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The End of The World 〜休日〜  作者: コロタン
13/15

第13話 おててつないで(前編) ~井沢 千枝~

 今回もまたもや前後編・・・なかなか話がまとまらず申しわけないです。

 「ちー姉!誠治君が差し入れ持ってきましたよー!可愛い千枝も一所だから早く開けてー!」


 私は今、お父さんと一緒に、ご近所に住んでる千歳さんの家にやって来た。

 うちでとれたお野菜とお米を分けてあげるためだ。

 千歳さんは、お父さんの年上の幼馴染で、お父さんのお友達と結婚して3人の男の子の母親だ。

 ご近所でお父さんの幼馴染と言うこともあって、よく私や貴宏お兄ちゃんの面倒を見てくれる優しい人だ。


 「なんだ誠治か・・・千歳はいまママさん連中と出かけてるぞ?」


 お父さんがインターホンを鳴らしてしばらく待っていると、お父さんよりも背の低い男の人が出てきた。

 まぁ、お父さんより背の高い人は、私が生まれてこのかた見たことないんだけど・・・。

 出てきた人はお父さんのお友達で、千歳さんの旦那さんの弘和ひろかずさんだ。


 「なんだとはなんだこの野郎・・・せっかくおすそ分けしようと思ったのに!千枝に謝れ!!」


 「久しぶりだね千枝ちゃん、いつもうちのチビ共の相手してくれて助かるよ・・・」


 「お久しぶりです!私も楽しいので気にしないでください!」


 私が笑顔で答えると、弘和さんは頭を撫でてくれた。


 「うーん・・・誠治の娘とは思えない素直さ・・・美希さんの教育の賜物か?」


 「それはある・・・だがな弘和、千枝は元々おりこうさんで可愛いぞ!やだ・・・私の娘可愛すぎ・・・!」


 お父さんはお米とお野菜を玄関におろして、左手で口を塞ぐ・・・正直恥ずかしい・・・。


 「まぁ、千枝ちゃんが可愛いのは認めるが、お前はウザいな・・・」


 「むっきー!!!貴様・・・言うに事欠いてウザイとか言うな!俺だって傷つくんだからな!ちー姉に言いつけるからな!!」


 「はいはい・・・こっちに帰ってきてからのお前のテンションには疲れるよ・・・。

 まぁ、そんなことよりいつもすまんな・・・お前のところにはいつも世話になってる」


 弘和さんはお父さんに頭を下げている。

 うちと弘和さんの家は、お互いに出来た野菜とかを分けたりしてるけど、量ではうちから分けてあげる方が多いのだ。

 それを気にしてるんだと思う・・・。


 「あぁ、良いってことよ!気にすんなよ・・・うちは何だかんだ俺の稼ぎで余裕はあるからな。

 俺もお前んところにはいつも助けてもらってるしお互い様だろ?」


 「そう言って貰えると助かるよ・・・。

 お前、最近どうなんだ?危険な任務は無いのか?」


 「そうだな、今のところはあんまりないけど、これから増えそうな感じだよ・・・」


 「そうか、お前が行ってる間の事は心配するな・・・俺達も出来るだけ力になれるようにはするからな・・・。

 そうだ、ちょっと待ってろ・・・今朝うちで採れたシイタケ持ってけよ。お前シイタケ好きだっただろ?」


 「あざーっす!シイタケはもう毎日でも食いたいわ!!」


 「じゃあちょっと待ってろ、今取ってくる・・・千枝ちゃんもちょっとだけ待っててな」


 「ありがとうございます!おじちゃんのシイタケ美味しいから大好きです!」


 「そうか、じゃあ沢山食べてくれ!」


 弘和さんは笑いながら奥に歩いて行った。


 「お父さん、あまり食べ過ぎないでね・・・お母さんまた拗ねちゃうよ?」


 「う・・・ですよねー・・・でも、俺のシイタケ好きは死んでも治らなそうなんだよね・・・」


 お父さんは、私に注意されて渋い顔をした・・・。

 以前、お父さんが弘和さんからシイタケを貰って来た時、お母さんの作ったお料理より美味しそうに食べてしまって、お母さんが拗ねたことがあるからだ・・・。

 私のお母さんの名前は美希、元々は私のお姉ちゃんで、お父さんと結婚した時に私を娘にしてくれた・・・私がまだ小さい時から優しくて、いつも私の事を心配し、愛してくれた人だ。

