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The End of The World 〜休日〜  作者: コロタン
11/15

第11話 スタートライン(前編) ~鬼塚 亮仁~

 今回も長めなので、前後編になっております。

 眼前に、見渡す限りの青い空と海が広がっとる・・・。

 世界がぶっ壊れたなんて想像も出来んくらいに長閑な風景や・・・

 

 「はぁ・・・ほんま何なんやあいつは・・・」


 目の前に広がる景色とは裏腹に、俺の心中は曇りまくっとる・・・。

 俺はちょっと前まで関西では結構名の売れた族の総長をやっとった・・・族辞めてボクシング初めてからも日本ランキング上位に入るくらい腕っぷしには自信がある。

 自分で言うのもなんやが、結構人付き合いはこなせるほうで、仲間内からは兄貴なんて呼ばれとる。

 昔から縁には恵まれとったからか、俺から人を嫌いになることは殆どない・・・まぁ例外はあるんやけども。

 顔を合わせばしょっちゅう喧嘩しとった奴等でも、俺が腐っとる時にらしくないと励ましてくれたり、ボクシング始めた時には金欠なんにも関わらず、毎試合見に来てくれとった・・・。

 せやから、俺は自分からは基本相手を嫌いにはならへん・・・喧嘩しとっても、話してみれば良ぇ奴等は仰山おる事を知っとるからや。

 せやけど、俺は今嫌いな奴がおる・・・いや、嫌いな奴がおったと言った方が正しいんかもしれん。

 そいつの名は井沢 誠治、俺と同じ組織の九州をまとめとる男や・・・。

 最初は俺も井沢の事は嫌いや無かった・・・むしろ、あいつの戦っとる映像を見せられて、どえらい奴がおったもんやと思っとったくらいや。

 一度会って話してみたい、やりあってみたいとも思っとったんやけど、あいつの事を知るにつれ、俺はあいつが嫌いになってもうた。

 あいつは世界が変わったあの日、彼女を亡くしたって聞いとった・・・それはまだ良ぇ、俺も惚れた女を亡くしとるから、あいつも俺と同じやとちょっとした親近感を覚えとった。

 まぁ、俺の惚れた女の場合は事故死なんやけども・・・そいつはレディースの総長をしとったが、片親で、小さい弟の面倒をしっかり見とる良ぇ女やった・・・それが、単車転がしとった時に、飛び出してきたガキ避けて電柱にぶつかって逝きよった・・・。

 葬式ん時、俺は自分の惚れた女の顔を見てやれんかった・・・ヘルメット無しやったそいつの顔は、包帯を何重にも巻かれて見れん状態やったんや・・・。

 俺は、そいつがおらんくなってから、一度も女をつくっとらん・・・俺にとっては、死んでもうたあいつだけが心底愛した女やったから・・・。

 惚れた女に変わりはおらんのやから・・・。

 せやけど、井沢は違った・・・命からがら生き延びて、すぐに別の女つくっとった・・・俺はそれが許せんかった。

 死んだ彼女の事は忘れたんかと思った・・・愛しとったんやないんかと思った。

 せやから、俺は井沢と顔を合わすたびに喧嘩腰で突っかかった・・・本気で一度いわしたろうと思っとった。

 それが、1か月前からどうにもあいつの事が解らんくなってもうた・・・。

 1か月前、俺等四国、北海道の局長や副局長が九州に呼ばれ、井沢等と合同で自衛隊が開発中の機材の試験をやらされた・・・。

 そん時井沢が問題起こして、最後にあいつは泣いとったんや・・・彼女を死なせたことを、自分があかんかったって言うて泣いとった。

 それを見て、俺は目を逸らした・・・バツが悪かったんもある・・・俺は勝手に勘違いして、あいつは死んだ彼女を捨てたと思っとったんやから。

 ただ気になるんは、今の嫁さんはどうなんやってことや・・・嫁さんは死んだ彼女の代わりなんか?

 せやから自分から死地に向かっとんのかと思ってまう・・・それやと嫁さんがあまりにも可哀相や・・・。

 俺の周りの連中は、口を揃えて井沢は家族を大切にしとるって言うとる・・・せやったら何であんな仕事を一人で続けとったんや?

