俺の言えるセリフじゃないんだけどさ・・・。

 夏帆はどうだった?何か言ってたかい?」


 誠治さんは笑いながら美希の隣に腰掛ける。


 「私たちの贈った結婚指輪を付けてくれてました・・・ありがとうって・・・とても嬉しかったって言ってました・・・」


 美希は涙を流して微笑んでいる・・・優しく綺麗な笑顔だ。


 「そっか、良かったな・・・それにしても、指輪付けたんなら俺にも見せてくれれば良いのになぁ・・・」


 誠治さんは残念そうに笑いながら美希を抱きしめている。


 「あら、それは無理な相談ね!この指輪は美希ちゃんが提案して贈ってくれたのよ・・・私がこの指輪を付けてる姿を見れるのは、美希ちゃんだけ・・・。

 どうしても誠治さんが見たいっていうのなら、いずれこっちに来た時に、見飽きたって言うまで見せてあげるわ!

 だから、それまで我慢しててね・・・私もずっと我慢するから・・・」


 私はそう言って2人の寝室を出た。

 私は、誠治さんにも見せたい気持ちをグッと堪えて仏間に戻った。

 もし見せてしまったら、私は後に引き返せない気がしたから・・・。


 「おかえりなさい、美希はどうでした?」


 私が仏間に戻ると、悠介が待っていてくれた。


 「すごく喜んでくれてたわ・・・涙を流して喜んでくれた。

 本当に美希ちゃんはお人好しで、優しくて、可愛い子よね・・・」


 「そりゃあ俺の自慢の妹ですからね!」


 悠介は胸を張っている。

 

 「本当に悠介君は重度のシスコンよね・・・」


 「シスコンって言うな!」


 悠介が叫ぶと、仏間のふすまが開いて千枝が現れた。


 「誰かいるのー?」


 まだ寝ぼけているのか、間延びした声で瞼を擦る姿がめちゃくちゃ可愛い・・・。

 まぁ、私たちの事は見えていないだろうから、すぐに出て行くだろうと思っていたが、千枝が仏壇を見て動かなくなった・・・私たちの方を見ている。


 「お・・・おおおお父さん、お母さん!お仏壇の前になんかいる!!」


 千枝が私達を見て叫んだ・・・どうやら見えていたようだ。


 「どうした千枝!?」


 千枝の叫びに、誠治さんと美希が素早く駆け付けた。


 「おトイレに起きてきたら、この部屋から声が聞こえて・・・中に入ってお仏壇を見たら、白っぽい人影が居たの・・・!!」


 千枝は不安と恐怖から誠治さんにしがみついている・・・なんか悪いことをしてしまった。

 気を抜いたら駄目だな・・・。


 「あぁ・・・そういえば、美希が夏帆の夢を見たって言ってたし、案外悠介あたりも俺達の様子を見に来たんじゃないか?」


 誠治さんは、千枝を安心させようと頭を撫でながら説明した。


 「え・・・お兄ちゃんいるの!?」


 千枝は不安そうな顔から一転嬉しそうにこっちを見た・・・。


 「ははは、千枝も元気で嬉しいよ・・・抱きしめてやれないのが悔しいけどさ・・・」


 「後悔はしてない?」


 私が聞くと、悠介は笑顔になった。


 「全然!・・・とは言えないけど、自分の力であいつら守れたし、誠治さんは約束守って、あいつらの事幸せにしてくれてますからね・・・満足してます!」


 悠介は笑顔で私を見た・・・満足・・・その言葉は慶次と貴之も言っていた。

 はたして、私は満足していたのだろうか・・・あの日、死ぬ間際私は誠治さんに幸せになって欲しいと思った。

 美希に誠治さんの事も託した・・・でも、私は満足していたと言えるのだろうか?

 今日も、何だかんだ美希や由紀子に嫉妬して、羨ましがっていた・・・。

 私は、自分が満足していなかったことに気が付いて恥ずかしくなった・・・悠介たちは悲しい別れを経験しても、死してなお満足したと胸を張っているのに、私はそれが出来なかった。

 でも、今は違う・・・満足できたと言っても良い。

 それは、美希から贈って貰った指輪を付けたからだろうか・・・?

 指輪を付けてから、何となく気持ちの整理がついた気がする。


 「あぁ、やっぱり千枝は可愛いなぁ・・・」


 悠介は千枝を見て優しく微笑む。


 「お兄ちゃん、本当にそこに居るの・・・?あっ・・・」


 千枝は、目に見えない悠介に語り掛けようとして止まった・・・そして、目に涙を浮かべて俯いた。


 「あらら・・・」


 「あ・・・」


 何かに気付いた誠治さんと美希が、いたたまれない目で千枝を見ている。

 私と悠介は、誠治さん達の視線の先を見て焦ってしまった・・・千枝が粗相をしてしまったのだ。


 「うぅ・・・お兄ちゃんの・・・お兄ちゃんのバカ!もう大っ嫌い!!」


 千枝はその場に泣き崩れた・・・悠介も真っ白くなって崩れ落ちた・・・。

 まぁ、千枝の気持ちも解らなくはない・・・だって、元々トイレに行こうと起きてきたのに、私たちのせいで足止めされてしまったのだから・・・。


 「千枝に大嫌いって言われた・・・死のう・・・」


 「悠介君、君も私も死んでるからね?」


 私は悠介の背中を軽くさすりながら励ました。

 だが、悠介の反応は無い。


 「誠治さん、これからお風呂入りますよね?良かったら千枝と一緒に入ってあげてください・・・私はここを片付けときますから」


 「あぁ・・・何か、悠介がとばっちりを受けた気がするけど・・・まぁ良いか、悠介だし。

 ほら千枝、一緒に風呂に入ろう!最近右手の感覚も掴めてきたし、頭を洗ってやるからおいで!」


 美希の提案を聞いて、誠治さんは千枝を抱き上げてお風呂場に向かった。

 悠介はまだ落ち込んでいる。


 「ほんと、賑やかな人達ね・・・」


 私は誠治さん達を呆れながら見送った。

 私は、自分の両手を見る・・・左手の薬指には誠治さんから貰った婚約指輪、右手の薬指には美希から貰った結婚指輪が輝いている・・・。

 私にとってこの2つの指輪は、誠治さんと美希との絆だ・・・2人とも死んでしまった私を思い、そして愛してくれている証だ。

 この指輪がある限り、私は2度と後悔しない・・・不安にな気持ちにならないと信じられる。

 だってこの2つの指輪には、私が生前得ることの出来なかった幸せが込められているのだから・・・。

 


 

 



 









 


 これで短編集のような物は終わりになります。

 最後までお付き合いいただいた方々には、感謝の言葉もございません・・・。

 本編の続きも今考えておりますので、また機会があれば読んでいただければ嬉しく思います。

 では最後になりますが、皆さまどうもありがとうございました。

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