 お父さんとは歳が離れていてまだ22歳、お父さんが何かやってはよく拗ねている・・・でも、喧嘩は全くしたことが無い。

 基本お父さんが怒られて泣くか、お母さんが拗ねるくらいだ。

 娘の私から見ても、仲の良い理想の夫婦だと思う。


 「ほい、おまっとさん!」


 弘和さんが袋いっぱいのシイタケを持って戻って来た。


 「おぉ・・・こんなに良いのか?」


 「うちはあり過ぎて困ってるくらいだからな・・・チビ共は食わないし、お前が食ってくれて助かるよ!」


 「じゃあ遠慮なく・・・米足りなくなったら言えよ?うちは結構あるからさ!」


 「あぁ、その時は頼む・・・じゃあまたな!あまり無茶して美希さんと千枝ちゃん悲しませんじゃないぞ!」


 「了解!じゃあまたな!」


 「おう、千枝ちゃんもまた遊びにおいで!」


 「はい!ありがとうございました!」


 私とお父さんは弘和さんに手を振って一緒に家に向かって歩きだした。


 「いやぁ、思いがけず良いお返しを貰えた・・・これは腕が鳴りますぞ!」


 お父さんはシイタケを見てご満悦だ・・・お父さんは、シイタケと厚揚げが大好きだ。

 それはもう異常なほどに大好きだ・・・それらを網で焼いて、しょうが醤油をかけただけの物が好きらしく、それを見たお母さんが拗ねて、嫌がらせのために1週間連続でお父さんの夕食をそれだけにしたけど、文句ひとつ言わずに美味しそうに食べていた・・・流石のお母さんも呆れていたのが印象的だ。


 「もう・・・私はもうお父さんの味方はしないからね!」


 「おぉ・・・解ったよ千枝・・・怒んないでよ。

 あの時の事は、俺も反省してるのよ?」


 お父さんはそう言って肩を落とした。

 お父さんは今、左手にシイタケの入った袋を持っている・・・私はそっとお父さんの右手に触れた。

 でも、お父さんの反応は無い・・・それもそのはず、お父さんの右手は義手だ・・・。

 関東から脱出して四国に立ち寄った際、避難所の近くに奴等が現れて、その時一緒に行動していた自衛官の玉置さんを助けるために右手を噛まれ、自ら切り落としたのだ・・・。 

 その後、お父さんは死の淵をさまよったが、何とか意識を取り戻して、九州に帰ってきてから私を娘にしたいと言ってくれた・・・世界が変わったあの日から、ずっと私を気遣い、大切にしてくれた人。

 血は繋がっていなくても、私の事を愛してくれる優しいお父さん・・・。

 前はよく手をつないでくれた・・・でも、前とは違って最近はあまり手を繋げない・・・お父さんとお母さんの実子の悠枝や夏菜枝を抱いてるときや、今日みたいに荷物を持っているときは左手が塞がり、私と手を繋げない・・・それが寂しい・・・。


 「ん?どうかしたか?」


 私が黙っていると、お父さんが私の方を振り向いた。

 私は手を素早く引っ込めた・・・バレなかったかちょっと心配だ。

 私は、お父さんとお母さんを困らせたくない・・・だって、本当に私の事を愛してくれるから。

 手を繋ぎたいって言ったら困らせてしまいそうで、悲しい顔をさせてしまいそうで嫌だったのだ。

 

 「何でもないよ・・・そういえば、今日は酒井さんが来るんだよね?