 俺はそこが解らんくてずっと悩んどる・・・。


 「はぁ、ホンマむかつくわぁー・・・なんなんあいつ」


 「誰がむかつくって?」


 俺が愚痴をこぼしとると、後ろから声が聞こえた・・・振り替えって確認すると、俺の悩みの種の井沢やった。


 「なんやお前か・・・なんでもないわい!で、何の用や?」


 「あっそ、田尻艦長からお前を連れてきてくれって頼まれただけだよ・・・」


 「そか、ほな行こか・・・って隣くんなや!仲良ぇ思われるやろ!」


 俺が立ち上がって歩き出すと、井沢が隣を歩きだしおった・・・。

 

 「行く方向が同じだろうが・・・いちいち吠えんな犬じゃあるまいし」


 井沢はため息をついて一歩下がる。

 誰が犬や誰が・・・。

 俺が今居るんは、海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦の甲板のうえや。

 今日は俺の適正試験をするっちゅうことで乗せて貰っとる。

 その試験に合格すれば、俺は井沢と同じく救助作戦なんかで危険な任務に就くことになる・・・。

 話が来た時、俺は二つ返事で話を受けた・・・これで井沢に並べると思ったからや。

 そうすれば、こいつが何なんか解るかもしれんとも思った。


 「井沢です、鬼塚を連れてきました」


 俺らが艦内にある艦長室に前に着くと、井沢が扉をノックして中に報せる。


 「ありがとう井沢君、どうぞ入ってくれ」


 「失礼します」


 井沢が扉を開けて中に入ると、そこには艦長の田尻と副艦長の酒井、陸自の櫻木がおった。


 「急に呼び出してすまなかったね・・・艦内はどうだったかね?」


 「広いんか狭いんかようわからんですね・・・甲板は広いんやけど、色々とごった返しとったんで・・・」


 俺は艦に乗って挨拶を済ませてから、しばらく一人で艦内を見て回っとった。

 デカい船にも関わらず、通路が狭いのが印象的やった。


 「ははは、まぁ仕方ないんだよ・・・今回は色々と持って行くものも多くて、この艦じゃないと積みきれなかったんだ。

 艦内散策はまたの機会にでもゆっくりしてみると良い。

 では、本題に入ろうか・・・今回の君の適正試験についてなんだが・・・」


 「その前に一つ聞いときたいんやけど・・・」


 田尻の話の腰を折ってしまったが、知りたいことがあった・・・。

 俺を真っ先に指名してきた理由や。


 「あぁ、構わないよ・・・何が聞きたいんだね?」


 田尻は笑顔で了承してくれた・・・怒っとらんようで良かった。


 「なぜ俺を選んだんか、選考基準とかあったんでっか?」


 俺の言葉に田尻、酒井、櫻木は揃って井沢を見とる・・・選んだんこいつやったんか。

 日頃の憂さ晴らしか?

 いや、こいつはそんなんするくらいなら直接くるやろな・・・。


 「井沢、何を基準に俺を選んだんや?」


 「戦闘経験、技術、交渉が出来るかどうか、そう言ったところを俺が見て、俺の資料を基に上が決めた。

 別に日頃の憂さ晴らしではないから安心しろ・・・俺としても不本意だったんだ」


 井沢は俺を見て渋い顔をしとる・・・まぁ嘘はないやろ。


 「これが井沢君が作った資料だ・・・見てみるかね?」


 「見せないでくださいよ!俺がこいつの事どう見てるかなんて知れたら恥ずかしいじゃないですか!!」


 田尻が書類の束を俺に差し出すと、井沢は慌てて書類を奪おうとした。

 俺は井沢に取られるよりも早く資料を受け取ってチラつかせると、めちゃくちゃ悔しそうにしとった。

 酒井と櫻木はそれを見て笑っとる。


 「なになに?まずは榊か・・・戦闘についてはB-、交渉はA・・・なんやこれ」


 「基本はS、A、B、C、Dの5段階で、A~Dはそれに+と-を入れて全部で13段階で評価したんだよ」


 「榊のこれは良ぇ方なんか?」


 俺が聞くと、井沢は腕を組んだ。


 「良くも悪くも普通だ・・・榊君は頭脳派だから戦闘技術の方はA型は大丈夫だがB型はまず無理だろう、交渉に関しては大丈夫と判断した・・・彼は礼儀も出来てるし、人とは波風立てない性格だからな」


 「次は・・・瀧本さんか」


 俺は手にした資料をめくっていく。

 