 もしかしてお仕事の話・・・?」


 「いや、なんか俺に見せたいものがあるんだってさ・・・」


 お父さんは首を傾げている・・・良かった、バレてなかったみたい。

 お父さんは、自衛隊の人達と一緒に危険な仕事に就くことが多い・・・お父さんは必ず帰ってくると約束してくれるし、私やお母さんとの約束は必ず守ってくれる。

 でも、やっぱり心配で、不安で仕方がない・・・もう、家族を失うのは嫌だ。

 私は、実の両親と実の姉、育ての母、義理の兄・・・もうすぐ10歳になるけど、すでに家族を5人亡くしてる。

 実の母と実姉の時はまだ私が小さくて死と言うものが理解出来なかった・・・理解したのは実の父が亡くなった時、大切な人達にもう会えないと理解してしまった・・・。

 私は、今のお父さんが大好きだ・・・もう二度と、私は大好きな人達と悲しい別れをしたくない。

 お父さんのやってる仕事は、まだ生きているであろう人達のためだ・・・それは凄いことだし、自ら進んで人の為に頑張ってる姿はカッコいいと思う・・・。

 でも、私としては一緒にいて欲しいし、危険な目にあってほしくない・・・ただ、それが言えないでいる。

 私の我が儘だと解ってるから・・・。


 「あれ・・・聞いてた時間より早いな・・・」


 私が物思いにふけってると、すでに家の前についていたらしく、車庫に自衛隊の車が停まっているのが見えた。


 「今日は酒井さんだけなの?まさかまた櫻木さんも?」


 「千枝・・・またって言ってやるな・・・。

 確かに櫻木さんはよく遊びに来るけど、いつも遊んでくれるだろ?」


 お父さんは呆れたように笑って私を見た。

 櫻木さんは、お父さんと仲の良い自衛官だ・・・それはもう月に2~4回は必ず遊びに来る。

 休みのたびに来ては、私や弟たちの相手をしてくれる面白い人だが、来る頻度が凄い・・・。

 彼女とかいないのかなとちょっと心配になる・・・玉置さんとは言い争っていても仲が良さそうだし、結婚すれば良いのにと思ってしまう。


 「たまには玉置さんも遊びにくれば良いのにね・・・。

 お父さんが仕事の時には来てくれるけど、休みの時にはあまり来てくれないんだよね・・・」


 「まぁ、彼女なりに気を使ってるんじゃないか?

 彼女は真面目だし、玉置さんがが来るって事は、俺が仕事に行くってことだからね・・・。

 今度お願いしてみればいいよ。

 千枝のお願いなら、二つ返事でOKするよ・・・玉置さんも千枝の事好きだしね!」


 そう言ってお父さんは足で器用に玄関を開ける・・・ちょっと行儀が悪いけど、左手が塞がってるから仕方がない。

 

 「ただいまー!大量にシイタケ貰って来たー!」


 お父さんは玄関を開けるなり家の中に向かって大きな声で言った。


 「おかえりなさい誠治さん、千枝・・・」


 お母さんが出迎えてくれたけど、シイタケの袋を見てうんざりしたような表情になった・・・。


 「ただいまお母さん、一応お父さんには注意しといたからね!」


 「ありがとう千枝・・・たぶん、誠治さんは懲りてないと思うからあまり意味無いかもしれないよ」


 「おいおい・・・なんか酷くない?

 てか、酒井さんもう来てたんだね・・・結構待たせちゃった?」


 お父さんは、私とお母さんの言葉を聞いて苦笑いしながら靴を脱いだ。


 「10分くらい前かな?今は悠枝と夏菜枝と遊んでくれてます!