 「元気は戦闘技術はB+~A-、交渉はSだ・・・。

 あいつは最近歳のせいか動きがな・・・それに、もともと一人より複数人での戦闘で指揮を執るのが得意だ・・・だが、B型でも1体か2体なら大丈夫だろうと思ってA-だ。

 交渉は言わなくても解るだろ?あいつは言葉使いは荒いが、不思議と人を惹きつける・・・あいつの言葉には安心感があるんだよ。

 それは交渉の時に武器になる・・・なのでS評価だ。

 次は午来さん、彼女は戦闘経験はあるがA型でも時折危なっかしい・・・血も見慣れていないしな。

 だから戦闘はC-だ・・・その代わり交渉はSとなってはいるが、実際ならS+でも良いと思っている。

 業天さんも同じような感じだな・・・彼も戦闘はB-と言ったところだが、交渉はS評価だ。

 隆二は戦闘A、交渉はB+だ・・・」


 「伊達は瀧本さんより強いんか?」


 「あいつはまだ若い・・・昔はお前と一緒でヤンチャだったみたいだし、なかなか勘が良いし動きも申し分ない・・・経験を積めばA+まで行くだろう。

 交渉B+に関しては、あいつも俺と出会った頃と違って大人になった・・・子供が生まれてからは特に精神面が成長している。

 今後の伸びしろを考えると、A-もしくはAにはなるだろう。

 で、最後にお前だ・・・お前は戦闘S、交渉はBと判断した」


 戦闘Sは俺だけのようや・・・。


 「なんで俺だけ戦闘がSなんか理由を教えてくれへんか?」


 「まず、お前は身体能力が他の面々とは段違いだ・・・この選考をするうえで、お前の過去の試合映像を見せてもらったが、重量級らしく殴り合いのインファイトも出来れば、足を使ったアウトボクシングも出来る器用さを持っている。

 さらに、お前はカウンターでダウンを取ることが多い・・・それはB型相手にはこの上ない武器となるだろう。

 交渉に関しては、本当ならB+かA-を付けても良いと思っている・・・お前は基本的に人を嫌わない。

 元気や業天さんなど年上に対しては言葉使いはなっていないが礼儀は通す・・・基本人懐っこい性格だと思っている。 

 だが、例外として俺のように気に食わない人間には誰であろうと噛みつく・・・要救助者の中にお前の嫌うタイプの人間が居た場合、お前が性格上それに耐えられるかの不安もある・・・よってBに留めた」