 今日は櫻木さんじゃなくて玉置さんが一緒でしたよ」


 「え、玉置さん来てくれたの!?」


 私は急いで靴を脱いでリビングに向かった・・・。

 あ、靴を直し忘れてしまった・・・あとでお母さんに怒られるんだろうな・・・。


 「やぁ千枝ちゃんおかえり、お邪魔してるよ」


 「千枝ちゃんこんにちは、運動会の時以来ね!」


 私がリビングに入ると、酒井さんと玉置さんは悠枝と夏菜枝をあやしていた。

 櫻木さんをはじめ、うちに来る自衛官の人たちは皆私や弟たちを可愛がってくれる。

 優しくて、お父さんを助けてくれる頼もしい人たちだ。


 「待たせちゃったみたいですみません、玉置さんが酒井さんと来るって珍しいね?それで、今日はどうしました?」


 お父さんとお母さんがリビング入ってきて挨拶をすると、酒井さん達は頭を下げた。


 「予定より早くついてしまったのは我々の方だよ・・・子供達を見せてもらったが、この前より大きくなったんじゃないかね?

 今日は櫻木君は鬼塚君の実践訓練の補助に行ってるよ・・・櫻木君の代わりに玉置君が私を送ってくれることになったんだ。

 そう言えば、鬼塚君はなかなか調子が良いみたいだよ・・・」


 「育ち盛りですからね!いずれは俺くらい大きくなりますよ!!

 まぁ、鬼塚なら上手くやりますよ・・・あいつは経験さえ積めば俺よりも強くなると思いますからね」


 酒井さんの言葉にお父さんが胸を張ってる・・・悠枝は良いけど、夏菜枝は可愛く育って欲しいな・・・。

 鬼塚さんと言うのはお父さんの同僚で、今度からお父さんと同じ仕事をすることになったらしい。

 お父さんはつい最近までそのことで凄く悩んでいた・・・。


 「冷めてしまいましたし、もう一度お茶をご用意しますね!」


 お母さんは台所に向かってお茶の準備を始めた。


 「いやぁ、申し訳ないね美希さん・・・」


 「立ち話もなんですから、掛けてください・・・。

 それで、今日は俺に見せたいものがあるんでしたよね?」


 お父さんが改めて尋ねると、ソファーに腰掛けた玉置さんがアタッシュケースを取り出してテーブルの上に置いた・・・何だろう?


 「これなんだけどね・・・君さえ良ければどうかなと思って持ってきたんだ」


 そう言って酒井さんがアタッシュケースを開くと、中には人間の右手が入っていた・・・正直かなり不気味だ・・・。


 「やだ怖い・・・」


 お父さんも顔が引き攣っている・・・。


 「ははは、まぁそう言わずに手に取ってみてくれ・・・これは、最近完成したばかりの義手なんだ」


 酒井さんが笑いながらアタッシュケースを差し出すと、お父さんは義手を手に取った。


 「これ、質感と言いかなりリアルな造りですね・・・指とかも動くし」


 お父さんは感心したように酒井さんが持ってきた義手を見ている。

 

 「誠治君は、節電義手と言うのを知っているかね?」


 「あぁ、知ってますよ・・・でも、あれはここまで精巧な造りじゃないですよね?

 それに、あれは腕に着ける時は節電位を測定するセンサーが必要だった気がしますが、これには手首だけで接続する部位も無いですね」


 「流石博識だね!その通り、これはセンサーを使わない節電義手なんだよ。

 しかも今までの物とは違い、動きもスムーズで本物の手と変わらない動きが出来るんだ」


 お父さんの答えを聞いて、酒井さんは笑顔で頷くと、義手についての説明を始めた。


 「でも、これどうやって使うんです?節電義手は結構必要な物とか多かったですよね?バッテリーとか固定するパーツとか・・・」


 「この義手・・・今回持ってきた手首の場合、手術によって腕に直接接続するんだ。

 今までの節電義手では、学習機能を持つ人工知能をよって、装着する人の動作と節電位の関係性を全て記憶させておくことが必要だった。

 その人工知能が、センサーから節電位を測定して掴むなどの動きを可能にしていた・・・ただ、記憶させる動きは大人で15種類ほどだったらしい。

 今回の義手は、節電位を測定するセンサーの代わりに脳にチップを埋め込み、そこから義手内部の人工知能に指示を出せるようにしているそうだ。

 さらに手術によって骨や神経、筋肉を義手に接続することで、接続部位の強度の向上を実現し、動きをよりリアルに義手に反映させ、掴んだ感触なども得ることが可能らしい・・・。