 概ね井沢の言った通りやと思う・・・やけど、あんだけ喧嘩しとっても俺の事をしっかり見ていることが癪やな・・・。


 「お前自身の評価はどうなんや?」


 俺が井沢に聞くと、何故か田尻たちが苦笑しとる。


 「私達も参考までに井沢君に自己評価をして貰ったんだが、なんというか自分を過小評価し過ぎているように思えるよ・・・」


 田尻は隠し持っていたのか、もう一枚書類を取り出した。

 俺はそれを見て井沢に怒鳴ってもうた・・・。


 「おい、お前戦闘A+てどういうこっちゃ!!なんでお前が俺より低いんや!!?」


 「それが妥当と判断した」


 「これやと、伊達はいずれお前と並ぶってことかい!?」


 「そうだ・・・あいつは経験を積めば俺と並ぶと思っている。

 少々サボり癖はあるが、スジは良い・・・仲間のためなら身体を張れる勇気も持っている。

 いずれ、俺が引退・・・もしくは死んだ時には、俺の後を継ぐのはあいつ以外居ないと考えている」


 井沢は俺の目を真っすぐ見据えとる・・・。

 こいつは伊達の事をえらい評価しとるようや・・・。


 「そうかい・・・せやけど、お前のこの戦闘A+には納得いかん!解るように説明せぇ!!」


 井沢は俺に詰め寄られてため息をつく・・・。


 「俺がお前の方が上だと判断したのにはちゃんとした理由がある。

 まず、身体能力で言うなら俺はお前にも負けない自信はある・・・軟な鍛え方はしていない自負はあるからな。

 次に俺とお前の違うところ・・・まずは武器についてだが、俺の使う武器は大鉈がメインだ。 

 鉈は広範囲の奴等を同時に倒すことが出来るが、狭い路地では使えない・・・その都度武器を変える手間が掛かる。

 お前の場合はメリケンサックだが、狭い路地では小回りも効くし良いが、広い場所で囲まれた場合対応しきれなくなる・・・よって武器に関しては優劣は無い。

 だが、戦闘スタイル・・・これが俺とお前に差をつけている。

 俺の鉈は、リーチの内側に入られた時に無防備になりやすい・・・特に俺の場合右手が使えない分対応が遅れれば命取りだ。

 それに左手だけではB型に組み付かれた場合対処できるかが不安要素でもある。

 だが、お前の戦闘スタイルはどうだ?自分の拳が届く範囲なら、それが例えゼロ距離でも基本的に有効打を与えられる。

 両手が使える分銃火器の使用も出来るし、奴等を掴んで投げるなどの応用も効く。

 これがお前をS、俺をA+にした理由だ・・・まぁ、それとB型はお前向きの個体だってのもある。

 B型は基本一直線にこちらに向かってくる・・・避けることもせず、タイミングも取りやすい。

 カウンターの打てるお前にとっては格好の的だろう。

 交渉A+に関しては、俺は少々感情的になりやすい・・・それを差し引いてA+だ。

 他に何か聞きたいことはあるか?」


 井沢は表情も変えずに淡々と答えとる・・・。

 自分の事もこんだけ分析するとかこいつ真面目やな・・・。

 俺は内心呆れとったが、ため息をついて気持ちを切り替えた。


 「はぁ・・・もう良ぇわ・・・。

 艦長はん、話の腰おってもうてすんませんでした!」


 「いやいや、構わないよ。

 まぁ、君が気にするのも仕方のない事だろう・・・この試験の結果次第では、君も井沢君と同じくあの地獄に戻ることになる。

 他人の評価を知ることで自分では気づかなかっと事を知り、それを改善し役立てる事もできる。

 どの道君にはこの評価の結果を見てもらうつもりだったんだ、だから気にしないでくれ。

 では、今回の試験の内容を説明させてもらう・・・櫻木一尉、資料を」


 「はい・・・まぁ見知った顔ばかりですし、自己紹介は省かせてもらいます。

 現在我々は関東から南東に5kmほど離れた場所にある元有人島に向かっています・・・元と言うのは、すでに生存者が居ないことがわかっているからです・・・。

 そこは人口3000人ほどの島でしたが、奴等の侵入を許し、壊滅しましたと思われます・・・。

 今回鬼塚には、お前と俺のチームと井沢さんの計8人、フォーマンセルの二組に分け、転化した元島民の討伐を行ってもらうことになる。

 そこでの鬼塚の行動などを井沢さんが見て、最終的な判断をすることになっている。

 この作戦は、その島を我々の拠点とし、今後関東攻略への足掛かりとするためのものになる」


 「3000でっか・・・8人でいけるんやろか?」


 「それに関しては心配しなくていいよ。

 まずコブラで島の上空を旋回し、奴等の大半を港に集めて一掃するからね。

 全てが釣られる訳ではないので、君と誠治君達には島内に残った奴等の掃討をお願いしたいんだ」


 それまで殆ど喋らなかった酒井が、資料から目を上げて俺を見る。

 なんや複雑そうな顔をしとるのが気になる・・・。


 「本当は我々の仕事なんだけどね・・・誠治君をはじめ、君達には申し訳なく思っているよ」


 「何言っとるんすか酒井さん、そんなんこの国で暮らしとるんやから当然ですって!なぁ井沢!?」


 井沢は俺の言葉に黙って頷いた。


 「ははは、本当に君達には頭が上がらないよ・・・」


 酒井は申し訳なさそうに笑っとる。


 「さて、目的の島まではもう少し掛かる・・・もうしばらくゆっくりしておいてくれ」


 田尻の言葉でお開きとなり、俺はまた甲板に向かうことにした。

 だが、それを見ていた井沢に捕まってもうた・・・。


 「おい鬼塚、ちょっと櫻木さんとこに行くぞ」


 「なんでや?」


 「お前、まだ他の人たちと会ったことないだろ?今装備の点検で集まってるだろうし、今のうちに顔覚えとけ」


 「せやな・・・まぁ暇やし行ってみよか」


 俺は井沢の後について行き、格納庫のような場所で6人のむっさい男たちを見つけた・・・玉置の姐さん居れば良ぇのになぁ・・・全く花が無いで。


 「おいーっす櫻木さん、点検どんな感じ?」

 

 「おっ、井沢さんと鬼塚か・・・なんか二人が揃って歩いてると調子狂うな」


 「いやいや、俺だってこいつが絡んでこなければ普通よ?か弱い漢の娘よ?」


 「井沢さんがか弱かったら俺なんて蟻ですって!」


 「櫻木さん、蟻をなめちゃいけないよ?あいつらなんだかんだで種族的には蜂に近いのよ?

 毒のあるのもいるし結構危ないのよ蟻さんは」


 「俺、蟻に謝った方が良いですかね?」


 「良いんじゃね?蟻様は俺らの言葉理解できないし」


 相変わらずこの二人は顔を合わすとしょーもない会話をしよんな・・・。

 他の連中も呆れとるやないか・・・。


 「で、ぶっちゃけどうしました?」


 「あぁ、皆に鬼塚を紹介しとかないといけないだろ?こいつ初めてだしね!」


 「鬼塚言います・・・今日はよろしく頼んます」


 「あぁ、君が鬼塚君か!君、よく井沢さんに喧嘩売れるよね・・・俺なんてちびる自信あるよ」


 他のメンバーより細めの隊員が俺を見ながら身震いしとる・・・こんなんで大丈夫なんかこの人?