 バッテリーに関しては、義手内部に指を動かすための小型のモーターの他に、もう一つ中型のモーターを設置することによって、小型のモーターで指を動かす力を利用して中型のモーターを回し、その力を電力として蓄えられるようにしてあるそうだよ。

 そのため、今までは市販のUSBバッテリーで2日ほどしか持たなかったものが、最低でも1週間は連続稼働可能らしい。

 もし充電切れを起こした場合でも、義手との接続部分からUSBコードを利用して、コンセントもしくは予備バッテリーなどからの充電も可能だ」


 酒井さんはしゃべり過ぎてのどが渇いたのか、お母さんの準備した紅茶を飲んで一息ついた。


 「あらやだ・・・すんごい高性能・・・でも、お高いんでしょう?」


 お父さんはテレビの通販番組みたいなセリフを言いながら笑っている・・・。


 「まぁ、それなりにはね・・・実際、節電義手が出てきたころは150万円くらいはしていたらしいが、3Dプリンターの普及で価格は下がった・・・でも、この義手は元々アメリカが負傷した軍人用に造り出したものだ・・・それを日本で改良し、日常生活でも役立つように色々と仕様変更も行っている。

 正直、この手首だけでオプションフル装備の高級セダンが新車で買える値段だよ・・・」


 「で、そんな凄い物を何故俺に?負傷した自衛官の中にも俺と同じく欠損した人たちはいるでしょう・・・なら、その人たちから先に使わせてあげるべきなのではないですか?」


 お父さんは腕を組んで酒井さんを見る・・・お父さんは乗り気じゃないみたいだ。


 「上もね、最初はそのつもりで話を進めていたらしいんだよ・・・それで、いざ彼らにこの話をしたら、自分たちよりも君の方が先だって言って断固拒否されたらしいよ」


 酒井さんは困ったように笑っている。


 「うーん・・・そう言って貰えるのは有り難いんだけどなぁ・・・」


 「実際、アメリカでの評価はかなり良いらしい・・・私としては、これを使えば君の生存率も向上すると思っている・・・片手では対処しきれない場面もあるだろうし、そういう時のためにも必要だと思うんだ・・・私は、君には必ず美希さん達の元に帰ってきて欲しいからね」


 「それはそうなんですけど、実際に使ってみないと何とも言えないんですよね・・・だからと言って、これを使うために手術したあとで、やっぱり駄目でしたなんて言えないですし・・・」