 「鬼塚、この人見た目こんなんだけど気を付けろよ?永野さんは、国内でも五指に入る射撃の名手だからな・・・俺も最初会った時はただのひょろい人って思ったが、この人のスナイピング見ると言葉も出ないぞ。

 からかって恨まれたら、ゴルゴ並みの業で狙撃してくるからな・・・」


 「そんなことしませんよ!俺の頭割ろうとしてた人が何言ってんすか!?」


 「あれは永野さんが悪い!それより、禁煙はどう?辛くない?」


 「あぁ・・・最近は慣れてきましたね・・・井沢さんは良くやめられましたね」


 「ははは、俺は鋼鉄の精神力をもっているからな!何があっても動じない不動の心の持ち主だ!」


 井沢は胸を張って笑っとる・・・なんなんやこいつのこの緊張感の無さは・・・これから任務ちゃうんか?

 せやけど、他の隊員も皆井沢を見て笑っとる・・・大丈夫なんかこの人等・・・。


 「俺の喧嘩買うんは誰や?」


 俺が話しかけると、井沢は首をかしげる。


 「・・・俺だな」


 「不動の心は何処に行ったんや?忘れてきたんか?それとも無くしたんか?」


 「馬鹿を言うな!俺の不動の心は、つねにポッケにないないしてるわ!」


 「そのポッケ穴空いとるぞ・・・」


 「あれ?美樹に縫ってもらったと思ってたんだけどな・・・」


 井沢は胸ポケットをまさぐる・・・そっちのポッケかい。


 「そうだ・・・櫻木さん、頼んでたもの持ってきてるかな?」


 井沢が胸ポケットをまさぐりながら櫻木に話しかける。


 「あぁ、出来てますよ・・・正直これはめちゃくちゃ出来が良いですよ」


 「マジか・・・俺の分も頼んでくれた?」


 「えぇ、井沢さんにはちゃんと首用のパーツも作って貰いました」


 「おぉ・・・それは申し訳ない・・・今度またお礼するよ!」


 井沢と櫻木は格納庫の隅でこそこそとし始めよった・・・なんなんやいったい・・・。


 「おほんっ!あー鬼塚・・・」


 「なんや改まって・・・」


 櫻木と話しとった井沢は、後ろ手に何か持ちながら俺に近づく・・・。


 「まぁ、今日の任務はB型も結構居て危ないからな・・・お前は実際にB型を相手するのは初めてだろうし、せめてこいつで顔を守れ」


 井沢が俺に手渡したのは、どっかで見たことあるような鉄の仮面やった・・・なんちゅう趣味や・・・。


 「おおおおお!ガス様!ガス様だ!!」


 俺が渡された仮面を見て隊員たちがどよめく・・・ガス様ってなんや?


 「お前、ガス様知らないの?不良なのに?」


 「知らんわんなもん!なんなんやガス様て!?」


 「ガス様って言うのはな・・・正式な名前はヒューマンガス、無法の荒野の主で暴走族のカリスマにしてロックンローラーのアヤトラだ!

 お前に渡したそのフェイスガードと革のサスペンダーしか身に着けていないという世紀末なファッションセンスを持っているが、それが気にならないほどの筋肉を身に着けた、マッドマックス2に登場するカリスマ指導者だ!!

 攻撃する相手にも、まずは話し合いを試みようとする器のデカいお方だ・・・お前にはそういう男になって欲しいと思い、櫻木さんのご友人に頼んで造って貰った!!

 一応、目の部分には強化ガラスを入れてあるから、奴等の血が目に入ることは無い・・・お前は俺みたいなメットだと動きにくいだろうし、せめてこのぐらいはと思ってな・・・」


 なんとなく照れくさそうな井沢は正直きしょい・・・まぁ、貰えるもんは貰っとこう。

 こいつが言うんなら実際持っといた方が良ぇんやろうしな・・・。


 「まぁ、なんやわからんけども・・・有り難く使わせてもらうわ・・・」


 俺が礼を言うと、井沢は笑顔になった・・・この男は、俺が絡まん限りは本当にこんなんなんやろな・・・。

 俺が思っとるんと違うんか?こいつは俺が嫌いな種類の人間や無いんか?さっきも嫁さんの名前を出しよったし、やっぱり皆の言う通り家族思いの男なんか?

 正直、何度考えても全く答えが出ぇへん・・・今日、任務が終わったら直接聞いてみるのも良ぇかもしれんな・・・。

 


 

 


 


 

 

 


 

 


 

 


 

 

 


 

 

 

 

 

 

 


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