 お父さんは天井を見ながら悩んでいる・・・。

 もしお父さんが手術をして右手が使えるようになったら、また私と手を繋いでくれるのかな・・・そう思って私はお父さんの右手を見た・・・。

 すると、私は上から視線を感じた・・・恐る恐る顔を上げると、お父さんと目が合ってしまった・・・。

 お父さんは私に優しく笑いかけてくる・・・。


 「まぁ、急いで決めなくても良いよ・・・君の考えも最もだし、どうするか決まったら連絡を貰えるかな?」


 酒井さんは悩むお父さんを見て苦笑いをして義手をアタッシュケースにしまう。


 「いえ、その話受けさせてもらいますよ!」


 お父さんは笑顔のまま顔を上げて酒井さんを見る。


 「良いのかい?もう少し考えてからでも良いんだよ?」


 「いえ、もしそれで右手が使えるようになったら、また千枝と手を繋いであげられるかなと思いましてね・・・。

 さっき帰ってくる時も荷物を持ってて出来ませんでしたし、悠枝と夏菜枝が大きくなった時にも手を繋いでやりたいじゃないですか・・・」


 お父さんは酒井さんにそう言って、もう一度私に笑いかけてくる・・・。


 「お父さん・・・ごめんなさい・・・」


 私はお父さんに申し訳なくなって泣きそうになった・・・優しいお父さんなら、私があんなことしたら気を使うってわかってたのに・・・。

 自分の浅はかさが情けなくなって泣きそうになってしまった・・・。


 「なんで謝るんだよ・・・可愛い娘にあんな顔されるなんて父親冥利に尽きるってもんだ!

 俺もな、申し訳なく思ってたんだよ・・・千枝に寂しい思いをさせてしまって申し訳なく思ってたんだ・・・。

 だから、せめてこのくらいはな・・・美希も良いかな?」


 「良いに決まってるじゃないですか・・・ただ、右手が使えるようになったら千枝だけじゃなくて私とも手を繋いでくださいね?」


 お母さんも私を見て笑顔で頷いてくれた。


 「おぉ・・・なんかモテ期到来な感じ?」


 「ははは、やっぱり君は家族の事となると思い切りが良いな・・・君は本当に良い夫であり、良い父親だよ。

 では、手術の日取りなどが決まったらまた連絡するよ」


 「千枝ちゃん、良かったわね!」


 酒井さんと玉置さんは笑顔で私を見て席を立つ。


 「酒井さん、玉置さん・・・また遊びに来てね・・・」


 私は遠慮がちに2人に願いしてみた。


 「あはは、千枝ちゃんにおねだりされたら来ない訳にはいかないわね!

 またね千枝ちゃん、今度は休暇の時にゆっくり遊びに来るわね!」


 「また妻と一緒に遊びに来させてもらうよ!では、そろそろお暇させてもらうよ。

 美希さん、いつも美味しいお茶をありがとう」


 2人は玄関を出ると、手を振って車で帰って行った。


 「さてと、一応皆にも報告しとかないとな・・・手術となると入院になるだろうし、前もって出来る仕事は済ませとかないとな!」


 「私も必要な物の準備はしときますね!」


 お父さんとお母さんは、これから手術に向けて何かと忙しくなりそうだ・・・。


 「どうした千枝?」


 私は玄関の外で俯いていた・・・お父さんに合わせる顔が無いと思っていたから・・・。


 「お父さん・・・ごめんなさい・・・私の我が儘のせいで・・・」


 私は涙が出てしまった・・・お父さんは笑顔だったけど、本当はもっと考えたうえで話を受けたかったんだと思う・・・。

 それなのに、私の為にと言って話を受けてしまった・・・それが申し訳なくて涙が出た・・・。


 「千枝、おいで・・・泣かないでくれよ・・・俺はな、本当に嬉しかったんだよ。

 俺は、危険な仕事をしてて家に居ないことが多いし、手を繋いでもやれない・・・それが気がかりで、もしかしたら千枝に嫌われてしまうかもしれないって心配してたんだ。

 でも千枝のあの顔を見て、俺は手術を受けたいって思ったんだ・・・そうすれば、千枝に何かお返しが出来るんじゃないかってさ。

 だから気にしないでくれ・・・俺は、千枝には嬉しそうに笑ってほしいな」


 お父さんはそう言って、私を抱き上げる・・・お父さんは、泣きそうだけど優しく笑っている。


 「お父さん・・・」


 「ん?」

 

 「ありがとう・・・大好きだよ・・・」


 「あぁ、俺も千枝の事大好きだよ・・・」


 私が抱き着くと、お父さんは優しく抱きしめてくれた。


 

 


 

 

 今回出てきた義手に関しては、想像上の物として読んでいただけたら幸いです(汗)

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